1932年創業の正規時計宝飾専門店・トミヤコーポレーションは、店頭販売だけではなく多角的に事業を展開している。三代目の古市聖一郎さんは、創業100周年に向けてさらなる事業拡大を目指す。自社利益だけではなく、時計・宝飾業界を通じた地域活性化にも意欲的だ。
地元商店街の復興とともに事業を拡大
JR岡山駅から徒歩15分ほどの距離に広がる岡山表町商店街は、岡山県最多店舗数を誇る全長約1㎞以上のアーケード商店街だ。約400年超の歴史を持つ商店街の、ランドマーク的存在としてトミヤコーポレーションの「トミヤ本店」はある。創業は1932年、地金商として初代が20歳で事業を興したことに端を発する。戦時中は中国に渡り、腕時計や眼鏡などを売って生計を立て、戦後、岡山に戻って「トミヤ時計店」を設立したのが終戦翌年の46年のことだ。
以後、空襲で焼け野原だった表町商店街の復興とともに、同社は歴史を刻んできた。人望のあった初代は地域の人脈を築き、二代目が一流ブランド品中心の販売に切り替えて、多店舗展開、事業拡大を図った。品ぞろえ豊富で、県外からも客が訪れる繁盛店に成長するが、「継ぐ気はあまりなかった」と三代目で代表取締役社長の古市聖一郎さんは、当時の気持ちをさらりと語る。
「子どものころは本店の上が自宅で、お客さまからも『三代目』と呼ばれることは多々ありました。でも、家業を継ぐことに関心はなく、東京の大学に進んでそのまま就職することも考えました。といっても就活に身が入らず、バンド活動に明け暮れていましたけどね」と当時について苦笑する。
自由気ままな大学生活を送る古市さんを、突如、人生の岐路に立たせたのが先代だ。
「父は時折、東京に来ていたのですが、ある時『家を継ぐ気はあるのか、もしおまえにその気がなければいとこに継がせる』と詰め寄られました。その勢いに押されて『継ぐ』と言ってしまったのです」(古市さん)
社長就任前に力をつけ誰もが認める成果を出す
心もとない継承宣言だが、先代の紹介で半年間勤めた愛知県の呉服店での経験が、古市さんの意識を変えた。その呉服店はスーパーマーケットのテナントでありながら、業界トップの売り上げをたたき出す有名店だった。着物に興味のないスーパーの買い物客にどう興味を持たせ、買ってもらうかに心血を注いでいた。
「トミヤは、店を開ければお客さまが来てくださる。その状況を築いた初代、二代目の業績とお客さまを引き継ぐありがたみを、痛感することができました」
2003年、古市さんが同社に入社すると、翌年、時計ブランドのフランクミュラーの路面店としては国内最大級の規模を有する「フランクミュラー byTOMIYA」がオープンする。その店長に抜擢された古市さんは、営業成績も商品知識もトップを目指して、3年間毎日店頭に立ち続けた。
「社長の息子だから次期社長だというのではなく、実績を上げる覚悟でした」
06年、常務になると高級時計を扱う「タイムアート店」、移転改装で刷新した「メカミュージアム店」2店のプロデュースを任される。店舗デザインやブランド・メーカーとの交渉、商品の仕入れなど、あらゆる業務の陣頭指揮を執り、同時に店舗スタッフの主体性、チャレンジ精神を育む店づくりを心掛けた。
結果、オープンから半年後のクリスマス商戦で、他店舗のスタッフが応援に駆け付けるほどの売り上げを出し、店を軌道に乗せていく。
利益追求だけではなく地域活性化を念頭に活動
だが、順風満帆の流れを止めたのが日本を直撃したリーマンショックだ。その影響を受けて赤字経営に転じた中、古市さんは10年、30歳の若さで社長に就任する。事業改革は多岐にわたったと振り返るが、中でも大きく変えたのが、大々的な広告宣伝の代わりに月1回ペースで「トミヤ・マンスリーレター」というDMを送るようにしたこと。SNSで店舗スタッフの人柄が伝わる情報もこまめに発信し、顧客一人一人に寄り添うサービス、店舗スタッフのファンづくりにシフトした。
また、メーカーとの連携も密に取り、旬の商品の販売やフェア、展示会を次々と企画。その間、国内外の逸品をセレクトしたライフスタイルショップ「表町スタイルストア」の立ち上げや、オリジナルジュエリーブランド「ベルブランシュ」の開発など新規事業に挑んだ。労働環境や福利厚生も見直し、若手人材の確保と定職率アップなど改革を成功させた。
就任当初は店舗数4、5店だったが約10年で市内9店舗に増やし、広島市3店、福岡市2店、神戸市1店と県外にも広げる。この10年で年商14億円が70億円に達し、今後も店舗拡大を目指している。
「就任の翌年から『デザート・オブ・ライフ』というスローガンを掲げて今日に至ります。宝飾品や腕時計は生活の必需品ではなく、いわば食後のデザートのような心華やぐもの。人生のデザート提案企業として、人を、まちを元気づける存在でありたいと思います」と古市さん。「トミヤの核は表町商店街にあり」と商店街の副理事長を務め、さらに岡山商工会議所青年部(岡山YEG)や、日本商工会議所の広報ブランディング委員会にも参画している。
「トミヤが多角的に活躍することが地域貢献、活性化につながると思っています」
地域企業として岡山を盛り上げていきたいと力強く語った。
会社データ
社名 : 株式会社トミヤコーポレーション
所在地 : 岡山県岡山市北区表町2-2-83
電話 : 086-233-1038
HP : https://www.tomiya.co.jp/
代表者 : 古市聖一郎 代表取締役社長
従業員 : 約120人
【岡山商工会議所】
※月刊石垣2023年1月号に掲載された記事です。
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