今年は関東大震災から100年という節目の年になる。わが国は、世界的に見ても自然災害が多く、南海トラフ地震など大震災がいつ起きてもおかしくないと予測されている。近年、台風被害や水害も毎年のように繰り返されている。そこで本特集では、さまざまな災害から人の命と地域を守る、各地の技術力に定評のあるものづくり企業の取り組みを紹介する。
巨大地震想定の静岡で防災住宅津波に負けないシェルターも開発
静岡市にある小野田産業は地域密着の住宅メーカーで、巨大地震を想定して災害に強い家の研究を進めてきた。同社は空気の力で家を持ち上げ、地震の揺れを軽減する装置「エアー断震」を柱に、電気や水道の自給ができる完全自立型防災住宅を開発したほか、発泡スチロール製の津波・火山用シェルターも考案するなど「命を救いたい」という思いで事業を進めている。
災害に強い家を研究中「エアー断震」と出合う
小野田産業は1945年に製材所として創業し、その後は地域密着の住宅メーカーとして静岡県内を中心に事業展開している。静岡県は巨大地震による大きな被害が想定されている地域のため、同社は災害に強い家の研究を進めてきた。 「家は人の命を守るものだから、自社事業で人の命を救いたいと、当社の会長は事あるごとに話しています」というのは、同社四代目で社長の小野田康秀さんである。
現会長の小野田良作さんが社長だった2009年、テレビのドキュメンタリー番組で「エアー断震」というシステムを見た。これは地震が発生したときに建物の基礎下へ空気を送り込み、建物を宙に浮かせて、建物に伝わる地震の揺れを30分の1に軽減する「断震=揺れを断つ」システムである。良作さんは早速、開発元である茨城県の会社へ出向き、同年にこのシステムの販売代理店となった(現在は東京に本社がある「三誠AIR断震システム」が本部)。その後、11年には東日本大震災が発生するなど全国で大災害が相次ぎ、同社では災害に強い家をつくりたいという思いを強めていった。
完全自立型防災住宅や津波・火山シェルター開発
同社はさらに独自の開発を進め、16年には完全自立型防災住宅「パーフェクトハウス+(プラス)」の特許を取得した。これは1.エアー断震、2.地盤改良、3.給水対策、4.非常用電源、5.下水道対策、6.非常食という六つの装備を持つ住宅で、被災後も4人家族が約3週間自宅で暮らせるようになっている。六つの装備のうち、同社独自なのが下水道対策である。公共下水道がある地域には通常は浄化槽がなく、汚水がそのまま下水道に流れているが、災害時に下水道管が使用不能になるとトイレが使えなくなる。同社のパーフェクトハウスには汚水を浄化処理して放流する浄化槽が設置してあり、災害時でもトイレが使える仕組みだ。下水道法により公共下水道がある地域では浄化槽の設置は不可だが、同社は経済産業省の協力によって、非常用として正規の手続きに沿って設置することは合法であると国土交通大臣・環境大臣連名での回答を得て、非常時のみ浄化槽を使えるようにしたという。こうした装備を体感してもらうため、22年には研修棟としてモデルハウスを完成させた。
さらに同社には、独自に開発した命を守るための商品がある。それが津波用シェルター「SAM」シリーズである。静岡市清水区は海に面しており同社は海抜2mの場所にあるため、津波が発生した場合の被害は常に想定している。そこで現会長が水に浮くシェルターを考案した。シェルターの素材は難燃発泡スチロールで、内装と外装は衝撃に強いコーティング材「ポリウレア」で塗装されている。非常時だけ使うものとして設置しておくのはもったいないと、普段から個室として使えるような内装にした。同社では高さ10mの位置からシェルターの上に自動車を落とす落下実験や、シェルターを海に浮かべる実験などを重ね、17年に特許を取得した。東京や大阪で開かれた防災イベントで展示したところ大きな注目を集め、これまでにインドネシアと日本全国に約30基販売している。代理店になりたいと希望する企業も多いという。
防災住宅で強靭化大賞受賞パーフェクトハウスを避難所に
同社のパーフェクトハウスは22年、強靭(きょうじん)な国や地域づくりに取り組む企業や団体に贈られる「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」最優秀賞を受賞した。同社の強い思いから開発されたパーフェクトハウスだが、普及を阻んでいるのは高額な費用である。エアー断震のみの場合には建物の建設費に1坪当たり約30万円が加算されるため基礎面積が15坪なら約450万円が必要で、パーフェクトハウスでは1坪あたり約50万円が加算されるため床面積が30坪なら約1500万円が必要となる。しかし、ネットなどを通じて防災意識の高い人から問い合わせもあり、これまでに2棟が施工され、3棟目も建設予定である。
同社はパーフェクトハウスを全国に広めたいと「友の会」を設立した。対象は全国の工務店などで、会員になれば同ハウスの建築資材や技術を提供するそうだ。 「将来的には地域の集会所などに採用されて、パーフェクトハウスが避難所としても使えるようになるといいと考えています」と小野田社長は今後への期待を語った。
会社データ
社 名 : 株式会社小野田産業(おのださんぎょう)
所在地 : 静岡県静岡市清水区梅田町13-8
電 話 : 054-352-0167
HP : https://www.onoda-sg.co.jp
代表者 : 小野田康秀 代表取締役社長
従業員 : 25人
【静岡商工会議所】
※月刊石垣2023年9月号に掲載された記事です。
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