近年、地域資源の発掘や活用法の検討、市場調査から、商品開発、販路開拓(商談・ビジネスマッチング)、販売促進まで、地域の生産者の活動を全面的に支援するとともに、地域の〝稼ぐ力〟の向上に大きく貢献している「地域商社」の活躍が注目されている。特集では、すでに域外への販路拡大に成功し域内の経済循環に結び付けている取り組みや、ふるさと納税の返礼品やECの活用、地域全体のブランディングなどで成果を上げている事例を紹介する。
地域資源をトータルブランディング「足利ブランド」として広く発信
銘菓や工芸品、農産物や観光など、数ある地域資源を個々にPR・販売するのではなく、トータルブランディングで売り出す。その趣旨の下、2010年に「足利ブランド創出協議会」が設立され、その事務局を足利商工会議所(相馬稔会頭)に置いた。設立から10年超、今なお産学官11団体が協力し、「足利ブランド」を根強く発信し続けている。
脈々と受け継がれる良質なものづくりDNA
栃木県足利市は、足利氏発祥の地という歴史ある地域だ。古くから織物業で栄え、大正から昭和初期までは足利銘仙がブレイクしてまちは活気に満ちていた。工業や農業、そして食文化も豊かで、良質なものづくりDNAが脈々と受け継がれている。市内には日本最古の学校、史跡・足利学校や、大藤が圧巻のあしかがフラワーパーク、世界最大級の陶磁美術館の栗田美術館など、日本一を誇る足利三名所があり、多くの文化遺産や風光明媚(ふうこうめいび)な風景が点在している。
地域の魅力は枚挙にいとまがないが、こうした魅力を自ら声高に発信するタイプの地域ではない。だが、2010年に点と点とを結ぶ動きが生まれた。足利商工会議所の創立70周年を機に、地域の特産品を一つのブランドとして全国へ発信する「足利ブランド創出協議会」が発足した。
「足利ブランドとすることで個々では出展をためらっていた展示会にも出やすくなり、市外の人にも説明しやすく、認知されやすい。さらにブランド認定されれば、PRや販売促進にかける時間やコストをオリジナル商品の開発に当てることができます。新商品の開発や販売支援などを通じて足利市のイメージアップや地域産業の発展に寄与したいという思いからブランドが立ち上がりました」
そう語るのは足利商工会議所中小企業相談所の前原達哉さんだ。同協議会の事務局の前任者で、22年4月に事業を引き継いだ商業観光課の長島匠さんが続ける。
「構成団体は商工会議所を含めて11団体で、行政機関や農業協同組合、金融機関、大学、地元テレビ局などです。観光や農作物など商工会議所単独では扱うことが困難なものも販促できることに協議会設立の意義があります」
オール足利で、足利ブランドの認定が始まった。
ブランド認定に励み 新商品開発の士気向上
では、足利ブランドをどう認定していくのか。まずは多彩な特産品を①食品部門(菓子や惣菜、飲料など)、②ものづくり部門(繊維や雑貨)、③飲食店部門の3部門に分け、足利市内で生産または加工している材料が入っているもの、飲食店は市内に店を構えていることを条件とした。さらに足利ブランドを認定する約40人からなる「足利ブランド評価委員会」を設けた。同協議会メンバーをはじめ、足利商工会議所の女性会や青年部、地元の専門学校や高校などに参加を募り、審査をパスして初めてブランド認定される。委員も年齢や男女比、業種や職種のバランスを考慮して構成。味や品質、市場性などのチェック項目の基準値を超えれば合格という明快な仕組みだ。
「コロナ禍前は80人構成だったのですが、密にならないように人数を減らして今に至ります。それでも3分の1は高校生や専門学校生を含めた若い世代で、彼らの意見を取り入れるように工夫しています」(前原さん)。
ユニークなのはブランド認定が3年間の有限であること。認定数は毎回20~30社40品目ほどで、現在、21年4月~24年3月までの第5回のブランド認定が実施されている。同じアイテムの再申請は可能であるものの、入れ替わりが多いという。
「和菓子、そば、ワインは足利の三大名物で、ブランドとして不動のアイテムは確かにあります。しかし足利ブランドができて、加速したのが新商品の開発です。ブランド認定が目標や励みになって、地域事業者の士気が上がったように感じています」と前原さんは語る。
新たな課題と向き合いつつさらなる販路拡大へ
実際に回を重ねるごとに新商品を開発する事業者が現れたり、初認定された商品が、期間限定の出店販売で〝出せば売れる〟人気商品になったりしているという。
その背景には、同協議会のバックアップがある。足利ブランド認定商品のカタログを作成し、地域の関係団体や公民館に配布。足利商工会議所のホームページで紹介したり、東京スカイツリーで開催された、栃木・群馬・茨城3県合同イベントに出店したり、市内外に広く発信している。中でも日本商工会議所主催の展示商談会「feel NIPPON」には毎春、足利ブランドとして出展しており、昨年は「あしかが大麦餃子」の成約が5件、特許取得の「抗ウイルス性衛生マスクフェイスウェア」の商談件数5件など、成果を上げている。
「逆に浮上してきたのが、大手百貨店からの引き合いがあっても、大量受注できない小さな事業者への対応という課題です。事務局としてどこまでフォローしていくか、支援がプレッシャーになっていないかを見極める段階にきています」と前原さん。
長島さんも「個別対応を進めつつも、まだまだ広報宣伝活動と販路拡大の途上です」と語る。足利ブランド認定品カタログの電子化で全国への販路開拓に努め、首都圏や近隣で開催のイベントに積極的に参加。SNSの中でもインスタグラムの活用で認知と販路の拡大を目指すと前向きだ。
会社データ
団体名: 会
所在地:栃木県足利市通3丁目2757
電話:0284-21-1354
【足利商工会議所】
※月刊石垣2022年8月号に掲載された記事です。
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