中小企業の人手不足が叫ばれて久しい。経営者は人材を外に求めるばかりではなく、社員が能力を十分に発揮できる環境を整えることが急務だ。女性が働きやすく生き生きと活躍している企業の取り組みは、男性社員にも好影響を与え、会社のイメージアップにも直結する。そこで、女性が働きやすい環境をつくり出して業績を上げている企業に迫った。
女性活躍のロールモデルとして経営者が「ありがとう経営」を展開
総合ビルメンテナンス企業のひろしま管財は、現社長が独自の「ありがとう経営」で、人を思いやり、感謝の気持ちを軸とした経営を実践している。社員一人一人の働きやすい環境づくりを推進し、社員の半分が女性となった。さらに、女性管理職も5割に達する。清掃は心地いい空間を提供するサービス業と捉え、社内外の信頼関係を育んでいる。
1日39回の「ありがとう」で社内、家庭内の関係性改善
1961年創業のひろしま管財の業務は多岐にわたる。清掃、警備、設備管理などの総合ビルメンテナンス業のほかに、ハウスクリーニングや整理整頓、空き家対策、寮管理などを手掛ける。主力はビル清掃だが、BtoBからハウスクリーニングなどのBtoCへ事業を広げたのが4代目で代表取締役社長の川妻利絵さんだ。創設者である祖父は、広島ビルメンテナンス協会の創設メンバーで、父は全国ビルメンテナンス協会の副会長を務めた経歴を持つ。川妻さんも広島ビルメンテナンス協会の理事や広島経済同友会のダイバーシティ委員長を務めるなど、地域活動にも積極的だ。
「どの組織もまだ女性は少数で、特に協会理事は私以外みんな男性です。私が社長に就任した2005年当時は弊社も8割が男性だったので、男社会の業界といえます」
そうした中、川妻さんが独自に確立したのが「ありがとう経営」だ。これは4児の母であり、専業主婦から経営者になった川妻さんの経験から生まれた経営手法である。
同社が目指す快適かつ衛生的な環境を提供するには、社員教育が重要と考え、あいさつや感謝を伝える大切さを説き、自ら実践し続けた。
「当たり前をきちんと実践し、感謝と誠実を会社のモットーに、社員との交流を図っていきました」
ありがとう経営は「サンキュー運動」に発展し、1日39回、「ありがとう」を伝える活動へと広がった。
「就業時間内に39回も言い切れないと、家庭でも言わざるを得なくなります。無愛想だった男性社員が、料理をつくってくれた奥さんに『ありがとう』と言うようになると、思春期の娘さんとの関係性が改善され、その方自身も明るくなっていきました。こうした事例が社内にはたくさんあります」と川妻さんは語る。
リーダーシップをとって教育と交流をテコ入れ
環境改善と同時に、見直していったのが男女比率の格差だ。
「女子トイレや女子寮、ハウスクリーニングは女性スタッフを希望されるケースが多くあります。積極的に女性スタッフを登用し、周囲の反対を押し切って女性管理職を増やしていきました。働く女性を応援したかったのもそうですが、女性特有の感性やアイデア、一度に複数のことを同時にこなせる器用さを生かせる場、機会がたくさんあります」
環境衛生士やビルクリーニング品質インスペクターの資格を取得し、毎月社長主導でパート・アルバイト研修を実施。本社スタッフの給料明細は一人一人にメッセージを添えて毎月手渡し、誕生日にはバースデーカードを渡す。歓迎会や忘年会を行い、本社オフィス内にはオムツ替えスペースや横になってくつろげる場所を設け、子ども連れでも来られるようにリフォームした。こうした川妻さんの取り組みに共感する女性社員が少しずつ増え、そうした社員を管理職に抜擢(ばってき)することで、経営理念が浸透する好循環が生まれていったという。
「18年前は女性管理職が2割で、現状5割、ゆくゆくは8割にして他社と差別化できたらと考えています」と川妻さん。
コロナ禍前から実施する衛生管理に即した清掃
女性の起用がダイレクトに業績に反映されているかは分からないというが、研修や講習会、交流会を重ねて社長と社員、社員同士のコミュニケーションを密に取ったことで社内が明るくなり、取引先からの評判も上がっているという。
「21年で創業60周年を迎えました。20年、30年、中には創業当初からお付き合いのあるお取引先も多くあります。そうしたご縁を大切に、お客さまに寄り添う気持ちを持ち続けることを社員やスタッフと共有しています」
川妻さんが就任後、新規に立ち上げたハウスクリーニングや整理整頓を手掛ける「LaPica(ラピカ)」事業部がある。これは事業拡大ではなく、少子高齢化や働く女性たちの家事負担の軽減を目的としたライフサポート事業だ。質の高いサービスを提供すべく、マナー・ハウスクリーニングの実技研修に加え、独自の整理整頓プログラムを受講した女性スタッフを中心にそろえた。
「事業全体の1割ほどですが、お客さまのリピート率が高く好調です」
また清掃を超えた衛生管理の取り組みにも定評がある。コロナ禍前からCDC(米国疾病予防管理センター)の院内感染のガイドラインに沿って製造された米国EPA登録洗剤を使い、手洗いや手が触れた箇所の消毒を徹底していた。この15年前からの取り組み以降、社内のインフルエンザ感染率はほぼゼロ状態。この実績から、オフィスのコロナ陽性者の消毒業務などの需要が伸びたという。
21年には社名を「広島管財」から「ひろしま管財」に改め、社名ロゴは花言葉が「感謝」のカンパニュラの花をモチーフにし、コーポレートカラーもピンク色に一新。より女性らしさを前面に押し出し、業界で存在感を際立たせている。
会社データ
社名 : ひろしま管財株式会社
所在地 : 広島県広島市中区大手町5-7-17
電話 : 082-243-5501
代表者 : 川妻利絵 代表取締役社長
従業員 : 約300人
【広島商工会議所】
※月刊石垣2023年4月号に掲載された記事です。
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