中小規模の企業でも自社の特徴に合わせた研修制度やキャリアアップ戦略に対して積極的に支援することで、経営者の意図が明確化する。従業員の意識が変わり、業績を上げている企業の取り組みを紹介する。
小規模でも高い企業理念を掲げ社員が学び合う環境を後押し
京都府宇治市にあるナンゴーは、金属精密機械加工などを行う会社で、金属に隠し絵を仕込める「ナンゴー彫り」という特許技術を持つ。従業員数は15人と小規模だが、各自の自律的なキャリアを支援していることなどが評価され、2018年に厚生労働省主催のグッドキャリア企業アワードでイノベーション賞を受賞した。その後も同社のキャリア支援は進化し続け、22年には同アワード大賞を受賞した。
経営理念を実践し続け「最終学習歴」更新目指す
宇治市の静かな山間にあるナンゴーは、1973年創業で金属精密機械加工などを行っており、2023年に50周年を迎えた。同社が特許を持つ「ナンゴー彫り」は、金属にイラストや文字を隠し絵として仕込むことができる特殊な技術である。同社の従業員数は15人で、経営理念の「仕事を通じて私たちは向上する!!」を掲げ、各人が日々進化しているという。 「私自身が経営者として覚悟を決めたことで、この経営理念が単なる美辞麗句ではなく、血の通ったものになりました」というのは、同社社長の南郷真さんである。
南郷さんは2000年、39歳のときに銀行員を辞め、義父が経営する同社に入社した。当時の同社従業員たちには覇気がなく、前職との違いに愕然(がくぜん)としたという。その後、05年に社長に就任したが、地元の経営者の先輩から「君には社長としての真摯さが足りない」と指摘された。この言葉が南郷さんの覚悟を決めるきっかけとなった。
それから南郷さんは、会社を変革しようとさまざまな取り組みを行った。社外の人から見られることでより向上しようという意識が生まれるため、工場見学を積極的に受け入れたり、各個人のスキルマップや目標を作成し、従業員の自己研鑽(けんさん)やセミナー受講を支援して、継続できる学びの場を提供したりした。また、自律的な思考を促進するため「サンクスカード」を取り入れた。これは各人が仕事などで協力してくれた相手に対して「○○さん、△△してくれてありがとう」と感謝の気持ちをカードに書き一斉に掲示、後に感謝された本人に贈るという仕組みである。これにより、相手の良いところを見る前向きな思考を育むことができた。こうした取り組みが評価され、18年に厚生労働省主催のグッドキャリア企業アワードでイノベーション賞を受賞した。 「従業員の中には、何らかの事情で進学を諦めた人もいます。でも私は、最終学歴ではなく、『最終学習歴』の更新を目指すビジネスパーソンを支援できる企業でありたいと思っています」と南郷さんは語る。
学習や能力開発がさらに進化グッドキャリア大賞受賞
同社は20年に経済産業省の地域未来牽引企業に選定された。21年には、自律的に向上できる組織づくりを目指して、社内にプロジェクトグループ室(以下PG室)を新設し、グループ長に女性社員の奥野英子さんが就任した。 「社長の方針として指示が下りてくることもありますが、それよりも、やりたいことがあれば社員の方から声を上げてくれる社風です」と奥野さんはうれしそうに語る。PG室では、月に一度、昼休みのうち15分間を使い、自由参加の勉強会を実施。社員が講師となって学びの場を設けたり、熟練者の長年の経験や技術を生かしたりした取り組みも行っている。また、コロナ禍では仕事が減少したが、空いた時間を学びの蓄積期間と捉え、国際規格ISO9001(品質マネジメントシステム)とISO 14001(環境マネジメントシステム)を同時に取得した。
同社では、会社負担でセミナー受講ができるようにしており、奥野さんはこの制度を利用して、SDGsに関する講習を受けた。今では定期的に、家にある不用品を会社に持ち寄って、ものを無駄にしない取り組みが行われている。
また、同社独自の取り組みとして、本やパソコンに関する制度もある。本の買い取り制度は、本を読んで社内で内容を紹介すれば、会社がその本を買い取る。本は会社の図書コーナーに置き、みんなが読めるようにしている。パソコンについては、ITリテラシーを高めるため、自宅用を購入時に一定のルールと金額を決めて会社が補助をしている。こうした取り組みの結果、各自が自分のためだけではなく、全員のことを考えて行動する風土が加速し、22年にはグッドキャリア企業アワード大賞を受賞した。
海外からも視察に今後は次世代へバトンを
高い外部評価を受けたことで、同社には国内だけではなく、海外企業も視察に来るようになった。今後は手狭になった社屋の拡大も視野に入れ、次世代へバトンを渡したいという南郷さん。人材育成などに悩む会社に対して、前職の銀行員の経験を踏まえてアドバイスしてくれた。 「人には心があって、それはバランスシートには表れません。銀行は、社長の人柄などを冷静に見ています。良き心を持つ経営者であれば、良い仕事と良い社員が生まれる。そういう『内部留保』を経営者がどれだけつくれるか。経営者にとって最も重要なことは、誰よりも自社のことを真剣に思っているということなのです」
会社データ
社 名 : 株式会社ナンゴー
所在地 : 京都府宇治市白川川上り谷80番地36
電 話 : 0774-28-3141
HP : https://www.nango-kyoto.co.jp
代表者 : 南郷真 代表取締役
従業員 : 15人
【宇治商工会議所】
※月刊石垣2024年3月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!