プラスチック射出成形品加工メーカーの土屋合成は、 「24時間365日止まらない工場」をDX推進により実現する。さらに事業領域の拡大を視野に、全ての製品に製品情報を付与、管理する仕組み(トレーサビリティー)を構築。同社のDXへの取り組みと成果が評価され、「DXセレクション2023」の準グランプリに選ばれた。
手作業が限界に達しロボット導入を決断
土屋合成は、1972年創業の精密プラスチック射出成形品加工メーカーだ。現在はボールペンの成形を主力事業として、デジタル時計の外装、精密ギア部品、ナースコール外装などにも領域を広げている。
単価の安いプラスチック製品は、大量につくらなければ利益を生まないため、創業当初から工場は24時間365日稼働していた。後継者として91年、20代で入社した現社長の土屋直人さんは当時を振り返って、「機械1台に従業員が何人も付いて動かしていたし、製品の取り出し、検品、箱詰め作業などの工程は全て人力で回していた」と話す。24時間体制を維持するための人員確保も難しく、「夜間や休日に『チョコ停』(小さなトラブルで生産ラインが止まってしまうこと)が起きると、創業者の父は工場に泊まって対応した」という。検品や箱詰め、納品方法など顧客の要求がどんどん厳しくなると、単純な手作業をせざるを得ず、人件費がかさみ利益を圧迫した。「そのような経営状態の会社で、単純作業を強いられる従業員は働く意欲をそがれるし、私自身も嫌でした」
2006年、社長に就任した土屋さんは、生産における課題を改善すべく、デジタル技術の活用を積極的に進めていった。取り組んだのは、ゲートカットロボット導入による作業の自動化だ。ゲートとは射出成形機が金型へプラスチックを流し込むための口のこと。成形品を取り出すにはゲートの部分でカットする必要がある。 「ゲートカットは、主に内職さんにお願いしていた単純作業なので、まずここにロボットを導入しました。200~300万円の投資が必要で割に合わないという声もあったのですが、効果は想定以上だったため、他の工程のロボット化やデジタル化に弾みがつきました」。だが、土屋さんは、性急な導入は避けた。内職者も含めた従業員へロボット導入のメリットを説いて、決してリストラ目的ではないことを約束。人でなければできない作業に専念するためだと説明した。その結果、スムーズに自動化、デジタル化が進み、やがて従業員の方から「この作業も自動化できるのではないか」という声が上がるようになった。
DX課を新設し新規分野にも進出
現在、同社の3工場の生産ラインには、ほとんど人影がない。製品の製造から箱詰めまでの工程のほとんどをロボットが担っているからだ。
従業員の仕事は、主に生産の管理だけとなる。例えば、金型や機械に貼ったQRコードをタブレットで読み込むと、金型のメンテナンスの状態や機械の稼働状況が確認できる。目視に頼っていた検品作業も最先端の画像処理技術や測定器を活用し、従業員の負担軽減と検品品質を向上させた。 「課題だった夜間や休日も成形機一台一台の稼働状況を集中監視できるWebシステムを開発・運用し、工場全体の作業状況を見える化しました」と土屋さん。作業マニュアルもデジタル化することで、文字だけでなく熟練者の作業風景を動画で学べるようになり、従業員の育成に役立っているという。
22年、社内にDX課を新設。7人ほどの従業員が製造、生産管理、品質管理など各部署と兼務し、DXの可能性を探っている。DXを進め、厳格なトレーサビリティーを実現することで、既存顧客にはより良い製品を届けることができるようになり、さらに「要求水準が非常に厳しい自動車向け製品の受注が視野に入りました」と土屋さんは自信を見せる。
同時に自社で磨いたシステムの外販にも力を入れる。東京にはテクノロジー開発に特化したオフィスを置いて、ソリューションの開発を行っており、複数のプロジェクトが進行している。
同社はDXにより得意技術に磨きを掛け、さらなる事業領域の拡大を目指す。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・顧客の要求増大により、製品の仕上げ、検品、出荷作業に時間と人件費が割かれた
・単純作業が従業員の働く意欲をそいだ
・24時間365日稼働させるため、夜間や休日の人手の確保が難しかった
DX推進のための工夫
・完成品の仕上げにロボットを導入。その成果を基に各工程のロボット化を推進
・機械の稼働状況を集中監視できるWebシステムを開発
・DX課を新設し会社の意志を明確にした
成果
・工場の自動化・見える化を実現し、生産効率と品質向上を実現
・売上高はコロナ禍以前と比較して約120%(22年度)となり過去最高益となった
・新領域に挑戦する技術の蓄積と余裕が生まれた
会社データ
社 名 : 株式会社土屋合成(つちやごうせい)
所在地 : 群馬県富岡市宇田22番地2号
電 話 : 0274-64-5252
HP : http://www.tsuchiya-gousei.com
代表者 : 土屋直人 代表取締役社長
従業員 : 90人
【富岡商工会議所】
※月刊石垣2024年1月号に掲載された記事です。
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