Q 当社では、グループ会社間で出向という形で人事交流を行っています。ある会社に出向させていた者に出向解除すると伝えたところ、その社員は出向先の居心地がよいので、出向解除は受けられないと言ってきました。
その社員は当社の社員の身分を持ったまま出向していた者です。どのように対処すればよいでしょうか。
A 在籍出向の場合は、出向元との労働契約が維持されるため、出向元と出向する社員との間で出向元に復帰することがない旨の合意を行っていたと認められる事情がない限り、出向元は出向社員の同意なくして出向解除を命じ、出向元の会社での労働を命ずることができます。
出向とは
出向とは、労働者が使用者(出向元)に対して労務を提供する(労働に従事する)のではなく、第三者(出向先)において、その指揮監督を受けて当該第三者に労務を提供する労働形態のことをいいます。労働者派遣とは、出向先との間で労働契約関係が存在する点で異なります。
在籍出向と転籍出向の違い
出向には、大別すると、①出向元の従業員たる地位を維持したまま(出向元との労働契約は存続)、出向先の指揮監督の下に労務を提供するいわゆる「在籍出向」と、②出向元との労働契約を終了させた上で出向先との間で新たに労働契約を締結するいわゆる「転籍出向」とがあります。
前者の在籍出向については、「出向者が出向先との間で新たに労働契約を締結する場合」と、「出向先との間に労働契約を締結することなく、出向先で労務を提供する場合」がありますが、この場合でも出向先との間では労働契約関係があると解されます。出向解除についても、在籍出向と転籍出向を分けて考える必要があります。
出向元との労働契約が維持された在籍出向における出向解除
在籍出向は、出向元との労働契約を維持したままで、出向先に労務を提供するものですから、出向が解除され、出向元で指揮監督を受けて労働に従事することは元々の労働契約で予定されていることです。
従って、出向時に出向元に戻ることなく、出向先にいずれ転籍になるとか、出向先で定年を迎えるなどの合意が出向元と労働者との間で成立していると認められない限り、出向解除について、特に労働者の同意は不要ということになります。
出向元との労働契約が終了する転籍出向における出向解除
一方で、転籍出向は、出向元と労働者の労働契約を終了させ、新たに出向先と労働者との間に労働契約を締結するものです。
従って、転籍出向の場合の出向解除は、出向先と労働者間の労働契約を終了させ、再度労働者と出向元間で労働契約を締結するというものです。
労働者にすると、転籍出向した時点で出向元には戻らないと考えるのが通常ですので、出向元に戻れということは労働者の想定にも反することです。転籍出向において、出向解除するときは、労働者の同意の下で行わなければなりません。
出向先の居心地がよくても
ご照会の事例は、ある会社に出向させていた者に出向解除すると伝えたところ、その社員は出向先の居心地がよいので、出向解除は受けられないと言ってきたというものです。在籍出向の場合は、出向元の会社と出向する社員との間で出向元に復帰することがない旨合意していたと認められる事情がない限り、出向元の会社は社員の同意なくして出向解除を命じ、出向元の会社で勤務することを命ずることができます。
出向解除が適法とされた事例には、昭和60年4月5日最高裁第2小法廷判決(最高裁民集39巻3号675頁)などがあります。 (弁護士・山川 隆久)
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