Q 現在、従業員の給与は銀行口座へ振り込んでいますが、振込先が広がり、○○Payと呼ばれるデジタルマネーでの給与の支払いも可能になったと聞きました。どのような手続きを踏めば、デジタル払いができるようになるのでしょうか。導入時の留意点についても教えてください。
A 会社がデジタルマネーにより給与を支払うためには、労使協定の締結が必要です。また、デジタルマネーによる受け取りを希望する従業員に、制度の内容、資金移動業者に関する事項、口座残高の上限についての留意点等を説明し、書面による同意を得なければなりません。賃金支払日にデジタル払いする金額等必要事項を記載した給与明細書を交付するためのシステム改定などの対応期間も考慮して、準備を進めてください。
現在、多くの企業は従業員への給与の支払いを現金または銀行口座への振り込みで行っています。本来、給与は「通貨払い」「直接払い」「毎月1回以上払い」「全額払い」「一定期日払い」の5原則の下に支払うことと労働基準法で定められていますが、銀行口座と証券口座への振り込みが「例外」として認められているためです。この例外に今年4月からデジタル払いが加わり、銀行口座を介さず、指定資金移動業者の口座に直接給与を支払うことが可能となりました。
従業員にとっては、キャッシュレス口座に給与が入金されることで、現金や銀行口座からキャッシュレス口座へ入金する手間が省け、利便性の向上が期待されます。
指定資金移動業者とは
資金移動業者とは、デジタルマネーを提供する事業者のことで、○○Pay、○○ペイと呼ばれる決済サービスも該当します。このうち、賃金のデジタル払いに対応できる(会社が賃金の振込先に指定できる)のは、厚生労働省の審査・指定を受けた資金移動業者です。今年4月から、資金移動業者による厚生労働省への指定申請が始まっています(6月末現在、未指定)。
労使協定の締結と就業規則の整備
デジタルマネーにより給与を支払うためには、会社と従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります(令和4年11月28日基発1128第4号)。デジタル払いの対象は、必ずしも全従業員とする必要はなく、日給制・月給制といった賃金の支払形態や、従業員の雇用区分によって取り扱いを変えることも可能です。従業員に対し、デジタル払いを強制することはできません。
また、賃金の支払い方法は、就業規則の絶対的必要記載事項となるため、デジタル払い導入の同意が従業員から得られた場合には、資金移動業者の口座に賃金を振り込むことができる旨を就業規則に定めます。
従業員への説明と同意書の取得
デジタル払いの振込先は、預貯金口座に加えて選択できる形を取ります。振込先を資金移動業者のみ、すなわちデジタル払いのみとすることはできません。また、資金移動業者の口座は、銀行業と異なり預金の受け入れが想定されていないため、滞留規制により振込金額に100万円の上限があることや資金移動業者が破綻した場合の補償など留意すべき点がありますので、従業員に分かりやすく説明しなければなりません。そして、給与をデジタルマネーで受け取ることを希望する従業員については、個別に同意を得る必要があります。このように留意事項等を説明し、制度を理解してもらった上で、同意書にデジタル払いで受け取る賃金額や口座番号等を記載し、提出してもらいます。
給与明細書にも明示が必要
口座振込の対象である従業員に交付している賃金の支払いに関する計算書(給与明細書)にもデジタル払いの有無を明記しなければなりません。給与の振り込みや計算書の交付をシステムで行っている場合には、デジタル払いに対応した変更作業も進める必要がありますので、留意しておきましょう。
(中小企業診断士・竹内 敏則)
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