全国各地でシャッター街と化した商店街が増えている。その一方で、空き店舗の再利用やイベント開催などに取り組み、客離れを食い止め、新たな集客に成功した商店街もある。さまざまな工夫で地域住民だけでなく観光客をも呼び寄せ、にぎわいを取り戻した商店街の復活までの奮闘ぶりを追った。
商店街を変えたいという熱い気持ちを周りの人に共感してもらい協力を得る
新潟駅から北東に20分ほど歩いたところにある沼垂(ぬったり)テラス商店街には、長屋状に連なる古い建物をおしゃれに改装した店が並ぶ。かつてここは「沼垂市場通り」と呼ばれ、1950年代から生鮮食品・日用品を扱う小さな「市」が並ぶ通りとなっていた。当時は買い物客でにぎわったが、徐々に衰退してシャッター街に。今の姿に生まれ変わったのは、この地域にある居酒屋の二代目が通りの一角に新たな店を開いたことからだった。
寂れた通りに危機感を抱き新たな店をオープン
「沼垂のすぐ近くに信濃川の河口があり、かつては北前船で物資が行き来していました。この辺りは堀が通っていて、その物資が舟で運ばれていたのですが、堀が埋め立てられると、1950年代に公衆市場が設置されました。奥には大きな工場が並んでいて、そこで働く多くの人が仕事を終えるとここに流れてくる。沼垂は生活の場であり、娯楽の場でもあったことから、毎日とても活気がありました」と、沼垂テラス商店街を運営するテラスオフィスの専務取締役、高岡はつえさんは言う。
沼垂の語源は、7世紀頃にこの地にあったとされる渟足柵(ぬたりのき)という城塞の名前からきているという説があり、1400年近い歴史があるとされている。その後、地形の変化などで場所が移転した後、堀を中心とした交易の地として栄えた。堀が埋め立てられると、「市」と呼ばれる長屋式の店舗ができ、「沼垂市場通り」と呼ばれて活況を呈していた。
しかし近年になると、店主の高齢化や大型商業施設の郊外進出などの要因により廃業する店が増え、2010年の時点では青果店や雑貨店など数店舗が残るのみのシャッター街となっていた。 「市場通りの向かいにある居酒屋の店主が、寂れてしまった通りに危機感を抱き、息子の田村寛にここで卵焼きとソフトクリームの店を開くよう提案しました。それだけではとても商売にならないので、田村は惣菜と佐渡の牛乳を使ったソフトクリームの店『Ruruck Kitchen(ルルックキッチン)』を10年6月に開店しました。これをきっかけに田村はこの通りを変えていく動きを始めたのです」と高岡さんは説明する。居酒屋の店主というのは高岡さんの父親のことで、田村さんは高岡さんの弟である。二人はこの地域で育ち、通りに活気があった頃を覚えている。
Ruruck Kitchenは開店当初は苦戦したが、近所の人に徐々に知られるようになり、買い物に訪れる客が増えてきた。 「田村はこの頃、ほかに店を出す人がいないか周りに声を掛けていました。すると、家具職人と染色家の若いご夫婦が、新潟で店を開くための場所を探していて、ここを気に入り、翌年に手づくり家具とカフェの店を開きました。さらにその翌年には、このカフェに来た30代前半のお客さま夫婦が、陶芸工房をオープンしたんです」
建物を買い取り新たなテナントを集める
旧市場通りに若者が開いた店が3軒もできたというだけでもメディアが取り上げてくれ、注目を集めるようになった。さらに、3店舗がそろった12年には、通りで青空市場のイベントを開催し、多くの人が訪れた。すると、古い長屋が建ち並ぶレトロな雰囲気が気に入り、ここに出店したいと田村さんに相談に来る人が増えてきた。しかし、ここに新たな店を出店させるには、大きな壁があった。 「市場通りの建物は当時市場の組合が管理していて、出店は原則組合員のみという規約がありました。特例で3店を出すことはできましたが、それ以上は出せない。そこで田村が組合と話し合い、全ての建物を買い取ることにしました。それには資金が必要なので、14年3月に株式会社テラスオフィスを設立し、銀行から融資を受けました。その際、居酒屋の仕事が忙しい田村に代わり、私が銀行に提出する事業計画書をつくりました。手伝いを頼まれたとき、ここを大きく変えられるチャンスだという期待感がありました」
社名のテラスオフィスには、まちを明るく“照らす”、店舗の前がテラスのようになっている、商店街の裏は寺が並ぶ“寺町”、という三つの意味が掛け合わされている。そして、この古くて新しい長屋式旧市場の名称を、新しい商店街「沼垂テラス商店街」とした。商店街の建物はテラスオフィスが所有し、出店者は店舗を賃貸する。そこで重視したのが、どこでも買えるものではなく、「ここでしか出会えないモノ」を提供する店であることだった。 「新規テナントの公募を一切しなかったのですが、イベントでお手伝いをしてくださった方や、そのお知り合いの方、ここのことを聞きつけた起業家の方などがどんどん集まってきて、全ての出店者が決まりました」
集まったのはハンドメードアクセサリー店、ガラス工房、手づくり小物雑貨店、古本屋・カフェなど、売る物も売る人も個性的な店ばかり。そして15年4月、以前からここで営業していた青果店や雑貨店などの4店舗と、最初に出店した3店舗を含めた全28店舗による沼垂テラス商店街が誕生した。
定例イベントで地元客のほか県内外からの観光客も集客
ただ商店街をオープンしただけにとどまらなかった。12年から年1回開催していた青空市場のイベントを、沼垂テラス商店街の誕生と同時に、月1回のイベントとして季節に合わせて朝市と冬市、そして年に数回の夜市を始めた。以来、コロナ禍では休止せざるを得ないことも数回あったが、基本的には年間を通じて定例イベントとして開催している。 「商店街の道は生活道路で車の通りも多いのですが、イベントのときは通行止めにして歩行者天国にしています。常設店のほかに、新潟市内外から出店するテントが30ほど通りに並びます。そういった方々の集客力もあり、コロナ禍前などは、どこからこんなに人が湧き出てくるのだろうというくらい多くの人が来てくださいました」
朝市は、メディアにも注目されるようになり、最初は雑誌やローカル番組で取り上げられていたのが、次第に全国ネットのニュース番組や旅行雑誌でも紹介されるようになった。そのため、今では新潟市近辺だけでなく、県外からも多くのお客さまが訪れるようになった。イベントのある週末や夏休みなどの観光シーズンは観光客でにぎわい、平日は地元の買い物客が中心となっている。 「店主さんとのんびり話すのを楽しみたいという人は、イベントを避けて平日に来ます。ここに来ないと出会えない物、店の人や空間そのものに魅力がある。『ここでしか出会えないモノ・ヒト・空間』というのは、変わることのないコンセプトです」
集客の課題としては、店によって営業時間や休業日が異なるため、平日は来ても開いている店が少ないことがあり、いつ来ても楽しい場所にはまだなっていない。また、専用駐車場がないため、来場客の便がまだ整っていないことが挙げられると高岡さんは言う。
商店街がにぎわえばまち全体が活性化する
商店街のオープン以来、出店希望者からの問い合わせは、引きも切らない。しかし、タイミングよく空き店舗が出ていない限り、断らざるを得ない。空き店舗が出るのは、さまざまな理由で閉店する場合もあるが、別の場所にあるもっと広い店舗に“卒業”という形で移転するケースもある。また、沼垂テラス商店街の周辺にある空き店舗を商店街のサテライト店として利用するケースも出ている。 「ご近所の方の実家が空き店舗になっていて、そこを貸してくださることになったのがきっかけです。その店舗をテラスオフィスで借り上げた上で出店希望者とのマッチングを私たちで行い、15年に初のサテライト店として新刊と古書を扱う書店がオープンしました。その後も周辺の空き店舗を貸してくださるオーナーさんが出てきたので、『沼垂テラス・エフ』と名付けたサテライト店を増やしていきました。今は8店舗ほどありますが、今後も増えていくことを期待しています」
新たな出店希望者には、出店計画を進める前に新潟商工会議所に行くことを勧めることもある。 「初めて起業する場合、そのノウハウを持っていない方が多いので、商工会議所の相談窓口に行くよう勧めています。経営のノウハウから融資を受けるための事業計画書の書き方、補助金の活用方法を教えてくれて、起業まで伴走してくださるので、頼りにしています」 そして、沼垂テラス商店街の今後の目標についてはこう語る。 「周辺にサテライト店が増えて、いつ来てもお客さまがどこかの店に行けるようになること。それにより沼垂がいいまちになって、ここに住みたいという人が増えていくことですね。そうすれば、まちが活性化するじゃないですか。それを目標としています」
最後に、地元の商店街ににぎわいを取り戻すことを望んでいる人たちには、こうエールを送る。 「ここは一般的な商店街とは異なる点も多いですが、いずれにしても、商店街を変えたいという一人の熱い気持ちを周りの人に共感してもらうことが重要です。0を1にするのは最初の一人かもしれませんが、1を2、3、10に変えるには周りの協力が不可欠です。きっとどの商店街にもそういう思いを持つ人はいて、それに共感してくれる人たちもいると思います。各地の商店街がにぎわって、それでまち全体が活性化すれば、日本全体に活気が出てくるはずです。ぜひ皆さんも頑張っていただけたらと思っています」
会社データ
社 名 : 株式会社テラスオフィス
所在地 : 新潟県新潟市中央区沼垂東3-5-22
電 話 : 025-384-4010
HP : https://nuttari.jp
代表者 : 田村寛 代表取締役社長
従業員 : 7人(パート・アルバイト含む)
【新潟商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
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