酒の一大消費地・江戸に進出
銘酒「白雪」で知られる小西酒造は、古くから酒づくりが盛んな兵庫県伊丹市で、470年以上にわたり酒造業を営んでいる。創業は天文19(1550)年で、初代・小西新右衛門宗吾(そうご)の祖父が、現在の京都府京丹後市から伊丹に移り住み、薬種業を営む傍ら濁り酒をつくったのが始まりである。 「慶長5(1600)年頃から伊丹では濁り酒から清酒をつくるようになり、初代新右衛門は17年から酒造を本業とするようになったのです。つくったお酒は樽(たる)に詰め、馬で江戸に運んでいました」と、同社社長の十五代小西新右衛門業寛(ぎょうかん)さんは言う。小西家では代々、当主が新右衛門を襲名している。
そして寛永12(1635)年、二代新右衛門宗宅(そうたく)が馬に酒樽を載せて江戸に運ぶ途中、目にした富士山の気高さに感動し、酒に「白雪」と名付けたことから、これが小西酒造の酒の銘柄となった。この白雪は、現存する銘柄としては日本最古のものである。さらに、四代新右衛門霜巴(そうは)の代になると、元禄7(1694)年に江戸で他家の酒の卸売りもする酒問屋を開業。その数年後には大坂で樽廻船問屋を始めるなど、その後の発展の礎を築いていった。 「おそらくまだ銘柄という概念がない頃から酒に名前を付け、一大消費地の江戸に乗り込んで酒問屋を出した。そして江戸の情報を把握して商売をしていました。その頃から今でいうマーケティング戦略を行っていたのです。廻船問屋を始めたのも、すでに物流に対する意識が高かったのでしょう。それぞれの当主に先見の明があったからこそ、私どもがこれまで続けてこられたのだと思います」
地域の文化的発展にも貢献
家業を繁栄させる一方で、小西家は豊かな財政を背景に、伊丹の政治・経済・文化にも関わり、地域の発展にも貢献していった。 「江戸時代、伊丹は近衛家(公家の五摂家の一つ)の領地となり、町政は惣宿老(そうしゅくろう)という、今でいう町長の役割をまちの酒造家が持ち回りで担当していました。その後、酒造家が減っていったために、小西家が担当することが多くなっていったようです」
経済的な面では、資金を各地の大名に貸し付ける「大名貸」を行い、藩の財政を援助。文化的な面では、名酒を求めて伊丹を訪れてきた文人墨客と酒造家が交流する中、四代新右衛門霜巴は井原西鶴や近松門左衛門らとの親交を深めていった。 「かつて、伊丹には厄介長屋というものがありました。文人墨客が厄介になる長屋という意味で、先生方がここに泊まり、文芸や武道などを教えていただいていた場所でした。また、惣宿老にはまちの治安を守る責任もあり、小西家は自衛のために道場を開設しています。今もこの道場は、公益財団法人修武館として残っています」
さらに明治以降になってからは、兵庫県令の依頼により、十代新右衛門業廣(ぎょうこう)が有志とともに資金を出して小学校を設立。また、周辺地域の鉄道事業にも積極的に参画するなど、伊丹の教育や交通基盤の整備にも寄与している。
海外でも好まれる酒づくりを
昭和14年には「山は富士 酒は白雪」のキャッチコピーで広告を開始。34年には酒造業界で初めてテレビドラマのスポンサーになるなど、白雪の名を全国に広めていった。 「江戸時代のマーケティング戦略や物流の重要性の認識、企業の地域貢献や宣伝など、今は当たり前になっていますが、それを先んじて始めていたわけです。時代に流されず、本質的な部分を押さえてきたところに、先人の知恵のすごさを感じています」
小西さんは平成3年に39歳で社長に就くと、「不易流行」(不変の中に変化を取り入れること)を経営理念に掲げ、酒づくりの伝統を守りながら新しいことに取り組んできた。社長になる前の昭和63年にはベルギービールの輸入販売を開始した。社長になってからの平成7年にはクラフトビール、平成18年にはワインの生産も始めている。 「私が目指しているのは、お酒を通じて社会に貢献する会社です。特に食は人間の基本ですから、お酒と料理との組み合わせで食をより楽しくすることによって、人間の生活を豊かにしていきたいと考えています」
そして、今後の展開について小西さんはこのように考えている。 「国内市場が小さくなる中、これからは世界に羽ばたく白雪として、国内だけでなく海外でも受け入れていただけるお酒づくりができる企業を目指していきます」 清酒発祥の地とされる伊丹で、同社は日本だけでなく世界の食の風景も豊かにしていく。
プロフィール
社名 : 小西酒造株式会社(こにししゅぞう)
所在地 : 兵庫県伊丹市東有岡2-13
電話 : 072-775-0524
HP :https://www.konishi.co.jp/
代表者 : 小西新右衛門 代表取締役社長
創業 : 天文19(1550)年
従業員 : 約120人
【伊丹商工会議所】
※月刊石垣2023年11月号に掲載された記事です。
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