全国各地でシャッター街と化した商店街が増えている。その一方で、空き店舗の再利用やイベント開催などに取り組み、客離れを食い止め、新たな集客に成功した商店街もある。さまざまな工夫で地域住民だけでなく観光客をも呼び寄せ、にぎわいを取り戻した商店街の復活までの奮闘ぶりを追った。
地域や大学、ご当地アイドルと連携イベント継続でにぎわい取り戻す
東京スカイツリーを仰ぎ見る「下町人情キラキラ橘商店街」は、スカイツリー帰りのお客さまや地元客が訪れる昭和レトロな下町の商店街である。一時は廃れたが、スーパーや介護支援施設の誘致、ご当地アイドルや近隣の大学生と連携して定期的にイベントを開催するなどして、にぎわいを取り戻した。2021年には「東京商店街グランプリ」を受賞している。
不況や生活の変化により店舗数が137から62店に
東京都墨田区にある下町人情キラキラ橘商店街(正式名称:向島橘銀座商店街)は、京成曳舟駅から徒歩約10分、全長約470mの地域密着型商店街である。 「駅から近いわけでもないので、近隣のお客さまが多いです。関東大震災でも焼け残った地域で、昔ながらのコミュニティが残っているのですよ」というのは、同商店街事務局長の大和和道さんである。同商店街は1980年代に137店舗あったが、バブル経済崩壊や大店法の改正などの影響により、2010年頃には62店舗まで減った。同商店街で約40年間、肌着店を営んでいた大和さんが事務局長に就任したのは、その頃だった。 「女性の社会進出が進み、多くが専業主婦ではなくなったのに、商店街の店は平日の日中に営業、夕方には閉店し、日曜日には休んでいました。お客さまのライフスタイルが変わったのに、われわれだけが変わっていなかったのです」
大和さんは、商店街の改革に着手した。まず、区の補助金などを使い、アーチや街路灯を建て替えた。商店街事務局には、誰でも使える休憩用ベンチやトイレを設置した。次に、24時間営業のスーパーや介護支援施設を誘致した。これには「お客さまのお役に立ちたい」という大和さんの強い思いがあった。スーパーが開業すれば、自店の売り上げが落ちると不安視する人もいたが、大和さんは「お客さまは自分が買い物をしたいときに店が開いていなければ、二度と商店街に来なくなるかもしれない」と商店主たちを説得した。
さらに「日曜日に集客したい」と考えていた大和さんは、以前から同商店街をフィールドワークの場として使っていた大学生に協力を仰ぎ、彼らの意見を生かして、同商店街ならではの「つまみぐいウォーク」を開催した。これは、事務局でお得な前売りチケットを販売し、それを購入した参加者は、各店舗が販売する特別メニューをチケットと引き換え、食べ歩きできるというイベントである。
やる気のある店が集まりイベントを継続し活況
東京スカイツリー開業が間近に迫ったこの頃、墨田区内に出店する人が増えることから、区の商店街加入促進条例が制定された。その“加入促進大会”を機に、大和さんは墨田区を拠点に活動する劇団と知り合う。商店街が大好きだという彼女たちは、アイドルグループ「帰ってきたキューピッドガールズ」を結成。同商店街を舞台に活動し、イベントなどで歌や踊りを披露した。当初は「何の役に立つんだ?」と言う人もいたが、大和さんは「必ず商店街のお役に立ちますから」と活動を継続させた。 その後も同商店街では、季節ごとのイベントや、40年ほど前から続けている「朝市」、前述の「つまみぐいウォーク」などを継続し、にぎわいをつくり出す工夫を続けた。イベント開催時には、商店街に人がひしめくほどになった。
20年11月には、各種パフォーマンスやものづくり体験、つまみぐいイベントなどを催すことで、若い世代からファミリー層まで楽しめる2日間のイベント「キラキラ橘☆ほくほく!北斎」を開催した。このイベントは、誰でも知っている葛飾北斎という墨田区の地域資源を活用しつつ、非接触技術を用いてコロナ禍でも楽しめるよう工夫した点が評価され、都内2700の商店街の中から選ばれる「東京商店街グランプリ」を21年に受賞した。
商店街の生き残り懸け新事業やサービスを展開
現在、同商店街の店舗数は76店に増えた。このうち、イベントに参加するのは20~30店舗で、商店街の全店舗が参加しているわけではないという。 「意欲的な人たちだけを集めてやればいいと思います。ただし、勝手にやるわけにはいかないので、打診は全員にします」という大和さん。一時期より店舗数は増えたものの、会費だけでは商店街組合を維持できないため、収益事業も行っている。事務局の一部を貸して家賃収入を得ているほか、商店街内にある区の施設の管理運営、商店街をドラマの撮影などで使ってもらうフィルムコミッション事業も行っている。この事業では、撮影スタッフ用の弁当なども同商店街の店で購入してもらい、売り上げに貢献しているという。
さらに大和さんは3年ほど前、中小企業診断士や建築士などと一緒にまちづくり法人「つながる橘!」を立ち上げた。空き店舗の借り入れやサブリースなど、商店街組合だけでは実現が難しい事業を行っており、コワーキングスペースやシェアキッチンも運営している。 「後継者不足などもあり、まちづくりは商店街の中だけでできる問題ではなくなっているのをひしひしと感じます。地域や外部との連携をもっと拡充したいですが、まずは自分たちの足元を見て、今できることをやって、それが広がっていけばいいですね」と大和さんは今後について語った。
団体データ
団体名 : 下町人情キラキラ橘商店街(正式名称:向島橘銀座商店街協同組合)
所在地 : 東京都墨田区京島3-49-1
電 話 : 03-3612-2258
HP : https://kirakira-tachibana.jp
代表者 : 鈴木博信 理事長/大和和道 事務局長
【東京商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!