最近の世論調査によると、米国で預金に対する不安が高まっている。その背景には、約2カ月の間にいくつかの中堅銀行が破綻したことがある。3月初旬以降、シルバーゲート銀行、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行に続いて、5月に入ると資産規模で全米14位のファーストリパブリック銀行も破綻した。また、足元でも経営不安が取り沙汰される中堅銀行が増えている。今後、SNSを介して預金への不安心理は急速に高まり、さらなる預金引き出しが急速に進むことが懸念される。それが現実となれば、米国の金融システムは1980年代のようにかなり不安定な局面を迎える可能性もある。
一方、わが国については、3月までのデータを見る限り預金は増えている。わが国では預金に対する安心感があると見られる。わが国の場合、今のところ金融システム全体で体質は健全化されている。ただ、今後のことを考えて、われわれ預金者は預金保険制度などの仕組みを十分に理解しておく必要があるだろう。
5月4日、米国の調査会社であるギャラップは、「米国民の約半分が銀行に預けたお金を心配している」と題したレポートを発表した(※)。調査は、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破綻した後の4月3日から25日に実施された。「銀行などに預けているお金の安全性についてどの程度心配しているか」と質問して、人々の預金に対する不安度を調べた。それによると、全体として預金への不安を抱く人は48%に達しており、この水準はリーマンショック直後のギャラップの調査結果(45%)を上回っている。
米国では、連邦預金保険公社(FDIC)が1口座(個人も法人も)当たり25万ドル(約3400万円)までの預金を保護している。さらに、3月にはイエレン財務長官が「必要であれば預金全額保護も検討する」と述べた。それでも、預金に対する不安が高まっている。特に、今日の世界ではSNSを通して瞬く間に人々の不安などが拡散し、群集心理が高まりやすくなったことは大きい。5月1日にはファースト・リパブリック銀行が破綻した。2日にはカリフォルニア州地盤のパックウエスト・バンコープなどの地銀株が大きく値を下げた。ギャラップの調査時点と比較した場合、預金への不安を強める米国民は一段と増えている可能性がある。
1980年代、米国では貯蓄貸付組合(S&L)と呼ばれる金融機関の破綻が急増した。その要因の一つは、資金の調達と運用のミスマッチだ。多くのS&Lは、預金など短期で調達した資金を住宅ローンなど長期の信用創造に回した。当時の米国では、故ポール・ボルカー連邦準備制度理事会(FRB)議長によって徹底したインフレ鎮静化が行われ、金利は大きく上昇した。その結果、多くのS&Lが預金金利の上昇(資金調達コストの増加)や、保有していた資産の価値下落に直面して破綻した。その後、S&Lの経営不安は落ち着いたかに見えたが、1980年後半に再燃した。主たる要因は原油価格下落によるエネルギー業界の業績悪化による不良債権増加、規制緩和による過度なリスクテイクだった。これらのS&L危機の原因は、今回の米銀破綻にも共通する要素だ。短期的に株価下落、預金流出という負の連鎖反応は増幅されやすい。それに伴って、米国では銀行の融資態度が一段と硬化し、労働市場、個人消費など実体経済への下押し圧力も強まる。加えて、米国のインフレ率は依然として2%を上回っている。FRBが金融システムの安定に配慮しつつ金融引き締めを続ける可能性も高い。
今年後半、米国の景気後退懸念は高まり、世界経済の先行き不透明感も一段と高まりそうだ。わが国の景気にも下押し圧力がかかることは避けられない。そのタイミングで米国の中堅銀行の経営不安が一段と高まる可能性がある。わが国でも、預金保険制度の内容を国民により分かりやすく伝える必要性は増している。
(5月13日執筆)
※ https://news.gallup.com/poll/505439/half-worry-money-safety-banks.aspx
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