人手不足を嘆き、「外国人人材でも雇うしかない」という経営者もいるだろう。しかし、今や日本の企業が外国人労働者を選ぶのではなく、外国人から日本の企業が選ばれる時代になったのだ。そこで、地域企業や中小規模の企業でも外国人に選ばれ、業績を伸ばしている企業の秘密に迫った。
外国人枠を取り払ったキャリアパスで国際化と社内の士気高揚が加速
環境試料の分析測定や食品成分の分析、インフラ施設の維持管理など、環境トータルサポート事業を展開している日吉。外国人人材の活用は、1983年、中国人の技術研修生を受け入れたことに端を発する。これを皮切りに、これまで53カ国、1110人を受け入れてきた。元外国人インターンが子会社の取締役を務めるなど、国籍を問わない人材活用で業績を伸ばしている。
「環境問題に国境なし」と海外研修生に門戸を開く
琵琶湖八景の一つに数えられる滋賀県の「近江八幡の水郷」。その水郷巡り発祥の地として知られる豊年橋近くに、日吉の本社はある。創業は1955年。廃棄物収集に始まり、公衆衛生から公害、環境へと社会問題が遷移する中、課題解決に向けて多角的に環境保全事業を展開してきた。事業許認可は100種を数え、2000件以上の総資格数を有する環境トータルサポート企業として業績を上げている。その成長の一端に、外国人人材の活用がある。 「70年代の高度経済成長時代、琵琶湖の富栄養化という水質汚染が社会問題になりました。市民運動がやがて行政を動かし、滋賀県は全国に先駆けて環境条例が施行されたという経緯があります。この取り組みに弊社も調査協力で関わっていたこと、83年に水質汚染が深刻な洞庭湖を有する中国の湖南省と滋賀県が友好協定を締結したことで、県と連携した国際貢献事業に取り組む中、中国人の技術研修生を受け入れることになりました」
そう語るのは総務部次長の大角浩子さんだ。「環境問題に国境なし」の考えで、88年に初めて外国人研修生の受け入れに踏み切った。
トライ&エラーを繰り返し〝違い〟を互いに理解し合う
「研修生の受け入れ経験から、弊社の経験とスキルが海外の環境問題に貢献できると確信しました。90年にABK(アジア学生文化協会)を介して受け入れたインド人研修生の弊社に対する評判が良かったことから、毎年外国人研修生が来る流れが生まれていきました」
バングラデシュ、フィリピン、マレーシアなど主にアジア圏から研修生が訪れ、その実績から2004年、AOTS(海外産業人材育成協会)、JICA(国際協力機構)などの団体、行政や大学を介して国際インターンシップも始まった。だが、「特別な体制があったわけではない」と大角さん。問題が起きたら改善することを繰り返し、今でいうダイバーシティが根付いていったという。外国人人材の受け入れで、課題となったのが「言語」「生活習慣」「コミュニケーション」だ。宗教上の規律からトイレの使い方まで異なり、まして翻訳アプリなどがない時代である。まずは生活面と業務面で多言語マニュアル(英語、中国語、タミール語対応)を作成し、研修生向けの絵解きマニュアルも用意した。社内交流を活発にすべく、外国人人材との週末の外出には5000円を、1泊ホームステイには1万円を補助する。外国人人材が気軽に相談できる語学堪能なチューターやメンターも配置。住居の手続き支援や家財道具の譲渡なども相互扶助の精神で実施した。日本の文化や習慣の理解を外国人に求めつつ、日本人側も違いを学び、歩み寄る企業風土を育んでいったという。
外国人人材が海外事業のマネジメント幹部層に成長
また、国籍問わずキャリアアップを図れることも同社が外国人から選ばれる理由として大きい。1997年に入社した当時台湾人留学生だった黃俊卿(こうしゅうんけい)さんは、実務経験を経て海外事業企画室室長に抜擢(ばってき)され、現在、インド子会社「日吉インディア」の取締役を務める。数カ国の海外事業に携わるマネジメント幹部として活躍するロールモデル的な存在だ。黃さんは言う。 「外国人人材にとってキャリアパスが明確かどうかはとても重要です。日吉インディアは42人態勢で、インターンシップ生から社員になった3人も含めて、チーム一丸となってインドの環境インフラ事業に取り組んでいます。JETROの調査によるとインドの水処理市場は毎年15%成長しているとされ、今後の市場拡大、売上増は十分見込めると考えています」
近年は、外国人従業員からの紹介による入社や、求人募集にエントリーしてくるケースもあり、「ワーカー」から「中高度人材」の採用へと移行しつつあるという。 「黃さんをはじめ、外国人人材の海外渡航時の行動力や折衝力、営業能力に比例して、市場開拓は進むと捉えています。それに外国人人材の活躍が、海外業務に躊躇(ちゅうちょ)していた日本人従業員の起爆剤となり、弊社の国際化が加速しているとも感じています」と大角さん。雇用形態に「外国人枠」をあえて設けておらず、現在、日本国籍を取得した従業員を含めて外国人人材が5人在籍しており、総じて離職率は低い。 「日本人対象の語学研修の実施や外国人人材の住宅手当などの体制上の課題はあります。でも若い世代を中心に、SNSを通じた元研修生との交流、研修で国際交流は活発化しています」
近江商人の理念である三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)に、次世代よしを加えた「四方よし」を提唱する同社。海外諸国の環境対策で、同社の知見や技術が生かせることは数多く、外国人人材を含めた次世代の活躍の場は「伸び代しかない」と前向きだ。
会社データ
社 名 : 株式会社日吉(ひよし)
所在地 : 滋賀県近江八幡市北之庄町908
電 話 : 0748-32-5111
HP : https://www.hiyoshi-es.co.jp
代表者 : 村田弘司 代表取締役社長
従業員 : 369人
【近江八幡商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
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