元アイドルグループSKE48の梅本まどかさんは、タレント業のほかにモータースポーツ関連の活動も活発だ。それも単なるバイクや車好きのレベルではない。ラリーのコ・ドライバー(ナビゲーター)として競技に参戦し、全日本ラリー選手権に出場する腕前を持つ。地元名古屋でマルチに活動する梅本さんを訪ねた。
オーディションの合否で決まった夢の矛先
梅本まどかさんは「やってみたい」という好奇心に真っすぐだ。3歳からクラシックバレエを始め、ジャズダンスなどダンス全般が得意な少女へと育つ。高校進学時もチアリーディングができることを基準に、スポーツの強豪校、中京大学附属中京高校を選んだ。
「甲子園のスタンドで野球部を応援したこともあるんですよ」と屈託のない笑顔を浮かべる。そんな梅本さんにSKE48のオーディションを勧めたのは母親だった。
「当時、私には二つの夢がありました。東京に行ってダンスを本格的に学ぶこと、そしてもう一つが看護師。憧れの職業でしたし、医療系にも興味があって勉強したいと思いました。でも、二つの夢を追いかけてもどっちつかずになると思って、オーディションの合否で、どちらの夢に向かうか決めようと思いました」
結果は見事合格。高校3年生で4期生メンバーに選ばれる。
SKE48とは、AKB48の全国進出第一弾として2008年に名古屋市中区栄に誕生したアイドルグループ。栄のアルファベットの頭文字をとって「SKE」、AKB48の姉妹グループの一つである。そして、SKE内には三つのチームがあり、その一つ、チームEのリーダーに、梅本さんは抜擢された。
「最初は人一倍自分が頑張らないと、みんなを引っ張っていかないと、という気持ちが強くて空回りすることもありましたが、次第に頼ることを覚えていきました。目まぐるしく変わる現場での対応力も相当鍛えられましたね」と笑う。
モータースポーツの分野でも大活躍
アイドル最前線で活躍していた梅本さんが、モータースポーツに興味を持ったのもまた、アイドル活動がきっかけだ。デビューして2年目ごろのある日、日本最大のオートバイレースである鈴鹿8時間耐久ロードレースの前夜祭ライブに出演することになる。そこで颯爽(さっそう)と走るバイクの爆音とスピードに魅せられた。
「その後も、レーシングドライバーの中嶋一貴選手とスーパーフォーミュラのPR活動をさせていただく機会があって、その時に聞いたレースの話が面白くて、すっかりモータースポーツにハマっていきました。二輪免許が取れた時、あまりにうれしくてライブ中のMCで『取りましたー』ってファンに報告したら、後でマネジャーに厳しく注意されたのが懐かしいです」
グループ活動中は万が一に備えて、バイクや車の運転は禁止されていた。乗りたいのに乗れない思いが、SKE48卒業後の活動の原動力になっていく。
「卒業してすぐ、ホンダのCB400スーパーフォアを買ったほどで、事務所も『そんなに好きなら』とバイク雑誌などのモータースポーツのメディアのお仕事を増やしてくれました。車やバイクのサーキットのタイムアタックやレースのサポートなど、見るだけではなく、する側になる機会が増えて、活動の幅がどんどん広がっていきました」とうれしそうに語る。
そしてSKE48を卒業して2年後の2018年にラリーのコ・ドライバーの話が舞い込み、「やってみたい!」と即答する。
ラリーとはサーキットと違って公道を、一台ずつコースを走ってタイムを競う。コースには通学路もあれば、未舗装の道路や山道もある。スピードを競うが、途中には一般車と同じように交通ルールを守って走る区間がある。だが、休日のドライブとはわけが違う。コ・ドライバーは、助手席でドライバーをサポートする役割を担い、コースの形状や特徴を記した「ペースノート」を作成して、ドライバーをナビゲートする。ドライバーは猛スピードで走る中、コ・ドライバーのペースノートの読み上げが頼りで、コ・ドライバーの指示が勝敗を左右するといっても過言ではない。
ラリーを通じて地域を盛り上げたい
「ラリーは、その土地の匂いや風、風景を全身で感じられるのが魅力です。コ・ドライバーとして、マシンの状態はもちろん、その日に組むドライバーさんの性格を察して、声の掛け方やタイミング、ペースノートを読む声のトーンや強弱も変えています。これはアイドル時代に培った対応力が生きていますね」と梅本さん。
実際「TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ」(以下、TGRラリチャレ)でデビュー戦を飾り、その年の年間チャンピオンを獲得。翌年には国内最高峰の全日本ラリー選手権にステップアップするという急成長を見せる。21年には豊田商工会議所ラリーチームGRヤリスの「WELOVE とよた号」でTGRラリチャレの豊田大会に参戦し、総合3位に入賞。その後も同マシンでラリチャレやセントラルラリーに参戦している。
「豊田のまちを、モータースポーツを通して活性化したいという思いに共感してチームに参加させていただいています。今年2月には地元の小学校を訪ねて、マシンを見てもらいながらモータースポーツの魅力や安全運転の大切さを伝えてきました」と自身のキャリアアップだけではなく、活動拠点である名古屋を中心に地域活動にも関心を向ける。名古屋観光文化交流特命大使として、地域の魅力発信にも尽力している。
「名古屋は都会の利便性がありつつ自然が豊かで、私にとっては『ここにいれば大丈夫』という安心感を与えてくれる場所です。ツーリングやドライブにおすすめの猿投(きなげ)グリーンロードをはじめ、名古屋市内外には走るのが楽しい林道があってオフロード競技も盛んです。一方で、四間道(しけみち)という風情あるまち並みもあれば、食べ歩きスポットとしても人気の大須商店街があります。リニア・鉄道館やトヨタ博物館など親子で楽しめる施設もいろいろあります」と目を輝かせる。
「好き」という思いが競技へのひたむきな姿勢となって周囲を引きつける。車やバイクの魅力を知ってほしい一心で、安全運転や事故防止の啓蒙(けいもう)活動にも力を入れる。
「目標は、ラリーの最高峰WRC(FIA世界ラリー選手権)への出場です。18年からWRC招致応援団に参加していますが、20、21年とコロナ禍で中止となったラリージャパンが今年11月、いよいよ開催されます。それも開催地は名古屋を含む中部地方。ラリーを多くの人に知ってもらうチャンスですし、私もラリーに出場してまちを元気にしたいです」と声を弾ませた。
梅本 まどか(うめもと・まどか)
タレント・ナビゲーター
1992年生まれ。2010年にSKE48第4期生オーディションに合格。同年チームEのリーダーに抜擢される。16年にSKE48を卒業し、芸能活動と並行してモータースポーツ関連の活動を本格的に始める。18年よりラリーのコ・ドライバーとして活躍し、ラリー参戦初年度で「TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ」の年間チャンピオンに輝く。20年国際Rライセンスを取得。16年より名古屋観光文化交流特命大使、20年より日本二輪車普及安全協会アンバサダーを歴任
写真・後藤さくら
最新号を紙面で読める!