大鎌電気は1945年創業の電気工事会社。現社長の大鎌幸雄さんが入社した当時は「アナログな会社」だったが、積極的にDXを進め、2020年から3回連続で「全国中小企業クラウド実践大賞」に出場。20年の札幌大会、21、22年の北海道・東北大会で「クラウド実践奨励賞」を受賞。DX成功の秘訣(ひけつ)は、理念やビジョンの「教育」にあった。
経営感覚を身に付けるツールを導入
大鎌電気は公共事業を請け負うBtoG、法人向けの電気工事、電気通信工事、消防施設工事やエネルギーマネジメント提案などのBtoB、2021年からは「住まいのおたすけ隊」のFCとして一般家庭向けのサービスを提供するBtoC事業を手掛けている。 代表取締役の大鎌幸雄さんは、人材確保のためにも「地域社会の発展に教育という形で貢献したい」と考え、複数の研修講師の資格を取得し、社内外の講習会で講師としても活躍中だ。大鎌さんが教育に着目したのは、労働人口減少の課題解決には、デジタルツールの導入だけでなく、同時に社員教育を合わせて行うことで、業務を効率化、省力化できると考えたためだ。
同社が工事部、総務部、営業部に導入したDX関連のハード、ソフトは図のように多岐にわたる。主なIoT機器やツールは、20年の図面・現場管理アプリ「SPIDERPLUS(スパイダープラス)」、21年、遠隔作業支援システム「Vista Finder(ビスタファインダー)Mx」、22年、業務アプリがノーコードでつくれる「kintone(キントーン)」だ。 「いい会社」にしようと、ツールを導入したが、当初はうまく機能しなかった。 「ツールを導入するほど離職者が増え、コミュニケーション・ミスでトラブルが起きました」
それはなぜか。大鎌さんは目標達成の指標に「アチーブメントピラミッド」を用いて反省する。ピラミッドの根底に「目的」として理念とビジョンを置き、その上に目標→計画化→日々の実践(=社員の一日の行動)を積み重ねると、組織の存在理由や価値が明確となり、社員一人一人の行動が変化する。そして強い組織づくりを目指せるのだが、「私は手段(IoT機器やツールの導入)にばかり取り組み、根底にある理念やビジョンの教育をおろそかにしていた」。
では、大鎌さんが思う「いい会社」、強い組織づくりとは何か。 「父の時代はCS(顧客満足度)を重視した顧客第一主義でした。その後、企業利益が重視された時代を経て、最近では社員のエンゲージメント(働きがい)に着目して従業員第一主義が大事といわれます。ですが、ES(従業員満足度)は高いけれど、CSが低く利益が出ていない会社なんて成立しません。ESもCSも利益も高い“三方良し”の会社になるよう、従業員に理念やビジョンといった根底の部分の教育に力を入れているのです」
実践例として、ソニーCDIが開発したMGの利用が挙げられる。全社員がこのゲームを通じて経営の疑似体験ができ、経営感覚を身に付けられる。すると、DXの重要性も腹落ちして、組織のまとまりが強くなるのだ。 「IoT機器やツール類は毎年たくさんリリースされます。それらを調べて選ぶのが重要なのではなく、まずはしっかりとした組織づくりが大事」と大鎌さんは語る。
遠隔作業支援システムで新人育成にかける時間を削減
同社の社員数は、大鎌さんが入社した当時は少なかった。「ずっと少ない人数で仕事を回してきたので会社には人を育てる仕組みがなかったし、ベテラン技術者たちは、人に教えるくらいなら自分でやった方が早いと考えていました」。それでは新人の経験値が上がらない。
遠くの作業現場で撮影した映像を本社へ生中継する遠隔作業支援システム「ビスタファインダー」の導入は、一人前の技術者になるには10年かかるといわれるこの業界で、新人を短期間で戦力化するために役立った。経験の浅い技術者がメガネ型のスマートグラスのカメラを通じて現場や作業の状況映像を本社へ送り、熟練技術者が確認し、必要ならばAR技術を活用してスマートグラスのモニターへ作業指示を映し出す仕組みだ。経験の浅い技術者はベテラン同様の工事品質が確保でき、ベテラン技術者は新人育成にかける時間を削減できた。
また、「はこだて仕事フェスタ」など就職活動中の学生が多数集まる会場でも、実際にこのツールを使ってもらう仕事体験が人気となり、採用面で功を奏したのだ。 今後の課題は、案件管理や現場への引き継ぎを容易にした「キントーン」に、ツール類を一元化することだという。
大鎌さんが教育に力を入れ、強い組織づくりを進めた結果、社員一人一人がDXの必要性を理解するようになった。それが同社のIT導入、DX推進成功の秘密だ。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・紙ベースで業務を行うアナログな会社だった
・社員数が少なく、新人育成の仕組みがなかった
導入したITシステム
・スパイダープラス、ビスタファインダー、キントーン、クラウドストレージのBox、Zoomなど
IT化後の状況
・スパイダープラスを導入した結果、工事部の残業時間を95時間削減(19年と20年の同月比)
・ビスタファインダーを導入した結果、10年かかる人材育成期間を大幅に短縮。積極的なIoT活用姿勢は新卒採用にも好影響
・キントーンの導入で、案件情報が見える化され、進捗(しんちょく)管理や引き継ぎが円滑化された
会社データ
社 名 : 大鎌電気株式会社(おおかまでんき)
所在地 : 北海道函館市赤川町576-2
電 話 : 0138-46-1378
代表者 : 大鎌幸雄 代表取締役
従業員 : 25人
【函館商工会議所】
※月刊石垣2023年12月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!