国内におけるeスポーツの市場規模は年々拡大し、成長が期待される分野である。老若男女を問わず参加できるのも魅力の一つ。各地では、新たな文化として根付く可能性のあるeスポーツを地域活性化に活用するとともに、バーチャルの世界とリアルを融合させる動きもある。そこで、eスポーツによる地域活性化の現状と展望について考察する。
eスポーツ×シニアの組み合わせで地域活性化と地域課題の解決を図る
eスポーツには多くのプロチームが存在するが、その中でも異色の存在なのが、16人のメンバー全員が60歳以上という「マタギスナイパーズ」。秋田県を拠点とするこのチームは2021年9月に結成され、それ以来、世界一のプロゲーマーを目指して活動を続けている。このチームを運営しているのは秋田県に本社を置くIT企業のエスツーで、高齢化が深刻な秋田県において、シニア層の新しい働き方を提案している。
高齢者が多い秋田県にeスポーツはマッチする
内閣府発行の『令和4年版高齢社会白書』によると、秋田県の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は38.1%で、都道府県別で全国1位である(全国平均28.9%)。この秋田県を拠点とする日本初のシニアeスポーツプロチーム「マタギスナイパーズ」は、メンバー16人(うち女性4人)全員が60歳以上で、平均年齢は67歳。東北地方、特に秋田県に多い、狩猟をなりわいとする「マタギ」にちなんで名付けられた。メンバーは余暇活動のためではなく、全員が競技会で勝つことを目指して日々練習に取り組んでいる。
このチームを運営するエスツーは、サーバーなどのデジタルインフラからアプリ開発まで行うIT企業。同社の総務部部長でマタギスナイパーズの統括責任者を務めている緒方無双さんは語る。
「eスポーツが当社の業務と親和性が高いことに気付き、自社でやろうと考え始めたのは2018年です。そのときにスウェーデンの『シルバースナイパーズ』という高齢者チームを知り、高齢者とは思えないほどかっこいい姿に衝撃を受け、高齢者が多い秋田でやるならこれだと思いました。ただ、そのときはeスポーツに関してまだ何も知らなかったので、アイデアはあっても寝かせたままでいました」
それから1年後の19年5月、同社はまず自社でチームを持つことから始めるため、SNSを通じて秋田県出身のゲーム好きの若者5人を集め、「ライジングウォーズ」と名付けて活動を開始した。活動期間は約1年だったが、全国レベルの大きな大会で2人が決勝大会に勝ち残る実績を残すことができた。
楽しくプレーすることから試合に勝つためと意識の変化
そして、高齢者だけのeスポーツチームをつくるという着想から3年後の21年6月、秋田県庁の記者クラブで記者会見を開き、メンバーの公募を発表。条件は秋田県在住の65歳以上で月数回の練習に参加できることとすると、予想を超える21人の応募があった。
「最初の説明会で残った14人で、9月から活動を開始しました。平均年齢は68歳で、全員がeスポーツ初心者だったのはもちろん、パソコン初心者も多かったです。そのため最初はパソコンの電源の入れ方から始めました。ただ、皆さんに共通していたのは、仕事を辞めて熱中できるものが欲しかったという方たちだったので、ゼロからやり直そうという意気込みが強く、年齢以上に考え方が若い。この方たちをお年寄り扱いしてはいけないと痛感しました」
開始当初は週に1回、専属の監督が付いて午前10時半から午後4時までレッスンを行い、パソコンの設定からキーボードの使い方、オンラインでやりとりするチャットツールの使い方などを教えた。ゲームができるようになったのは開始から3カ月後の12月だった。そして、昨年3月に地元のテレビ局による番組の公開イベントで公式デビューした。当初プレーしていたのは若者に人気のあるシューティングゲーム『フォートナイト』で、現在は5人1チームで対戦する『ヴァロラント』をプレーしている。メンバーのうち3人が退会したため、昨年6月に年齢条件を60歳以上に下げて新たなメンバーを公募し、5人が加わった。
「最初は皆さん楽しさだけでプレーしていましたが、競技会に参加するようになると、勝つためにはどうしたらいいかという意識で練習に取り組むようになりました」
「高齢者が活躍できる秋田」でイメージアップに
高齢化率や人口減少率が高い秋田県だが、それらはほかの地域や先進国が抱えている問題でもある。見方を変えると、秋田県は世界の最先端を走っているともいえると、同社では考えている。そして、それらのネガティブな課題をマタギスナイパーズの活動を通じてポジティブに打ち出し、シニアの新しい働き方を提案していくとともに、年齢や性別、社会的ポジションを超えたコミュニティを形成することで、地域を活性化させていこうとしている。
「私たちが目指しているのは、スウェーデンのシルバースナイパーズのような"かっこいい"です。日本に高齢者だけのチームはほかにないので、まずはチームとして脚光を浴び、それを高齢者福祉などに還元していけたらと考えています」
実際にエスツーでは、市民レベルで高齢者のeスポーツ活動を進める協力者を増やすためにセミナーも行っている。ところで、企業がここまでeスポーツに力を入れるメリットはどこにあるのか。
「マタギスナイパーズは今のところは弊社の広告塔です。メディアの取材を受けることも多く、弊社を知っていただける機会が増えています。チームの実力はまだまだですが、まずは大きな大会に出ることを目指しています。マタギという名前から秋田のチームであることもアピールできるので、大会で活躍できれば、高齢者が活躍できる秋田というイメージアップにつながり、観光大使的な存在になれるかもしれない。可能性はたくさんあると思っています」
身体能力や性別、年齢の差が出にくいeスポーツはシニアも取り組みやすい。それを地域の活性化や課題解決にも結び付けようというエスツーの取り組みは、ほかの地域にとってお手本になりそうだ。
会社データ
社名 : 株式会社エスツー
所在地 : 秋田県秋田市中通3-3-10 秋田スカイプラザ7F
電話 : 018-827-3500
代表者 : 須藤晃平 代表取締役
従業員 : 47人(2023年4月1日現在)
【秋田商工会議所】
※月刊石垣2023年6月号に掲載された記事です。
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