コロナ禍を経てこれからというときに、令和6年能登半島地震に見舞われた。北陸新幹線の敦賀延伸開業を被災地の一日も早い復旧・復興につなげていくためにも、沿線企業の経済活動が重要だ。特集2では、地元経済を支える2社の挑戦をリポートする。 ※本稿は2023年12月、新駅開業に大きな期待を寄せる地域企業を取材したものです。
“オール福井”で県民の暮らしを支える 新鉄道会社の挑戦が始まる
整備新幹線建設の条件の一つに、沿線の自治体は並行在来線の経営分離に同意する必要がある。北陸新幹線金沢―敦賀間の開業に伴い、JR北陸線の福井県内区間は第三セクター「ハピラインふくい」に移管される。地域の人々の通勤・通学を支える〝県民鉄道〟として、県や市町、ほかの地域鉄道と連携しつつ、地域に親しまれる鉄道への大転換が進む。
JR西日本との経営分離を好機と捉えて経営強化へ
石川県西部と福井県にとって、待望の北陸新幹線の延伸開業だが、経営分離される在来線の道のりは平坦ではない。
ハピラインふくい設立に向け、福井県並行在来線準備が今から約5年前の2018年に始まった。 「福井県並行在来線対策協議会を設置し、県や沿線の市町、市民団体など各関係機関を交えて、3年ほどかけて経営指針を詰めました。第一種鉄道事業者として、線路を保有し、旅客や貨物を運送する事業も自ら行う、上下一体経営をするための、文字通りの準備会社です。JRからの移管を好機と捉え、前向きに取り組んできました」
そう説明するのは、ハピラインふくい代表取締役社長の小川俊昭さんだ。国鉄職員を経て県職員として福井土木事務所長、土木部長などを歴任してきた実績を持つ。取締役会長には福井県知事の杉本達治さんが、役員には県の有識者が名を連ねる。資本金は県が7割、3割を17市町や独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構、民間企業が出資し、県全体で支える経営体制を整えていった。
そして、社名を公募し、約1万6700件が寄せられ、「ハピラインふくい」に変更される。福井鉄道、えちぜん鉄道に次ぐ、県内三つ目の鉄道会社として本格始動した。
交通手段ににぎわいづくりの付加価値をプラス
では、そもそもハピラインふくいの営業区間はどこまでか。上図の通り、北陸新幹線と並行して、北は大聖寺駅から南は敦賀駅まで84・3㎞で、石川県内にある大聖寺駅を除く18駅を営業する。移管前のJR北陸線の現状は、1日の運行本数が旅客102本、貨物が33本で、利用者数は1日約2万人(18年福井県調べ)。ハピラインふくいは、この利用者数の2万人を、開業年度から11年間維持することを目標に掲げている。
だが、周知の通り日本列島の少子高齢化は避けられない。ハピラインふくいでは、利用者維持には1日約2000人の利用促進が必要と試算している。では、どうするか。 「実はハピラインふくいは、開業から10年間の累積赤字が70億円と見込んでいます。しかし、打開策として大きく二つ、経営安定化策と利用促進策を打ち出しています」
収支不足は福井県が50%、沿線市町が50%を出資して経営安定基金から補填(ほてん)され、国に対して行政とともに財政支援を要請していくという。利用促進策も「利便性」「まちづくり」「他の交通事業者との連携」「地域密着の県民鉄道への転換」を柱に、官民一体となった地域連携で進めていく。 「鉄道を単なる交通手段としてではなく、まちづくりやにぎわいづくりの場としての役割があると捉えています。利用者のニーズに耳を傾けながら、利用者目線で改善策をまとめていきました」
北陸一帯での情報発信に鉄道会社として寄与
鉄道会社としてまず期待されるのは、利用者の多い通勤、通学時間帯の増便や快速列車の運行、新幹線や地域鉄道との乗り換えがなるべくスムーズになるダイヤ編成だ。さらに新駅の設置や既存駅の改修工事により利用促進効果も狙うという。中でも沿線の鯖江駅は、東口改札の増設や複合施設の建設など、にぎわい創出に向け検討を行っている。 「鯖江駅内に多目的スペースを設けるなど、駅を中心としたまちづくりのモデルケースになればと考えています」と小川さん。
さらに利用促進としてマイカーと電車を併用するパークアンドライドにも注力することは、渋滞緩和や交通費の節約、環境保護につながると説く。実際、えちぜん鉄道や福井鉄道が駅前の駐車場の整備や拡充で利用者数増に成功しており、地元客だけではなく、観光客の乗車も見込む。個人・法人対象のハピラインファンクラブも立ち上げ、県内外のファン獲得にも躍起だ。
またほかの鉄道会社、交通事業者との連携強化を図り、資材の共同調達や保守機器の共有利用、災害時の相互協力などで結束する。 「地元の人々の暮らしを支える鉄道ですが、観光客やインバウンドも意識した共通フリー切符や観光列車の乗り入れなども検討中です。福井県は、幸福度ランキング全国1位で観光名所もたくさんあります。福井県だけでなく北陸一帯で情報発信することで、新幹線開業の経済効果がより一層高まっていくと思います。その追い風に乗って、在来線も持続的な鉄道サービス向上に向けて変わる時。これは好機です。県民鉄道として地域の人々をはじめ、県内外の人たちにも知られ、親しまれるように存在価値を高めていきます」
3月16日、北陸新幹線とともにハピラインふくいの歴史も幕を開ける。
会社データ
社 名 : 株式会社ハピラインふくい
所在地 : 福井県福井市大手2丁目4番13号
電 話 : 0776-20-0294
HP : https://www.hapi-line.co.jp
代表者 : 小川俊昭 代表取締役社長
従業員 : 約280人(JR出向、県派遣含む)
【福井商工会議所】
※月刊石垣2024年2月号に掲載された記事です。
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