大手通信会社による通信障害はさまざまな教訓をもたらした。携帯電話以外にも数多くのサービスで回線を利用していることが改めて脚光を浴びた。ある財界人は「全てスマホ頼みでいいのか、と問われているように感じた」と話す。知人とのやりとりだけでなく、情報収集、地図検索、ネットバンキング、支払いなど、多岐にわたるサービスをスマホだけで享受している人は少なくない。「便利なようだが、通信が途絶しただけで生活基盤が崩れてしまうわけだ」とIT関連大手の取締役も務めたこの財界人は苦笑いを浮かべた。
▼スマホが使えなくなると、固定電話や公衆電話の利用が呼びかけられた。デジタルの時代でもアナログ的なものが欠かせなくなる証拠だ。一方で、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれている時に、旧来設備を維持しようとすると、コストがかさむ。「一番ショックを受けたのは店舗やATMを減らそうとしていた金融機関だろう」と経済官庁OBは指摘する。「やはり現金のやりとりは補助貨幣を含め欠かせない」という。
▼ロシアによるウクライナ侵攻を契機に原材料価格の高騰が続いている。一国の為政者の指示の結果、企業が予想した費用が大幅に上昇してしまう。ベテランの経営者でも、そんな事態を予測するのは困難だ。ただ、自社の主力事業やサービスを維持するために、想定外の事態にある程度備えることも、経営者に課せられた責務と考えられる。備えを維持するために必要なコストについては、その理由を株主や取引先金融機関に明解に説明する必要があろう。逆に投資家らには、中長期的な事業継続に不可欠な費用は評価する姿勢が求められる。
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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