IT分野で世界的大企業の日本法人で労働組合が結成された。人員削減の動きに対応した措置だ。入社時の契約がどうなっているのかは分からないが、外資系企業であっても、日本で活動する以上、国内の労働法制が適用されるのは間違いないだろう
▼日本の国際的な競争力低下が目立つようになって久しい。背景には規制緩和の停滞とともに、労働生産性の伸び悩みが考えられる。理由として会議の多さや「働かないおじさん」の存在が指摘される。終身雇用制は、江戸時代の大名のように主家(企業)に対する忠誠を誓わせる役割を果たしてきた。ただ、これは継続的な経済成長を前提にしたもので、マイナス成長すら珍しくない現代では、上昇しない賃金で藩士(従業員)たちをつなぎ留めるのは難しい。若年層が転職をためらわないのも、同じ会社で将来の報酬額増加が見込めないのであれば、当然といえよう
▼意欲のある若い世代は「労働者の雇用保護を優先する」という労働行政よりも「自主的な雇用流動化」を支援するようなシステムや社会保険制度を望んでいると思われる。彼らは本人が望む正当な対価を求めて、新しい職場に挑んでいく
▼コロナ不況でこぼれ落ちた労働者を救済していくのは確かに重要だ。それは社会福祉、公的扶助が担うべきことで、企業に雇用維持の名目で負担を強いるのが望ましいか疑わしい。労働契約法の「労働条件の不利益変更は認めない」という原則を維持しつつ、どのようにすれば国際競争力を保っていけるか、労働行政は分岐点に差しかかっていると思う。このまま何もしなければ、グローバル企業は日本への進出をためらい、ガラパゴス化が加速するだろう
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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