100%天然成分のみの消臭液。主成分が牛の尿と聞くと驚くのではないだろうか。創業者である父が商品化したこの〝謎の液体〟に息子の窪之内誠さんは可能性を感じ、地元企業での18年のキャリアを断ち切って事業を継いだ。地球の健康を見つめるアップサイクル型循環システムを拡大し、売り上げ増加以上の成果を上げている。
父親が商品化した液体に可能性を感じて事業を承継
北海道北見市は酪農畜産業が盛んだ。それ故、地域特有の課題として牛の糞(ふん)尿処理がある。この悪臭と畜産排水による河川の水質汚染が深刻化していたのだ。
そうした中、牛の尿を原料にした100%天然成分の消臭液「きえ〜る」を開発し、販売しているのが環境大善だ。公害の元で公害を制す、この斬新な商品が創業の発端だった。創業者の窪之内覚さんは、勤めた百貨店の廃業で転職し、1987年に『ホームセンター・ダイゼン』の店長となった。大手同業者との差別化を図るオリジナル商品開発に力を入れる中、いとこの酪農家から持ち込まれたのが牛の尿を微生物で分解し、無害化した液体だった。「畑にまくと作物がよく育つから、園芸の商品として販売できないか」と相談されたが、雪の降る北海道では半年間販売できない。考えるうち、この液体は全く臭いがしないことに気が付いた。「微生物が牛の尿の臭いを消しているのであれば、消臭効果がある液体になっているかもしれない」と思い、社員や知人に試してもらうと、アンモニア臭や腐敗臭に素晴らしい消臭効果を発揮することが分かった。 「父も最初は半信半疑だったものの、使ってみるとその効果に驚き、商品開発を進めて98年に販売しました。それが『きえ〜る』です」
そう説明するのは二代目で代表取締役の窪之内誠さんだ。当時、窪之内さんは地元の事務機器販売会社に勤務しており、「父の事業も商品も冷めた目で見ていた」と振り返る。それに反して父、覚さんの「きえ〜る」への情熱は高まるばかり。退職金と引き替えに販売権利を譲り受け、2006年、「環境ダイゼン」を創業した。事業は各方面で注目され、あるとき、テレビのビジネス番組に出演した有名企業が父の会社に来社すると聞いて、誠さんも興味本位で同席する。 「そのとき、相手の社長が『この商品はただの消臭液ではない。環境を助ける可能性がある』と話してくれたのです。それを受けて商品を調査すると、確かに土壌や河川の環境改善の可能性が多分にある。この環境の循環を行える可能性のある『きえ~る』の販売を父一代で終わらせるのは惜しく、悩んだ末、引き継ぐ覚悟を決めました」
リブランディングに3年企業理念と商品価値を再構築
だが、前職の引き継ぎに1年を要したため、社外取締役として出勤は週1回ペースから始めた。16年に代表取締役専務に就き、現場目線で従業員と対話を重ねて信頼関係を築いた。むしろ「骨が折れたのは当時の社長(父)との対話だった」と苦笑する。 「北見から世界を目指すという方向性は同じでも、父は直感型で良いものをつくれば売れるという考えで、私は良いものでも伝える努力は必要という発想でした」
首都圏での販路拡大を狙うが、牛の尿が原料の商品は理解され難い。そこで誠さんが取り組んだのがリブランディングだ。 「最初は商品のパッケージデザインを刷新程度の考えでした。それが一変したのは、アートディレクターでクリエイティブコンサルタントも手掛ける鎌田順也さんとの出会いです」
鎌田さんから「そもそも社員に商品価値が伝わっているか」と問われ、答えに窮した。また、「リブランディングとは見た目だけでなく、商品価値を再定義するため3年かかるが、これほどの商品価値があれば、さらに売り上げを伸ばせる」と言われてふに落ちた。18年、社長の理解を得て、「研究開発」と「デザイン経営」を軸に自社ブランドの再構築に乗り出す。
持続するアップサイクルで環境保全と地域経済を循環
まずは従業員向けの冊子づくりを始め、19年の社長就任と同時に地球環境と地域経済に貢献する同社のスタンスを共有した。また、執行役員制度を導入し、役割を割り振って意思決定を早める。さらに1カ月に1回以上の従業員面談で、個々の強みや体調を把握して最善の人員配置を組んだ。
「きえ〜る」が牛の尿を発酵・培養し、「善玉活性水」となり消臭液や土壌改良材になることにヒントを得て、経営理念を「発酵経営®」とし、コーポレートスローガン「地球の健康を見つめる」を掲げた。20年には社名を今の環境大善に改め、「土、水、空気研究所」を新設。将来を見据え自社商品のメカニズム解明や技術開発、北見工業大学や北海道大学と共同研究にも取り組んでいく。 「北見工業大学との共同研究では、微細藻類の増殖を促進する微生物製剤の開発にも取り組んでいます」
微細藻類は国が30年までに航空燃料の1割に当てようとしているSAF(持続可能な航空燃料)の原料にも用いられており、SAFの製造コスト低減に寄与すると期待されている。この開発は「令和5年度Go-Tech(成長型中小企業等研究開発支援)事業」の支援を受け、実施されている。ほかにもアジア圏への海外展開など、売り上げはリブランディング前より70%伸び、販路は格段に広がった。経済産業省・特許庁の「令和6年度知財功労賞『経済産業大臣表彰(デザイン経営企業)』」に輝くなど、認知拡大も著しい。 「牛の尿を有効活用して地球に還元する。この循環を〝アップサイクル型循環システム〟と呼んでいます。また、若手人材やスペシャリスト人材を獲得することにも成功しています。過疎化が進む地域の雇用促進、地域産業の創出を図り、現状の地域課題を解決しながら、未来につないでいきます」
北の大地で、地場産業と連動しながら、持続可能な社会が新たに開拓されつつある。
会社データ
社名 : 環境大善株式会社(かんきょうだいぜん)
所在地 : 北海道北見市端野町三区438-7
電話 : 0157-67-6788
代表者 : 窪之内 誠 代表取締役
従業員 : 25人
【北見商工会議所】
※月刊石垣2024年7月号に掲載された記事です。
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