メタバース(metaverse)とは、英語で「超」を意味するメタ(meta)と宇宙(universe)を合わせた造語で、インターネット上に構築した仮想空間のこと。実在のまち並みを再現したり、架空のオフィスやイベント会場を創造したりできるため、各方面から注目を集めている。とはいえ、これで何ができるのか? 生活やビジネスにどのような変革をもたらすのか? 大きな発展が予想されるメタバースについて、NTTデータ・技術開発本部の山田達司さんに解説してもらった。
北海道の家具会社がメタバースへ ビジネスの可能性に懸ける理由
カンディハウスは国内有数の家具産地、北海道旭川市にある家具の製造・販売会社である。オリジナルのデザインと日本の木工技術を融合させた椅子やテーブルなどの「脚物家具」を中心に、国内はもとより海外にも広く販売している。コロナ禍により営業活動が制限される中、オリジナルのメタバース空間「HokkaiDo Rock House」を立ち上げ、自社製品を疑似体験してもらう場を世界に向けて発信している。
会社のDX化の一環としてコロナ禍になって開始
「HokkaiDo Rock House」は、旭川を一望できる大雪山連峰をイメージした風景がバーチャルに繰り広げられたメタバース空間である。その山間に建てられた、メイン棟の「ロックハウス」と長期滞在型コンドミニアムの中には、カンディハウスの木製家具が3Dで配置されている。ここでは、北海道の雄大な自然に囲まれた建物の中をバーチャルに回遊することで、仮想のインテリア空間を擬似体験することができる。そして、そこに気に入った家具があれば、その製品説明の画像や動画を日本語・英語・中国語で見ることができ、一部製品はオンラインショップでの購入も可能になっている。
同社は、コロナ禍となって間もない2020年5月に、旭川、札幌、東京、大阪などの直営店舗にパソコンやモバイル端末から訪れることができるバーチャルショップを順次開始し、2カ月後の7月にはオンラインショップを開設。そして今年6月22日に、この「HokkaiDo Rock House」を公開した。
同社代表取締役社長の染谷哲義さんは「HokkaiDo Rock House」を始めたきっかけを次のように説明する。
「先の見えないコロナ禍において、DX推進の一環として、バーチャルの領域で情報発信や空間づくりができたらと、メタバースに取り組みました。例えば、ロケーションの参考にしたのは観光地としても知名度の高い大雪山国立公園にある層雲峡。豊かな自然や切り立った崖があり、ここにコンドミニアム的な宿泊施設ができたらインパクトも大きいのではと。実際に建築するのは難しいですがその仮想空間に当社の家具をコーディネートして、カンディハウスのブランドとして空間提案していくことを考えました」
旭川の家具製作技術と高いデザイン性で世界に展開
同社のある旭川市は、大雪山連峰の木材を使った木工家具の産地として100年以上の歴史を持ち、タンスなどの箱物家具を主に生産していた。1963年、北海道東川町出身の家具職人だった長原實氏(故人)が旭川市の海外派遣技術研修生としてドイツに渡り、最新の家具製作技術やデザインなどを学んだ。そして68年に、旭川市で同社の前身となる株式会社インテリアセンターを設立した。
「長原はドイツでの修業中、週末はヨーロッパの美術館や博物館を巡っていました。ある日、オランダの港町で懐かしい木の匂いがしたので近づくと、小樽という焼き印がされた木材が積まれていました。北海道の木材がヨーロッパで家具になっている現状を知った長原は、地元北海道の良質な木材を使って、旭川の家具製作技術とデザインで世界に展開していこうと考えたのです。それが創業からの当社の理念になっています」(染谷さん)
旭川家具は箱物が主流だった中、長原氏はヨーロッパ流のデザインを志向した椅子やテーブルなどの「脚物家具」でスタート。素材とデザインにこだわり、子から孫へと2代、3代にわたり使い続けられる品質と飽きのこないデザインの家具を目指しつくり続けていった。また、当初から海外展開を視野に入れていたことから、84年にはサンフランシスコに現地法人を設立し、米国市場進出への足掛かりとした。その後もドイツに現地法人を設立、アジアにも展開を続け、現在は11カ国で現地のディーラーと専任契約を結んで、市場を開いている。
メタバースを国際事業での新たな武器として活用していく
「ところがコロナ禍で、通常の企業活動が難しくなりました。そこでまず始めたのが店舗のバーチャルショップです。360度撮影ができる小型カメラを買い、最初は旭川の店舗で数百カ所を撮影し、画像を合体させる専用ソフトを用いて社内で制作しました」(染谷さん)
バーチャルショップは本物の店舗内部が忠実に再現され、製品をクリックすれば説明を見ることもできる。さらに、オンラインショップの機能も追加し、店舗に行かなくても自分が好きな時間に家具を見て、購入することができるようにした。
「2020年の秋には、メタバース上にショールームを構築するサービスを行う会社から、日本語、英語、中国語の3カ国語での展開も可能だという話を聞き、中国市場へのテコ入れは重要な課題だったので、国際事業での武器になると考え、取り組むことに決めました」
大自然の中に配置する建物は、北海道出身で世界的な建築家の藤本壮介氏に設計を依頼した。バーチャルとはいえ専門の建築家に依頼したのは、リアルさを追求してのことだった。そして構想から1年半後、「HokkaiDo Rock House」は完成した。
「始めてまだ数カ月なので、ビジネスとしての成果はこれからですが、いち早くメタバースの空間を立ち上げたことで、積極的に新しいことにチャレンジしている企業として、当社の企業活動やブランド訴求に寄与していると思います。また中国市場については、まだ大きな効果は出ていませんが、今後の反応が楽しみです」と染谷さんは今後の期待を語った。
中小企業でも今後、メタバースの活用が必要になる可能性は高い。すぐに始めなくても、今のうちから準備のために調べておくのが得策といえるだろう。
会社データ
社名 : 株式会社カンディハウス
所在地 : 北海道旭川市永山北2条6丁目
電話 : 0166-47-1188
HP : https://www.condehouse.co.jp/
代表者 : 染谷哲義 代表取締役社長
従業員 : 251人(2022年9月末現在)
【旭川商工会議所】
※月刊石垣2022年11月号に掲載された記事です。
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