はじめに
本日は、日本商工会議所第137回通常会員総会が盛大に開催されますこと、心よりお祝い申し上げます。海外出張のため、会場に直接お伺いすることはかないませんでしたが、こうしてごあいさつできることをうれしく思います。
経済産業行政における課題
30年ぶりの高水準の賃上げが実現し、国内投資は100兆円を超える見通しとなるなど、日本経済に「潮目の変化」が生まれております。こうしたマクロ環境の変化を最大限に活用し、日本経済を成長軌道に乗せることが重要です。一方、私たちの前には、人手不足や少子高齢化、気候変動対策など、待ったなしの社会課題が山積しています。こうした社会課題は、それを解決することで時代を転換するチャンスでもあります。そして、さまざまな課題を乗り越える鍵は、イノベーションとアニマルスピリッツです。今こそ、皆さまにアニマルスピリッツを発揮していただき、時代の転換をリードしていただきたいと考えています。
日本経済全体でまず必要なことは、GX、デジタルといった分野で、世界をリードするための大胆な国内投資を進め、イノベーションを官民で加速するとともに、挑戦する企業や人材を応援し、経済社会構造の転換を図っていくことです。例えば、GXの実現に向けては、水素・アンモニアの導入促進に向けた環境整備などをはじめ、GX推進法に基づき、脱炭素と産業競争力強化を同時に実現する投資を、GX移行債を活用しながら積極的に進めてまいります。
また、足元でのイノベーションの代表格といえば、生成AIです。生成AIは、社会に地殻変動をもたらす革命的技術です。少子高齢化により人手不足が加速する日本にとって生 成AIは、生産性を大きく向上させる可能性を秘め、中小企業・小規模事業者の皆さまが大胆に事業を革新する「武器」になり得るものです。生成AIを気軽にさまざまな用途で 使えるような環境を速やかに実現するために、開発を加速していくための計算資源の拡充を進めます。
現在直面する物価高、人手不足、そして、将来起こり得る金利高といった課題を乗り越えていくために、皆さまには生成AIの活用などによるイノベーションにぜひとも挑戦し ていただきたいと思っています。私たちもそうした挑戦をしっかり支援させていただきたいと考えています。
物価高対策
エネルギー価格の高騰などの物価高という足元の危機を乗り越えるためには、厳しい状況に置かれている家庭や企業の方々に負担軽減策をお届けし、その効果を国民の皆さまに実感してもらえるよう、全力を挙げていく必要があります。ガソリンなど燃料油の激変緩和事業については、原油価格が国民生活や経済活動に与える影響を緩和すべく、新たな措置を9月7日から発動しており、まずはこれを年末まで講じてまいります。
また、電気と都市ガスの料金の激変緩和措置についても、物価高に対応する経済対策を策定し、実行するまでの間、9月末まで行うこととしている値引き支援を継続することと いたしました。その上で、物価高が進む中で、国民の生活を守るため、家計や企業への影響を見極め、エネルギーを巡る諸情勢を踏まえつつ、経済対策全体の検討を踏まえて必要な対応を行っていきたいと思います。
中小企業・小規模事業者への支援
雇用の7割、付加価値の5割を占める中小企業・小規模事業者の皆さまに対しては、環境変化に対応した資金繰り支援、賃上げに向けた価格転嫁対策を強化するとともに、環境 変化に果敢に挑戦する中小企業・小規模事業者の生産性向上や事業再構築の取り組みをしっかりと応援していきます。
過去最大の引き上げ額である今年度の最低賃金の引き上げに際し、特に重要になるのは価格転嫁を通じた賃上げです。先月、本年3月の価格交渉促進月間の結果を踏まえた企 業リストを公表いたしました。評価が芳しくない親事業者に対しては、業所管大臣名で企業トップへ指導・助言を実施しております。加えて、9月は価格交渉促進月間であり、親事業者の皆さまにおかれましては、取引先に対し、自ら、積極的に価格交渉を持ち掛けていただき、また下請事業者の皆さまにおかれましては、思い切って、取引先へ価格交渉をお申し出いただくなど、経済産業省としても、一歩踏み込んだ価格交渉、転嫁を後押ししてまいります。
また、サプライチェーン全体の共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」については、日商にも積極的に宣言の拡大に取り組んでいただいておりますが、9月に宣言企業 数が3万2千社を超えました。政府としても、引き続き宣言の拡大とその実効性の向上に取り組んでまいります。
さらに、賃上げを一過性のものとせず構造的に持続させるためには、こうした取り組みに加えて、人手不足に対応するための生成AIの積極的活用など事業革新を伴う省人化・ 省力化投資、戦略分野への投資を促すための政策に今後一層強力に取り組み、経済をしっかり成長軌道に乗せ、競争力のある産業構造を実現していくことが重要です。
こうした取り組みを進める上で、地域の身近な支援機関である商工団体の役割は極めて大きく、令和4年度第2次補正予算では、新型コロナ、物価高騰、デジタル化、インボイ ス導入など、昨今の事業環境変化を踏まえ、相談員などの商工会議所などへの配置や、経営指導員向けの研修に関する費用を補助し、相談体制強化に向けた支援を実施しました。
また、伴走型支援を継続して推進するため、令和5年度当初予算では、商工会議所などが実施する、小規模事業者の経営状況の分析や新たな需要の開拓などの支援を行ってお り、引き続き、地域の支援機関の体制強化に取り組んでまいります。
ALPS処理水の海洋放出
8月24日に東京電力がALPS処理水の海洋放出を開始しました。これまでのところ、海域モニタリングの結果からは、計画通りに放出されており、海水や魚についても安全性 が確保されていることが明らかとなっています。他方で、ALPS処理水の海洋放出以降の一部の国・地域の輸入規制強化などを踏まえ、全国の水産業支援に万全を期すべく、す でに用意した800億円の基金に加えて、特定国・地域依存を分散するための緊急措置事業を予備費で措置し、9月4日に、総額1007億円の5本柱からなる政策パッケージを取りまとめました。
国内の消費拡大のためには、官民一体となった機運醸成が不可欠であり、皆さまにおかれましても、イベントの実施や社食などの取り組みを通じて、「国内の水産物をおいしく 食べて、応援しよう」という国民的な運動を全国大に広げていただくよう、ご協力をお願いします。
終わりに
日本商工会議所と経済産業省は、これまでも中小企業・小規模事業者への支援、地域の活性化に向け、緊密に連携してまいりました。商工会議所の皆さまとは、引き続き良き パートナーとして、雇用を守り、地域社会を支える中小企業の支援に共に取り組んでいきたいと考えています。
最後になりますが、日本商工会議所ならびに全国の商工会議所のさらなるご発展と、本日ご参集の皆さまのますますのご健勝を祈念いたしまして、私のあいさつとさせていただ きます。
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