保有をしても使わない。持つこと自体が敵の攻撃意欲を削ぐ。だが使えない手段だった核兵器を、ウクライナに侵攻したロシアが使うのか、さまざまな憶測を呼ぶ。
▼ウォルター・ミラーJrの『黙示録3174年』(創元SF文庫)は核戦争で壊滅し中世に逆戻りした世界。だがそこから文明を発展させた人類が再び核戦争を起こす物語である。ここにあるのは戦争を回避できない人間の宿痾と、科学技術文明がある段階に達すると確実に核兵器にたどり着くという警告である。
▼核兵器開発当時、強力な爆発を誘発する連鎖的な核分裂とは別に、恒星が放つエネルギーにヒントを得た核融合という現象も知られていた。第2次大戦後すぐ、原爆の周囲を水素で囲む水爆が開発されたが、もし海に充満する水素と大気中の窒素が核融合反応に参加したら地球全体が火球になるのでは。水爆実験はそんなきわどい賭けだった。
▼国連安保理常任理事国(P5)以外の保有を禁じるNPT(核兵器不拡散条約)が発効したのは1970年。だがいまはインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮も保有国。イランが持てばサウジアラビアも対抗するだろう。拡散する一方の核兵器はそれを運ぶミサイル技術ともども進化する。マッハ5以上の速度で飛来する極超音速ミサイルは既存の防衛システムでは迎撃できない。
▼プーチン大統領は、8年前のクリミア侵攻時もNATOの出方次第で核兵器を使うつもりだったと公言する。NATOには独伊など6カ所に米国の核が配備される。核廃絶は日本の切なる願いだが、日本も米国の核の傘下にある。隣接する3国は核保有国。超速で落とされたら米国は反撃するのか。満足な核シェルターすらほとんどない。
(コラムニスト・宇津井輝史)
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