今年は関東大震災から100年という節目の年になる。わが国は、世界的に見ても自然災害が多く、南海トラフ地震など大震災がいつ起きてもおかしくないと予測されている。近年、台風被害や水害も毎年のように繰り返されている。そこで本特集では、さまざまな災害から人の命と地域を守る、各地の技術力に定評のあるものづくり企業の取り組みを紹介する。
自社製品の看板で社会貢献ができないかその発想から生まれた画期的な救護器具
ものづくり産業が盛んな大阪府堺市にある常磐精工は、店舗前や施設に設置する立て看板やポールサインなど、アルミ製の販売促進ツールを中心に製造・販売を行っている。同社が開発した「サポートサイン」は、誰でも思いつきそうだが、いざ形にするとなると容易ではない。通常は普通の立て看板として使用し、災害や事故などの緊急時には車いすや担架、ストレッチャーといった救護用具として使用できる画期的な製品である。
普段は看板として使いいざというときに救護用具に
ベアリングの切削加工で創業して今年で58年目となる常磐精工は、1998年から自社の技術を生かしてアウトドア用品や園芸用品の製造・販売を始め、2001年から自立式立て看板を製造するようになった。その経緯について同社社長の喜井充さんはこう語る。 「ガーデニングブームで園芸用品をつくるようになると、生花市場で販売していきました。その市場に入っている葬儀社さんから、葬儀場に置く看板の製造を依頼されたのが、看板業界に参入したきっかけです。ガーデニングのブームが下火になると、それからは看板の製造に専念するようになりました」
看板を販売する会社は数多くあるが、同社のように自社の工場で製造・販売している所は少ない。そのため特別注文や短納期にも対応できることから受注を伸ばしていき、現在、国内企業では立て看板の生産数でトップシェアを獲得している。そのような中、同社が開発した救護器具兼用看板「サポートサイン」は、普段は人通りの多い場所に看板として設置するため、災害時などいざというときにすぐに車いすや担架、ストレッチャーとして使うことができるという、新しいコンセプトの防災・救護器具である。 「開発を始めたきっかけは東日本大震災です。最初は看板の上部に『がんばろう日本』と書いた製品を販売し、被災地に義援金として送っていました。しかし、1年もたつと販売数も減ってくる。ほかに看板で社会貢献ができないかと考えていたところ、時代劇で戸板にけが人を乗せて運ぶシーンを見て、看板を担架にしたらいいのではないかと思いついたのです」
斬新なアイデアが反響を呼び多くのメディアに紹介される
アイデアは浮かんだが、そこから開発までに時間がかかった。看板と担架では求められる強度が違う。看板に使うパイプのままでは、人を乗せて運べるほどの強度はなかった。そのため、パイプの開発から始めなければならなかった。その頃、息子の翔太郎さんが家業に戻ってきた。そこから親子二人三脚で、防災・救護にも使える看板の開発に取り組んでいった。その後の開発の流れについては、翔太郎さんが説明する。 「アルミパイプの断面の設計から始まり、頑丈に連結できる構造にしていきました。また、担架に必要な強度が分からなかったので、大学教授や専門家の意見も聞き、大学の研究所で強度実験もしました。これなら大丈夫というパイプが完成したところで、担架の試作品をつくったのですが、実際に人を乗せてみたら、重過ぎて大人二人では運べない。そこで、担架ではなく脚にキャスターを付けたストレッチャーに変更しました」
そうして16年9月に製品第1号が完成し、11月には「救護器具兼看板立て」として特許も取得した。「サポートサイン」と名付けた新製品を展示会に出展すると、その斬新なアイデアが大きな反響を呼び、テレビ、新聞、雑誌などで次々に紹介されていった。 「当社は従業員10数人の町工場なので、それまでマスコミに登場する機会は少なかったのですが、この商品ができてからは、本当に多くのビジネス番組や記事で取り上げていただきました。ユーザーさんや展示会で見た方々からの意見を参考にして、商品がより使いやすくなるよう新たな機能を付けたり、新たな製品ラインアップを加えていったりしました」
イベント関連に向けた新たな製品も開発
サポートサインは「素晴らしいアイデア」との評価を得た一方で、販売台数は思うように伸びなかった。また、コロナ禍以降は大きなイベントが開催されなくなり、飲食店も営業自粛を余儀なくされたことから、看板そのものの需要も大きく落ち込んでいた。 「このような状況の中、昨年10月にこの地域のオープンファクトリーに参加した際、サポートサインが堺商工会議所の方の目に留まり、市の消防局に紹介していただきました。それがきっかけで堺市総合防災センターという西日本で一番大きい防災センターに設置していただきました。また、SNS広告も出すようにしたところ、今年に入ってまとまった台数の注文が入り、効果が少しずつ出始めているのかなと思っています」と翔太郎さんは笑顔を見せる。
現在、サポートサインの納入先で最も多いのが工場や倉庫で、次いで学校、企業となっている。看板としては値段が高いが、本格的なキャスター付き救護用ストレッチャーに比べたら安い。しかも、看板なので目立つ所に設置するため、いざというときにすぐに使える。それが採用される大きな理由となっている。 「今、熱中症対策に向けて、他社とコラボして新たな機能を付けたサポートサインの計画が進んでいます。サポートサインがあることで人の命が助かることも大事ですが、看板には情報発信や警報という機能もあるので、そういった意味でも、これを普及させていきたい。これからイベントも増えてくるので、そのような分野にも売り込んでいけたらと思っています」(喜井社長)
看板のある所に救護用具あり。そういった社会を同社は目指している。
会社データ
社 名 : 常磐精工株式会社(ときわせいこう)
所在地 : 大阪府堺市北区常磐町3-19-3
電 話 : 072-255-1287
HP : https://www.tokisei.co.jp
代表者 : 喜井充 代表取締役
従業員 : 16人
【堺商工会議所】
※月刊石垣2023年9月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!