人手不足を嘆き、「外国人人材でも雇うしかない」という経営者もいるだろう。しかし、今や日本の企業が外国人労働者を選ぶのではなく、外国人から日本の企業が選ばれる時代になったのだ。そこで、地域企業や中小規模の企業でも外国人に選ばれ、業績を伸ばしている企業の秘密に迫った。
“やりがい”と“安心”を担保した外国人雇用でV字回復を達成
メッキ加工による表面処理総合メーカーのスズキハイテックは、山形県を拠点とする創業110年の老舗企業だ。受注型から開発主導型に事業転換するとともに、積極的に外国人を雇用し、従業員187人中、外国人は87人に達する。業種を問わず人手不足が深刻化する中、国内外から入社希望者は絶えず、ここ5年で売り上げ4倍超の大躍進を遂げている。
海外進出時の通訳者不足から逆転の発想で外国人を採用
2020年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)に選定されたスズキハイテックは、外国人雇用の成功企業としても呼び声が高い。各メディアで紹介され、代表取締役社長の鈴木一徳さんは、取材や講演会にと引く手あまただ。 「06年に25億円あった売り上げが、リーマンショックや東日本大震災を経て、私が社長に就任した15年には16億円まで落ち込みました。従来の受注型の事業展開では立ち行かず、開発主導型への転換、海外進出に乗り出しました。メキシコに工場を建てたものの、当時は海外進出を図る日本企業が多く、スペイン語を話せる日本人通訳者探しは難航しました。そこで発想を変え、日本語を話せるスペイン語圏の外国人探しをしたのが外国人雇用の始まりです」
白羽の矢を立てたのが、鈴木さんの知人の会社でインターンシップをしていた山形大学在籍のボリビア人留学生だ。同時期に県内の海外留学生対象の会社説明会に出展すると、入社を希望する中国人留学生とも出会う。15年のこの2人の留学生の雇用が、同社の大きなターニングポイントとなった。
外国人と日本人の誤解や偏見を解きほぐす
「いきなり外国人が部下になっては、従業員が困りますし、留学生も不安になるだけです。私の直属にして事業内容からあいさつなどのマナーメまで教えていきました。まずは2人を一人前に育てることに注力し、ボリビア人は入社1年後に大手メッキメーカーに8カ月ほど行かせて経験値を上げてもらうなどしました。2人とも仕事熱心で努力家。日本人従業員と開発案件を推進できるまでに成長し、2人に感化されるように従業員全体の士気も上がっていきました」
2人に重要なポストを任せられるようになった段階で、18年4月、新たに3人の留学生を迎え入れた。先輩外国人が後輩を教えるサイクルをつくり、技能実習生の受け入れも含めて計画的に外国人雇用を進めていった。 「工夫したのは、入社前に留学生に日本人の特性をしっかり伝えたこと。日本人は引っ込み思案で、あいさつや声を掛けても反応しない人もいる。それでも積極的に話し掛ける努力が必要なこと、宗教上のお祈りや断食についても相互に理解してから採用を決めます。日本人従業員にも、『なるべく早く』といった曖昧な言葉は避けた具体的な伝達、優先順位の明確化など意思伝達の齟齬(そご)をなくすよう促しました」
特に鈴木さんが意識したのがアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)だ。「外国人は〇〇だ」と決めつけず、自分が海外で働く立場を想像した対応を呼び掛けた。 「外国人の採用基準で重視しているのはモチベーションの高さ。日本語はカタコトぐらいでも構いませんし、メッキ加工の知識やスキルがなくても、やる気がある人は入社後にめきめき仕事も言葉も覚えていきます」と言い切る。
孤立しないように私生活もバックアップ
日本人、外国人それぞれの誤解や偏見を解くことに最善を尽くすだけではなく、両者にとって働きやすい環境づくりも徹底している。まずは言葉の壁をなくすべく、月2回の隔週土曜日に日本語教室を開催。任意参加だが、講師役は会社側が指名した外国人従業員が休日出勤扱いで指導に当たる。 「外部講師を招かず、あえて従業員にお願いしたのは、業務でよく使う専門用語や社内用語の理解が進み、先生と生徒、生徒間での交流が深まるからです」
病院に行く際は日本人従業員が必ず付き添う。住まいの賃貸契約や自家用車購入時の保証人には社長自らがなる。自動車免許の取得費用を貸与し、週末の食料の買い出しには10人乗りの社用のワゴン車で回る。会社近くには20〜30人収容できるパーティールームのある社宅も用意されている。 「外国人にとって一番辛いのが孤独です。孤立しないようにいろいろなイベントを開催しています」
忘年会や新入社員歓迎会はもとより、お花見や海水浴、紅葉狩りやバーベキュー、山形ならではのさくらんぼ狩りや芋煮会などを企画。会費は1000〜2000円程度で、社長も極力参加しては従業員らと気さくに写真を撮る。写真はもちろん、SNS投稿OKだ。 「母国のご両親が、社長と楽しそうにしている投稿を見たら安心すると思うのです。従業員だけではなく、ご家族の不安を払拭できるなら、いくらでも一緒に写真を撮りますよ」と言って笑う。
配偶者の就職活動や子どもの教育面にも尽力
結婚や出産などのライフステージの変化にも柔軟だ。例えば、女性の外国人従業員が長期休暇で一時帰国し、結婚して夫婦で日本に戻ってきた際、その男性も快く雇用するという。 「男性の職が見つからないと、夫婦そろって母国に帰ってしまう確率が高くなります。仕事に慣れた女性従業員の離職回避の対策です」
さらに、子どもの入園や入学前には園長や校長に鈴木さんがあいさつに出向くという。仕事にやりがいを感じていても、地域になじめなければ続かない。仕事ではキャリア設計を明確にしてスキルアップを図り、生活面では家族単位でサポートする。こうした同社の全方位的な配慮が、外国人に高く評価されているゆえんだ。 「外国人雇用を始めた当初は、戸惑う日本人従業員も少なからずいたと思います。しかし、雇用して約10年、業績が飛躍的に伸びていることは従業員の誰もが実感しているところであり、外国人人材への感謝の念が社内に浸透しています。それに外国人雇用のノウハウが女性活躍の推進、障がい者雇用に生かせており、ダイバーシティが人手不足解消、業績アップの原動力になっています。来年度は売り上げ90億円が目標で、さらに60人は人材を増員したいところ。日本人より外国人の従業員数が上回ることも、早ければ来年にもあり得る勢いです」
国籍にとらわれない人材雇用が功を奏し、コロナ禍、円安をものともしない好循環が生まれている。これに近隣企業も関心を示し、外国人雇用が地域活性化につながるムーブメントも起こりつつある。
会社データ
社 名 : スズキハイテック株式会社
所在地 : 山形県山形市銅町2-2-30
電 話 : 023-631-4703
HP : https://www.sht-net.co.jp.
代表者 : 鈴木一徳 代表取締役社長
従業員 : 187人
【山形商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
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