対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の扱いを巡り、さまざまな意見が出ている。「誰がやっても同じような文章をつくるのならば、省力化のために活用すべきだ」(大手企業の株主総会担当者)、「定型的な文章の作成でも本人の成長につながるので、安易な利用は避けたい」(中堅広告代理店の人事担当)など立場によって考えが異なるのは当然ともいえよう。大学をはじめ高等教育の現場で対応に苦慮するのも理解できる
▼マスメディアでは、決算発表記事のようにすでにAIに定型文を作成させているところもある。新聞記者は入社時に「中学生でも分かる平易な文章を書け」と指導されることが多い。単純な事件・事故や政府の統計発表などであれば、AIでも必要最低限の記事を書くのは容易であろう。読者の中には「記者の個人的な思い入れを読まされるより、事実関係に絞ってほしいという声がある」(有力地方紙幹部)というから、むしろそうしたニーズに応える面があるかもしれない
▼言葉で一番大事な要素は伝達機能だろう。正しい意味が伝わらなければ役目を果たしたことにはならない。しかしながら、新聞記事は科学の実験記録を残しているのではない。その文章から、伝えようとする意図を含めて、読者の想像力をかきたてるものでなければならないと思う
▼日本語には動詞や形容詞を中心に数多くの美しい表現をする力がある。それぞれの単語は平易であっても、組み合わせ方や使い方を工夫するだけで、より豊かな内容を持つ文章をつづることが可能だ。同じ言葉を使いながら演説の力に秀でた政治家がいるように、優れた文章力で感銘を受ける記事を読みたいと考えている
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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