民間信用調査機関の調べでは、4~9月の企業倒産件数は前年同期を大きく上回った。理由の一つにコロナ関連で導入された実質無利子・無担保のゼロゼロ融資の返済が本格化したことが挙げられる。これを受けて「早く倒産するはずだった中小企業が生き延びたのが問題だ」といった乱暴な声を聞く。日本で活躍する外国人経営者の中には「日本の労働生産性が向上しないのは小規模事業者が多いからで、規模の拡大が求められる」と論陣を張る人もいる▼
どんな企業でも「今を生き抜く」のは最重要課題だ。小規模事業者が説得力のある事業計画を持っているなら、資金繰り難で行き詰まる事態だけは避けなくてはならない。そんな意欲的な企業を無視して「存続の意味はない」と一概に言い切るのはいかがなものか。一部の中小企業は大企業よりもはるかに高い労働生産性を達成している。数年かけて商品やサービスの変革を進めていると、その間、労働生産性が低下する場合もある。外国人経営者から見れば、日本市場への参入障壁とされてきた「系列」の一端を担う中小企業の存在が「愉快ではないのだろう」と政府系金融機関の元役員は指摘する。下請けではなく、独立した経営基盤のある中小企業は生産性向上の阻害要因にはならない▼
人手不足は中小企業にとっても深刻だが、採用の仕方を変える好機でもある。子育て世代、介護家族がいる人、シニア世代、短時間勤務や副業を望む人など、働く側の特性や希望に合わせた採用ができれば、その企業が活性化するのは間違いない。制度設計は容易でないが、工夫する価値は十分にあるだろう。そうした取り組みが企業の生産性向上にも寄与すると思う
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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