何かのサービスや心遣いを受けた時、私は相手よりも先に「ありがとう」と言うようにしています。例えば、タクシーの乗り降りの際や、昼食で訪れたお店でお水や注文した定食を出された際には、毎回言っています。多くの場合、言われた側は大きな笑顔とともに「ありがとうございました」や「こちらこそ」などと、一言返してくれます。
レストランや寿司屋などサービスが継続する場合は、担当者の雰囲気が変わります。「お客さまは自分のことを評価してくれている」と感じてポジティブな精神状態になり、より高いパフォーマンスを見せてくれるのです。結果、とても気分の良いひと時を過ごすことができます。
「ありがとう」の重要性は家庭生活の幸福感も高めます。私の実家は商売をしていたので、「立っている者は親でも使え」という暗黙のルールがありました。結婚してからも、妻が動く方向に自分の欲しい物があると、「あ、台所に行くなら新聞持ってきて」などと頼みます。それに対して、ある時、妻が言いました。「あなたに『持ってきて』と言われると、内心むっとするのよ。でも、持っていった後に必ず『ありがとう』と言うから、『まあ仕方ないか』と、まんざらでもない気分になるの」。
実は「ありがとう」にはト書きがあります。いわば細かな説明です。例えばタクシーの運転手に「荷物が多くて困っていたんです。止まってくれて、ありがとう」や、降り際に「会議に間に合わないかとハラハラしてたけど、これなら間に合いそうだ。ありがとう」と、ト書きを加えるとよりリアルな感謝の気持ちが伝わります。
船井総研に入って2、3年目の頃、毎週末、データづくりのためにさまざまな店舗に行って市場調査を行い、その結果を表にまとめるのが私の仕事でした。チームが7、8人の場合、報告会に出られるのは上の立場の2、3人で、市場調査をしてもそれがどう利用されているかは下の者には分かりません。数年後、私が報告会を聞く立場になった時には、調査担当者も出席させるようにし、その後、「君たちがいなければ市場調査はできないし、調査結果は大変役立っている。ありがとう」と、伝えるようにしました。すると、驚くほど調査担当者のモチベーションがアップしたのです。
ト書きを踏まえた上で相手に伝える「ありがとう」は、習慣でただ口に出る「ありがとう」よりもっと価値のある感謝の言葉です。相手に気持ちの伝わる「ありがとう」が自然に言えるようになると、感謝する心が根付いて生き方そのものが変わります。たかが「ありがとう」されど「ありがとう」。心の込もった「ありがとう」を身に付けたいものです。
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担当 : 髙橋
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