つい最近まで、需給がタイトだった半導体の一部製品の状況が変わりつつあるようだ。それと同時に、求められる半導体の〝質〟にも変化が見て取れる。世界半導体市場統計(WSTS)のデータによると、世界の半導体販売額は2021年10~12月期にピークをつけた。その後、徐々に販売額は減少した。米半導体工業会(SIA)によると、22年6月の世界の半導体売上高は前月比1・9%減だ。
その背景には、スマホ需要が減少していることがある。米調査会社のIDCによると22年4~6月期、世界のスマホ出荷台数は前年同期比で8・7%減少した。4四半期連続の減少だ。スマホの普及はリーマンショック後の世界経済の成長に大きく寄与した。スマホが登場した後、世界各国でSNSなどが普及した。それによって、IT先端企業はビッグデータを手に入れ、分析することによって消費者の好みをピンポイントで突く広告サービスが提供された。音楽や動画のストリーミングなどのサブスクリプション・ビジネスも成長した。しかし、ここへ来て、スマホの機能向上が消費者に与える満足度は徐々に頭打ちになり、出荷台数が減少している。
また、コロナ禍が押し上げた民生品需要が一巡した。新型コロナウイルスの感染が深刻化した結果、世界各国でテレワークのためのパソコンなどの需要が急増した。巣ごもり生活のために家電製品やゲーム機の需要も増えた。しかし、世界経済全体が〝ウィズコロナ〟に移行するにしたがって、パソコンやゲーム機の需要は減少し始めた。さらに、金融政策の負の影響も大きい。ウクライナ危機の発生以降、世界的に物価上昇ペースが一段と加速した。米連邦準備制度理事会(FRB)は追加利上げなどによって需要を抑え、英国やユーロ圏などでも金融政策は急速に引き締められた。金利上昇が個人消費を圧迫し、民生品に使われる半導体の需要が徐々に減少している。それに加えて、中国のゼロコロナ政策によって、個人消費が減少したことも半導体の需要を減少させた。
また、より高性能の半導体開発に取り組む企業も増えている。やや長めの目線で考えると、世界では〝ウェブ3・0〟の時代が本格化する。現在のウェブ2・0の世界では、主にGAFAなど一部の有力IT先端企業がサービスを提供するケースが多かった。その場合、人々は必要に応じてネットに接続し情報などを入手する。IT先端企業はビッグデータを手に入れてユーザーを囲い込み、市場は寡占化した。その結果として個人データの保護などが世界的な問題になった。世界各国でデータ保護などの規制が強化されている。
今後、人々が常時ネットに接続し、データを自分で管理するウェブ3・0に向かうだろう。データ管理などのために分散型元帳技術と呼ばれる、〝ブロックチェーン〟の利用増加が予想される。より高速な演算や鮮明な画像処理などを可能にするチップ需要が高まる。それを可能にする半導体開発競争が一段と激化している。最近、米有力メーカーが開発した〝新型CPU(中央演算処理装置)のシリーズ〟は、これまでの最上位CPUの性能を上回るようだ。新型CPUはより鮮烈なゲーム体験をユーザーに与え、〝メタバース〟分野などでの先行者利得を目指している。サブスクリプション・ビジネスから、クラウドコンピューティングへの戦略をシフトで、データセンター向けの高性能チップ需要も高まるだろう。世界経済の有力半導体各社は、最先端分野での新しい取り組みを加速している。加速度的な世界経済の環境変化に対応するために、世界の半導体、IT先端企業、自動車など業界を超えた資本業務提携や買収は増える可能性が高い。わが国企業は、そうした変化にしっかりと対応すべきだ。足元、わが国では半導体部材や半導体製造装置メーカーが競争力を保っている。各社はさらに高純度の半導体部材や、より微細なチップ製造を可能にする製造装置の創出に向けて、ヒト、モノ、カネの再配分を加速すべき時を迎えている。 (9月13日執筆)
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