建具屋として創業し、二代目で建築業へ事業を拡大した「山翠舎(さんすいしゃ)」。2012年より三代目・代表取締役社長に就任した山上浩明さんは、古民家と古材に付加価値を見いだし、第二創業ともいえる新規事業に挑んでいる。自社の発展だけではなく"全方よし"の精神で、新たな市場創出を目指す。
父親に三度断られても家業入社を熱望
長野県長野市にある三代続く山翠舎は、代替わりするごとに業態が変わる。1930年、初代山上(やまかみ)松治郎さんが建具屋「山上木工所」として創業すると、70年に事業を継いだ息子の建夫さんが建築業へと事業を拡大した。その後、日本全国で施工を手掛けるようになり、孫の代では古民家、古木に付加価値を持たせるアップサイクル(創造的再利用)事業に転換している。
「一人っ子ですが家業を継げと言われたことは一度もなく、設計にも興味はありませんでした」
三代目の山上浩明さんは、実は今も設計には興味がないと笑い、こう続けた。
「ただ、事業を起こしたいという意欲はあって、大学で経営工学を学びましたし、大学1年の時にはウェブサービスを構築して収益を得ていました。そのまま起業しても良かったのですが、成り上がり社長ではゆくゆく知識が鈍化します。一度は勢いのある大企業を経験しておきたいとソフトバンクに入社しました」
営業部に配属されると頭角を現し、社長賞を取るほど。一方の山翠舎は価格競争に巻き込まれる下請け業者からの脱却に四苦八苦していた。
「はたから見ても経営はかなり厳しそうでした。でも、技術力も高く、客観的に見ても可能性を秘めた会社だと感じました。子どもの頃からかわいがってくれた職人さんたちの力になりたいという思いと、大企業で成績を残せた達成感、会社の経営方針の転換などいろいろ重なって、家業を立て直したいと強く思うようになりました。でも父からは3回も断られましたけれどね」と苦笑する。
建築業界はIT業界と価値観もカルチャーも違う。それを気に掛けた親心からの「反対」だが、山上さんは熱意を伝え続けて2004年、28歳で"念願"の山翠舎への入社を果たした。
培ってきた技術力を古民家・古材活用に転換
山上さんが入社して衝撃を受けたのが建築物の解体現場だ。特に古民家が顕著で、どんなに立派なつくりで、良質な建材が使われていても容赦なく壊される。そこで、山上さんは古民家からの古材調達に着手した。
「大学時代には環境問題をテーマに論文を2本書くほど関心があったので、貴重な古材が廃棄される解体現場では、胸の詰まる思いをしましたし、古民家や古材を生かしたい一心でした」
山翠舎は1985年から当時人気だったアパレルショップ「オクトパスアーミー」の店舗内装を手掛けてきた実績がある。古材を使った内装が高評価を得て、県内だけでなく全国の店舗の内装を任されてきた。それに建具、建築と業態は違っても、木材を大事にする企業風土がある。健夫さんも山上さんの考えに賛同し、古材を使った事業構想が練られていった。
新規事業には資金調達が課題となるが、長野県の補助金事業などを活用して古材の保管倉庫や加工工場、東京ショールームを開設。さらに1945年以前の古材を「古木(こぼく)」として登録商標を取り、古民家が建てられた年代や場所、古木の寸法や種類をデータベース化して古民家・古木の付加価値の「見える化」を進めた。
「古木の買い取り販売から始め、古木を使った店舗設計・施工、古民家そのものを弊社が借り上げ、内外装をリフォーム後に個人や企業に貸し出すサブリース(転貸)へと広げていきました。いわば古民家・古木マッチング事業です」
未来へつながる循環する社会をリード
工務店の域を超えた事業だが、当初から主力事業とする覚悟で挑んだ。2012年の事業承継時に経営計画書を作成し、社内に自らの意気込みを発表した。
「辞める人もいましたが、先を見据えて行動するしかありません。空き店舗となった古民家を再活用した、善光寺や小諸市など旧北国街道周辺のまちおこし、人口の多い東京と特色の異なる地域でビジネス展開を図ってきました」
古民家のリフォームや古木を使った店舗施工は約500以上と精力的な取り組みが評価され、20年、「古民家・古木サーキュラーエコノミー(循環型の経済)」でグッドデザイン賞に輝く。さらに『ガイアの夜明け』(テレビ東京系列)などメディアの露出も増えた。
「古民家、古木を生かせるのも、先代、先々代が培った建具、建築の知見と高い技術力があればこそ。リーマンショックのころは売り上げ約4億円でしたが、今期は11億円を狙える勢いです」と語る。創業100周年となる30年までには古民家、古木活用分野で地域に根付いた循環型社会を実現したいと、思いは熱い。
「古木の再販市場の形成、古民家を一つも壊さない仕組みを全国に広げたいです。大工人口の減少に歯止めをかけるべく大工学校の設立に向けても動いています。事業者や利用者、環境、未来にとって"全方よし"の精神で、さらに古民家・古木の魅力を地域、日本、世界へと伝えていきたいですね」
会社データ
社名 : 株式会社山翠舎(さんすいしゃ)
所在地 : 長野県長野市大字大豆島4349-10
電話 : 026-222-2211
HP : https://www.sansui-sha.co.jp/
代表者 : 山上浩明 代表取締役社長
従業員 : 25人
【長野商工会議所】
※月刊石垣2023年8月号に掲載された記事です。
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