Q 急激な物価高により社員の生活が苦しくなってきているため、当社は社員に対しインフレ手当を支払うことを検討しています。インフレ手当を支給するには、どのような方法がありますか。また、支給方法を検討する際の留意点を教えてください。
A 「インフレ手当」とは、会社が社員に対して物価上昇分を何らかの形で金銭的に補填する目的で支給するものです。その支給の方法としては、基本給のベースアップで行うもの、新しく特別の手当を創設するもの、賞与に加算するものなどがあります。どの方法が社員のモチベーションアップにつながり、また、会社としても過度な負担とならないかを検討して、自社に適切な方法を選択するのがよいでしょう。
日本はバブル崩壊後、長らくデフレの時代が続きました。消費者物価が上がらないのは消費者にとって良いものの、半面、賃金も上がらない状態が続き、経済も停滞しました。政府は、デフレからインフレに経済を誘導するための施策を取り続け、また、新型コロナウイルス蔓延(まんえん)などの影響もあり、消費者物価が上昇してきました。 会社として、物価上昇によって生活が苦しくなった社員に対して、何らかの対応をする場合、次のような方法が考えられます。
基本給のベースアップ
社員にとって、ベースアップは最もありがたい方法ですが、他方、会社にとっては、いったん基本給を上げると簡単には引き下げられないため、増額分の負担がずっと続くことになります。残業代の算定基礎となる額も上がり、賞与を基本給の月数基準で支給しているときは賞与の金額も上がります。 ベースアップは、あらゆる面で影響を及ぼすため、会社としては慎重にならざるを得ません。また、基本給については、賃金規程において表形式で定めているケースが多いと思われますが、ベースアップの場合、賃金規程の改定が必要ですので、就業規則変更の手続き(労働者代表の意見聴取、労基署への届け出)が必要となります(労基法89条、90条)。
手当の創設
特別の手当を創設する方法もその手当を毎月支給する以上は、基本給のベースアップと同様、会社は手当の廃止を簡単に一方的にはできない、残業代の算定基礎額が上がるといった問題が生じます。 退職金の算定基礎を基本給としているケースでは、手当の創設は退職金額に影響を与えませんが、賃金規程の改定手続きを要する点も含め、ベースアップと同様の手続きや負担を会社にもたらします。
賞与の増額
賞与については、就業規則や賃金規程で定められていても、金額や算定方法まで明記されていることはほとんどありません。賞与は、会社の業績に左右されることが通常で、また、個々人への支給額も、それぞれの業績を加味して具体額が決定されることが多いからです。 このように賞与については、会社の裁量の幅が大きいため、インフレ対応分を賞与に加算することに、賃金規程の改定は不要です。また、賞与はその支給の度ごとに具体的な金額を決定していくので、ある時期にインフレ対応分を加算したとしても、将来の賞与についても加算しなければならないものではありません。 会社としては、賞与で対応するのが最も良いと思われますが、他方、社員にとっては、インフレが継続していくときには補填策として不安ということになります。
会社としての対応
インフレ対応については、社員にとって最も有利なベースアップから賞与で対応する方法までいくつか方法がありますので、社員のやる気アップにはどの方法が良いのか、また、会社としてどのくらいの負担増を見込んでいくのかを総合的に考慮して、対応策を決めるのがよいでしょう。
(弁護士・山川 隆久)
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