創業114年の高石餅店は代々家族経営で、2016年に五代目を継承したのが清藤貴博さんだ。ロボットの導入や外国人インターン生の起用、大学生や異業種間コラボの商品開発など次々と斬新な企画を打ち出し、地域を巻き込んで実践し続ける。経営の在り方を刷新し、地域活性化にも奔走する。
商売人の家系で育ち外でキャリアを磨き社長へ
福岡県北九州市にある門司港は、日本三大港として神戸、横浜と並ぶ重要な国際貿易港として栄えた。その面影を残す門司港駅周辺の門司港レトロは、観光スポットとしても人気が高い。そこから車で約5分の距離にある高石餅店は、観光客ではなく地元客を対象にさまざまな餅を提供し続けてきた。従業員は店主の清藤貴博さんを含めて6人。家族経営で従業員はほぼ親族だ。
「創業者は高祖母で、以来ずっと女性が継いで四代目が僕の母です。僕の姉はすでに英会話教室を営んでいて、母も自分の代で辞めてもいい、僕自身も継いでも継がなくてもいいという感覚でした。でも、伝統産業を絶やすのは惜しいし、単純に『面白そう』だと思って継ぎました」
そう語る清藤さんは、祖母、父、母、姉、叔母など身内の多くが事業主で、自身も起業家の道を歩むべく立命館大学経営学部に進んでいる。在学中に国内有数の大学6校のビジネスプランコンテストでベスト3に入る好成績を収め、台湾で開催された国際ビジネスプランコンテストでは2010年と14年の2回世界一に輝いている。大学ベンチャーで起業経験もあり、富士通で2年間バイヤーを務め、その後、九州大学のビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得するという、事業承継前からまぶしいキャリアだ。
だが、10年に父の和則さんが脳梗塞で倒れ、他界後の14年には急遽エアーコンプレッサーの付属機器の開発・販売という父親の事業を承継することになる。事業の立て直しを図りつつ、2年後の16年に高石餅店を継ぐという、かなりハードな状況下での五代目就任だった。
ロボットやAIを導入し3年間で売り上げ4倍に増加
清藤さんは面白そうと思って始めたものの、事業計画書もなければ、餅の原価率も計算しないことに気付く。経験と勘、人情で続けてきた経営に、清藤さんのビジネス戦略はかみ合わなかった。
それでもAIを活用した在庫管理、事業計画書の作成、職人の勘を「見える化」して品質と作業効率アップを試みた。その最たるものがあんこを餅に包むロボットの導入だ。
「約550万円の設備投資は、北九州商工会議所に相談し、補助金や助成金を活用できたので思い切れました」(清藤さん)。
ロボットは作業負担の軽減と生産性アップを図って導入したが、全員が65歳以上という従業員たちは「仕事を取られる」と難色を示した。メディアで老舗餅店のロボット導入が取り上げられ、清藤さんは、話題づくりのために職人とロボットの対決を企画した。結果は1個のあんこ餅を丸めるのにロボットは1秒、職人は10秒かかってロボットが圧勝した。
だが、従業員との溝は深まるばかり。清藤さんは、横文字のビジネス用語は封印し、地元大学生のインターンを積極的に受け入れ、職人技を披露する機会をつくって従業員のモチベーションを上げていく。同時に、イラン人女性のインターン生とシナモン餅を開発したり、下関の珈琲店と共同開発してコーヒー味のおはぎを販売したりするなど、絶えず話題をつくった。こうして高石餅店は地域に愛される餅店から、地域に愛されつつ新しいことに挑戦する餅メーカーへの転身を図った。
成功体験を地域に還元し店外と多角的につながる
「大学生や留学生、異業種などと仕事をするのは、価値観も文化も違って大変な面もあります。実家で約20年間、25カ国200人のホームステイを受け入れたため、多様性を面白がれる性格なのがよかったですね」と笑う清藤さん。
その性格が功を奏し、社長就任から3年で売り上げが4倍に伸びると、従業員も変わった。商品開発を次第に面白がり、試作品を提案するまでになった。
「経営を通して向き合ってきたのは、国際社会や少子高齢化などの社会課題です。若手や外国人雇用、フードロスなどの裏テーマも目的にしてやってきました」
清藤さんは、大学ベンチャーでともに起業したインドネシア人の友人を副社長に迎え、18年に二つの家業のほかに、別会社を立ち上げてマーケティングや、デザイン思考に基づいたデザインコンサルティング事業も展開している。19年には母校である立命館大学で事業承継に関するプログラムなどで講義を行うなど、餅店以外の活動も活発だ。
「中小企業白書・小規模企業白書」「はばたく中小企業・小規模事業者300社」で紹介され、北九州商工会議所主催の永年継続企業・議員表彰記念パーティーでは市長感謝状を授与されるなど、地域からの期待値も高い。
「ゆくゆくは二つの家業や、姉の英会話教室、コンサルティング事業などをホールディングス化しようと計画中です」と清藤さん。餅店から地域そして世界へ、新しいストーリーを発信したいと夢は膨らむ。
会社データ
社名:高石餅店(たかいしもちてん)
所在地:福岡県北九州市門司区葛葉1-11-6
電話:093-321-6079
代表者:清藤 貴博 代表取締役社長
従業員:5人
【北九州商工会議所】
※月刊石垣2022年10月号に掲載された記事です。
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