中小規模の企業でも自社の特徴に合わせた研修制度やキャリアアップ戦略に対して積極的に支援することで、経営者の意図が明確化する。従業員の意識が変わり、業績を上げている企業の取り組みを紹介する。
外部研修の希望者を立候補制に積極的育成で中小企業大学校表彰受賞
愛知県稲沢市にあるコメットカトウは、業務用厨房機器の製造販売を行っており、100年以上の歴史を持つ。創業以来築き上げた技術とノウハウで、高品質で安全性の高い製品を提供している同社は、社内外の研修を積極的に取り入れ、人材育成に力を入れている。特に、中小機構が運営する中小企業大学校の研修を活用しており、2021年には、人材育成に顕著な功労があった企業として、中小企業大学校総長表彰を受けている。
「仕事は見て覚えろ」体制からその後、外部研修を導入
名古屋から北西へ車で約40分、住宅や畑が広がる愛知県稲沢市にコメットカトウの本社と工場がある。1920年創業の同社は、スチームコンベクションオーブン、ガスレンジ、フライヤーなど厨房機器の開発・製造・販売およびメンテナンスを行う業務用加熱機器専門メーカーで、2020年に100周年を迎えた。現在、同社社長を務める野々部正幸さんは、1989年に入社し、開発担当となった。当時の従業員数は現在の半分ほどで、工場の規模も小さかったという。 「いわゆる町工場という雰囲気で、新入社員研修らしい研修はなく、先輩の仕事を見て覚えろ、という感じでした」と入社当時を振り返る。
その後、人事担当者の代替わりがきっかけで、96年に同社は初めて外部研修を取り入れ、管理職となる社員数人に、愛知県瀬戸市にある中小企業大学校瀬戸校(以下、瀬戸校)の研修を受講させるようになった。全国に9カ所ある同大学校の研修は、ケーススタディーなどを通じて経営課題を解決する知識を学べる。特に瀬戸校は、ものづくりに関する内容が多い。同社では当時、受講者も受講する内容も、経営側が選んで指定していた。
また30年ほど前から新入社員にも外部研修を取り入れ、当時本社があった名古屋市の名古屋商工会議所が開催する研修を活用した。この研修は、ビジネスマナーなど基礎的なもので、同社の本社が稲沢市に移った現在も受講している。
指名制から立候補制へ変え瀬戸校の受講者数第1位に
2004年、野々部さんは生産管理部門に異動となり、瀬戸校の「工場管理者養成コース」を受講して、製造業の「5S」(=整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)など、工場のあるべき姿を体系的に学んだ。研修内容が充実していた上、周辺にある他社の人たちと一緒に切磋琢磨(せっさたくま)できたことが楽しかった。これが野々部さんにとってターニングポイントとなった。 「学びもあり、楽しみもある。多くの人が外部研修を受けてほしい」と思った野々部さん。その後に経営側となり、受講者を選ぶ立場となったが、あるとき、選ばれなかった社員から「自分も研修に行きたい」という話を聞いた。野々部さんは、自分の人選が幅の狭いものだったと痛感した。 「われわれのようなものづくり企業は、誰か1人が突出した知識を持っていても改革はできません。1人の100歩より、100人の1歩が大事。それなら、研修を受けたい人が自ら手を挙げる立候補制にすればいいのではと考えました」
こうして同社は15年頃から、経営側による人選をやめ、全部署に受講可能な外部講座のリストを配布して、受講者を募ることにした。すると幹部から一般社員まで多くの人が、おのおのに合った研修の受講を希望した。瀬戸校の受講料は1日約1万円と比較的安価なので、希望者を全員受講させることができる。これまでに正社員はほぼ全員が、最低でも1回は外部研修を受けたという。
現在、同社では毎年約30人が外部研修を受けており、中小企業大学校全体における企業別受講コース数と受講回数で全国第1位になったこともある。21年には、人材育成に積極的に取り組む全国の中小企業を表彰する「中小企業大学校総長表彰」を受けた。
「作業」から「仕事」へ問題に気づき自ら考え動く
外部研修を立候補制にしたことついて、野々部さんはその効果をいくつも挙げている。まず受講を決める際、指名制だったときとは違い、誰にでも同じようにチャンスがあり、それに応えるのは自分次第なので、いい意味で社内での競争意識が生まれる。研修中は、他社の人と一緒に学ぶので、よい刺激を受ける。研修後は、どういう気づきがあったのかを、約20人の職長を前に発表してもらうが、例えば工場の製造担当者は、単にものを右から左に動かすのではなく、目的を理解して動かせるようになり、それまでの「作業」が「仕事」に変わったという。
「目に見えて急な変化はありませんが、少しずつ生産性が上がっています。業務改善というのは、あるべき姿と現状のギャップが問題です。あるべき姿をいかに描き、問題に気づけるか。研修で気づきと問題解決のヒントを学び、自分たちで考えて動けるようになりました」と野々部さんは胸を張る。外部研修とともに社内研修にも力を入れており、社員から希望内容を聞き、各分野の知識と経験が豊富な60歳以上の従業員を講師にして、研修を充実させている。 「研修を受講して、結果的には会社にプラスになってほしいです。それ以上に、まずは自ら動くなど、人としてプラスになればいいと思います。自ら進んで行う仕事は楽しいですから」と言う野々部さん。同社の今後については「あくまでも国内に軸足を置きながら、海外にも進出したい。その道を切り開いていく人材も育成したい」と展望を語った。
会社データ
社 名 : 株式会社コメットカトウ
所在地 : 愛知県稲沢市祖父江町甲新田イ九ー65
電 話 : 0587-97-8441
HP : https://www.cometkato.co.jp
代表者 : 野々部正幸 取締役社長
従業員 : 約300人(パート含む)
【稲沢商工会議所】
※月刊石垣2024年3月号に掲載された記事です。
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