今年は関東大震災から100年という節目の年になる。わが国は、世界的に見ても自然災害が多く、南海トラフ地震など大震災がいつ起きてもおかしくないと予測されている。近年、台風被害や水害も毎年のように繰り返されている。そこで本特集では、さまざまな災害から人の命と地域を守る、各地の技術力に定評のあるものづくり企業の取り組みを紹介する。
耐震補強工事で「建物=シェルター」に自社の技術力で建物の安心を支える
京都府南部にある宇治田原町の自然に囲まれた環境で鉄骨加工業を営む鹿間工業は、耐震を意識した鉄骨加工と建物の耐震補強工事に力を注いでいる。同社は鉄骨や補強工事で「建物=シェルター」にすることで、震災が起こった際に中にいる人たちの命を守るだけでなく、設備や施設も保護するという考えの下、高い溶接技術と専門知識を駆使して、全国各地の建物の安心を支えている。
優れた溶接技術を持つ社員が多数いることが強みに
鹿間工業は建築・土木・プラント用鉄骨の設計・製作・施工を事業内容とする鉄工所である。建物のフレームや骨組み用の鉄を工場で加工して、建築現場に運んで組み立てている。会社は京都府の郡部にあるが、その分、工場の敷地が広く取れるため、大きな鉄骨を加工し、保管できるスペースが十分にある。そして、独自の輸送体制と各地の事業パートナーとの連携により、全国各地への対応を可能としている。 「もう一つの大きな強みが、鉄に関するあらゆる業種のニーズに対応できる資格者が多数いることです。特にAW検定という、溶接の資格の中でも特に優れた技術を持つ人しか合格できない建築鉄骨溶接の資格を持つ社員が5人もいます。これは中小規模の鉄工所としては多い人数です。そういった技術力の高さも、当社のアピールポイントになっています」と、社長の鹿間大さんは自社の強みを説明する。
この特長を生かし、2021年の東京オリンピックで使用された大井ホッケー競技場を筆頭に、消防署やホテル、ショッピングモール、大型倉庫、図書館など、各地のさまざまな建物の鉄骨を加工、設置している。 「私たちの仕事は設計通りに鉄骨をつくるだけでなく、そこに運んで組み立てなければいけません。現場によっては鉄骨を設置するためのスペースが制限されることもあり、それに対応するには経験や提案力も必要です。近年、建設業界はベテランが不足していて、現場に提案できる鉄工所が減っています。うちには建築士も含めて経験豊富な人材が多いので、お客さまにリピートして発注していただけるのだと思います」
さまざまな状況に対応できる経験と技術力が必要不可欠
建物の耐震補強工事も、同社は大きな力を注いでいる。日本では建築法の改正により1981年6月1日を境に建物の耐震基準が大きく変わり、旧耐震基準で建てられた建物は耐震性が不十分なものが多い。そのため国土交通省では「令和12年までに耐震性が不十分な住宅、令和7年までに耐震性が不十分な耐震診断義務付け対象建築物をおおむね解消する」ことを目標として掲げており、建物の所有者による耐震化への呼び掛け・支援を行っている。 「今の耐震基準に合っていない建物は、私たちが手掛けるような大きな建物で全国に6万棟もあり、そういった建物は耐震補強するか建て直すよう国から指導が入っています。数が多いだけに長期にわたり仕事を受注できると考えたのが、耐震補強工事に参入したきっかけです。2012年にこの会社を引き継いだときから考えていました」と鹿間さんは言う。
それまで付き合いのあった建築会社を通じて、近隣の県にある大手メーカーの工場で行われる10年がかりの耐震補強工事に関わることができ、それから徐々に受注数を増やしていった。 「鉄骨を加工するという面では、普通の建築も耐震補強も同じです。しかし、耐震補強は既存の建物に鉄骨を一つ一つ合わせなくてはならず、多くの場合、その建物は使われていますから、企業でしたら中での業務を止めずに補強材や鉄骨を設置していかなくてはいけない。夜間に工事することも多く、鉄骨を建物の中に入れる場所が窓しかなく、小さな鉄骨を運び込んで現場で溶接するというケースもあります。こういったさまざまな状況に対応できる経験と技術力が必要になってきます」
成果や効果は見えにくいが人々の安心・安全につながる
同社の高い溶接技術は、耐震補強工事でも生かされていると鹿間さんは言う。 「溶接は高い電流で鉄と鉄を溶かし、いろいろな形に加工して接着させるものですが、その接着した部分が、地震が起こったときに壊れる可能性が高く、一番のウイークポイントになります。そのため耐震補強工事では、溶接した部分が母材の鉄骨よりもさらに強固に、地震が起きても強度を保つ強さでなければなりません。もう一つは最終の仕上げです。仕上げで溶接部分に傷が入ると、その傷がきっかけで、そこから割れる原因にもなるので外観的にもきれいに仕上げなければなりません。そのためにも、鉄を溶かす電流や電圧の扱い方と、鉄の溶け具合に合わせた手の動かし方で高い技術力が必要となるのです」
こういった耐震補強工事は、天井裏など目に見えない部分に施されることが多く、その成果や効果は見えにくい。 「だからこそ、工事を施工した業者にAW検定の有資格者が何人いるかというのが、安全性や信頼性につながる指標の一つになっています。耐震補強工事をすることで、建物=シェルターになり、皆さんの安心や安全につながる。そういったことに自分たちの技術力が役に立っているというのが、当社社員のやりがいや自負につながっています。今後は、これまで培ってきた技術力を生かし、造船や橋、リニア中央新幹線のトンネルなど、建築以外の分野にも進出していきたいと考えています」
地震が起こっても建物が壊れないのは当たり前のことではなく、耐震補強をしているからこそ壊れない。同社の仕事は目立たないものの、建物の中にいる人たちの命を確実に守っている。
会社データ
社 名 : 有限会社鹿間工業(しかまこうぎょう)
所在地 : 京都府綴喜郡宇治田原町禅定寺松尾58-10
電 話 : 0774-88-2610
HP : https://shikama-kogyo.com
代表者 : 鹿間大 代表取締役社長
従業員 : 23人
【京都商工会議所】
※月刊石垣2023年9月号に掲載された記事です。
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