縄文サイエンス&アート
今年1月、「縄文サイエンス&アート」が設立された。山梨県内の学識経験者や企業経営者の呼びかけで設立された団体で、「縄文人の叡智を探求し、未来に残す」ことを目的としている。
その活動の中心を担うのが、副理事長の塚本レイ子さん(東京商工会議所議員・塩崎ビル社長)だ。塚本さんは山梨県笛吹市にあるワイナリー・ルミエール(甲府商工会議所会員)の取締役でもあり、県立考古博物館など県内に7館ある資料館・博物館で構成される「縄文王国山梨7館」とも交流が深い。
「この活動を通じて、世界的に価値の高い縄文文化を海外に発信していきたい。そのためにまず、日本の皆さんに知ってもらえるような活動をしていきたい」と抱負を語る。
縄文遺跡で縄文文化に出会い衝撃を受けた
縄文時代は約1万5000年前(紀元前131世紀頃)から約2300年前(紀元前4世紀頃)に栄えた。その文化が一番華やかだったとされる縄文中期(約5000年前)の繁栄の中心は山梨周辺といわれる。県内には縄文遺跡が約1900カ所あり、芸術性の高い縄文土器や土偶が発掘されている。釈迦堂遺跡(笛吹市)からは約1100体もの土偶が出土している。
「高校生の頃から歴史が好きで、特に世界史に興味を持っていました。しかし、勉強していくうちにある疑問を抱くようになりました。紀元前200年頃の日本といえば神話の時代ですが、それよりはるか以前のエジプトでは、人の手でピラミッドがつくられていました。その頃の日本はどうだったのだろう?」
そんな思いを持ち続けていたある時、釈迦堂遺跡で縄文土器や土偶と出会った。「驚きました。今から1万5000年前に、1万3000年(130世紀)にわたって栄えた素晴らしい文明があったのです。縄文人たちは土器を作り、狩猟を行っていました。家族は竪穴式住居に住み、ムラをつくり、山林を開墾して栽培も行っていたようです」
現在の私たちの原型となる暮らしが縄文時代にあったと知ってとりこになった。塚本さんは深鉢形土器(写真)を指して、「この流れるような美しい模様を見てください。筒型の器の周辺に粘土ひもを張り付けて飾りにしているんです。縄文人たちは素晴らしい匠の技術と美術的センスを持っていたのでしょう」
その匠のDNAが脈々と受け継がれて、技術立国・日本に至ったと、塚本さんは信じている。
また、縄文時代を研究していくうちに、塚本さんが生涯のテーマとしている環境問題と深く結びついていることが分かってきた。「縄文人たちは豊かな自然、清らかな水、豊富な資源と上手に付き合いながら1万3000年もの間、栄えてきました。私たちはどうでしょう。自然を破壊し、人間をだめにしている。縄文時代の素晴らしさを広めることが、環境問題を考える上で役立つのではないでしょうか」
縄文の魅力を多くの人に
一方で、縄文文化が県の観光資源として役立つことを期待し、「縄文サイエンス&アート」を通じて、国内外に縄文文化を発信しようとしている。
また、北海道や北東北、北関東などの商工会議所の一部でも縄文文化の観光資源化を目指す動きが見られるが、「大歓迎です」と塚本さんは喜ぶ。
「縄文遺跡は日本全国に分布しています。各地商工会議所が連携して縄文文化の素晴らしさを広めることができればうれしい」
この夏、東京国立博物館で特別展「縄文--1万年の美の鼓動」(7月3日〜9月2日)が開催される。これを機会に、塚本さんをとりこにした縄文の魅力に触れてみてはいかがだろう。
Topics
5月24日に発表された平成30年度の日本遺産に「葡萄畑が織りなす風景−山梨県峡東地域−」と「星降る中部高地の縄文世界—数千年を遡さかのぼる黒曜石鉱山と縄文人に出会う旅─」が認定されました。その構成文化財として「ワイナリー・ルミエール」の半地下式発酵槽と山梨県内各所ら出土した縄文土器も取り上げられました。
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