日本商工会議所は2月10日から17日まで、伊東孝紳特別顧問(本田技研工業)を団長とする経済ミッションを、2018年12月に新政権が発足し、今後の経済政策が注目されるメキシコに派遣した。本ミッションでは政府要人や経済界幹部らと、両国の関係強化などについて意見を交わした。特集では政府要人との会談の概要を紹介する。
エブラル外務大臣 日本との関係強化に意欲
今回のミッションでは、メキシコ市において、エブラル外務大臣、ヒメネス運輸通信大臣、トルーコ観光大臣、ロモ大統領府長官、モントーヤエネルギー省エネルギー担当次官を表敬訪問し、「自由貿易の推進と活用」「インフラの整備推進」「新産業育成に向けた日墨企業間の連携推進」「治安の維持・改善」など、日本側の要望を盛り込んだポジションペーパーを手渡した。 2月12日夕刻、外務省にエブラル外務大臣を表敬訪問した。 始めに伊東団長があいさつ。その後、朝田副団長(丸紅)が「メキシコは日本とほぼ同じ人口を有し平均年齢は27歳と若い。これからも内需拡大が見込まれる」との認識を示した上で、「日本企業にとっては、生産・輸出拠点だけでなく、国内市場も魅力」と語った。さらに「TPP11の発効により、両国の主要産品のアクセス改善が見込まれ、関税も削減・撤廃されることから、双方向の貿易拡大も期待される。産業界としても新たな商機を感じている」と述べた。 これに対しエブラル大臣は、「新政権は、これからの6年間で日本との関係を強化したい」と発言。1985年のメキシコ大地震後の日本の支援を例に挙げ、「手を差し伸べてくれた日本を、メキシコは真の友人だと思っている。地震後は日本からさまざまな技術を学んだ」と述べ、「外務省は日本の経済界とより緊密に協力し、日本企業を支援していきたい」との考えを示した。
ヒメネス運輸通信大臣 日本企業の進出歓迎
2月12日午後、運輸通信省にヒメネス運輸通信大臣を表敬訪問した。 伊東団長のあいさつに続き、佐々木副団長(JTB)が発言。「世界観光ランキングで6位のメキシコは、政府が先頭に立ってさまざまな施策に取り組んだ結果、観光客数が大幅に伸びている」との認識を示した。 また「メキシコの観光施策は日本にとっても素晴らしい見本。日本からメキシコへの関心は高まっている」と語った。 続いて発言した片野坂顧問(ANAホールディングス)は、2017年2月に東京-メキシコシティのノンストップフライトを開設したことを紹介。スタート時からのメキシコ政府の支援に感謝の念を示した。また、「TPP11が発効し、両国の経済発展と相互の投資拡大が進むことで、今後旅客数はさらに伸びることが予想される」と述べ、「今後の旅客増に対応でき、アクセスも便利で利用者の乗り継ぎ利便性が高まることが重要」と指摘した。 これに対しヒメネス大臣は、「メキシコは年々、発展・成長しているが、人口の半数が貧困層。発展の恩恵を受けている層とそうでない層との格差の解消に新政権は取り組む」と発言。その上で「メキシコの格差は、経済格差、社会格差のほか、南北の格差もある。南部の魅力と投資のチャンスを紹介したい」と述べ、テワンテペック地峡やマヤ鉄道の開発プログラムを紹介した。 また、現在のメキシコシティ・トルーカ・サンタルチアの3空港を、国際的な空港に整備したいとの考えを紹介し、「実現には巨額の投資が必要となるため、海外からの投資を促進する国家戦略が重要」との認識を提示。日本の航空会社がメキシコへの直行便やコードシェアで協力していることに感謝を示すとともに、自動車産業についても「日本企業の進出・強化を歓迎している」と語った。
ロモ大統領府長官 南部開発へ投資呼び掛け
2月12日午前、国立宮殿で行われたロモ大統領府長官との会合では、最初に伊東団長があいさつし、「今回のミッションに総勢60人以上が参加しているのは、メキシコへの関心の高さを示している」と発言。「昨年末にTPP11が発効したが、今後も両国が連携を強化し、共に自由貿易のリーダーとしての役割を果たしていくことを強く期待している」と述べた。 続いて、佐々木副団長、釜副団長(IHI)、朝田副団長、片野坂顧問、植木顧問(日本航空)、大森顧問(住友商事)、原顧問(双日)が、メキシコにおける自社の取り組みを紹介した。 ロモ長官は「大統領には、民間セクターの成長なくしてメキシコの成長はないと何度も申し上げている」と発言。その上で、三つの大きな目標として「メキシコへの海外投資を増加させたい」「メキシコで生産される製品のうち、ローカルコンテンツの占める割合の増加。これについては、メキシコに定着している日系企業はバリューチェーンをすでに構築できているので、それ以外の業種について国として戦略的に考えていきたい」「国の開発において地方が取り残されているが、南東部を集中的に開発していくためにいくつかのプロジェクトが発表されており、これらについて関心を持ってもらいたい」と述べた。 また、「日本企業は、メキシコで長く活動し存在感がある。ビジネスをもっと行い、どんどん活躍してもらいたい。それにより、メキシコへの投資およびメキシコからの輸出など市場の多様化を図りたい」との考えを示した。
トルーコ観光大臣 友好関係生かし交流深化へ
2月13日午前、観光省にトルーコ観光大臣を表敬訪問した。 冒頭、あいさつしたトルーコ大臣は、「アエロメヒコなどの就航もあり、両国の交流は緊密になっており、さらに深化させていきたい」と発言。観光に関して、2012年の訪メキシコ日本人は8万6000人だったが、昨年は15万6500人と80%以上伸びたことを紹介し、「新政権では、住民を含めて観光産業のベストプラクティスを学び、底上げを図っていきたい」と述べた。 続いて伊東団長があいさつし、「観光客の増加や魅力向上には、インフラの整備推進や治安の改善が必要」との考えを示した。 その後、佐々木副団長が発言。メキシコ政府が、ワールドキャンペーンの重点国の一つに日本を選び、PRしたことに感謝するとともに、「年間で約4000万人が訪れるメキシコには今は及ばないが、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には、日本も4000万人をお迎えしたい」と語った。 また、植木顧問は「本日(2月13日)からアエロメヒコと(日本航空が)コードシェアをすることになった」と紹介。日本からメキシコへの訪問者数が世界で17位とのトルーコ大臣からの説明に対しては、「まずはベストテン入りを目指し貢献していきたい」と語り、またマヤ鉄道建設計画への期待を示した。 さらに、片野坂顧問は、日本の観光立国推進の目標の一つが「地方を元気にする」ことで、日系航空会社がJRなどの鉄道会社と連携して、さまざまな取り組みを実施していることを紹介。「旅行会社と協力し、メキシコへの観光客を増やしたい」との考えを述べた。 一方、トルーコ大臣は、格差の解消に力を入れている新政権の重要な取り組みの一つとして、テワンテペック地峡やマヤ鉄道の建設計画を紹介。さらに、日本との友好関係を生かし、「今後は、タコスとすし、テキーラと日本酒、キリスト像と鎌倉大仏、チャプルペテック城と本願寺など、マッチングによる観光推進策を考えたい」と述べた。
モントーヤエネルギー省エネルギー担当次官 経済発展に向け協力を
2月13日午後、エネルギー省にモントーヤエネルギー担当次官を表敬訪問した。 冒頭の伊東団長のあいさつに続き、釜副団長が発言。自社(IHI)のガスタービン・ガスエンジンの事業を紹介し、「メキシコの電力需要増に貢献したい」と語った。また、環境に配慮したエネルギーの研究や大型エネルギー貯蔵システムの開発にも触れながら、「エネルギーの安定供給や環境に配慮した持続的な社会の実現に、共に歩んでいきたい」との考えを示した。 続いて原顧問が、メキシコ初の民間発電事業であるユカタン州のメリダ発電所やアグアスカリエンテス州における日本企業初の太陽光発電事業への投資を紹介。「メキシコでの再生可能エネルギー導入に取り組んでいく」と述べるとともに、「電力分野でもガス火力発電所などを通じ、電力安定供給、経済発展に引き続き貢献したい」と語った。 これに対しモントーヤ次官は、日本は産業界が経済産業省と連携し、経済発展を遂げたことに関心を示し、「メキシコ国民の総意として抜本的・根本的な変革に取り組もうとしている」と発言。「これまで停滞し置き去りにされてきた政策を見直し、どのように実現できるかを考える」と語った。また、「燃料の80%は輸入に頼っており、製油所では生産能力の40%の石油しか生産できていない」と述べ、再生可能エネルギーの開発が重要との認識を示した。 加えて、「日本とは、人口が多いという共通点もあるため、引き続き協力していきたい」と語り、「釜副団長が紹介した(IHIの)高効率のボイラーやガスタービン、ガスエンジン、燃焼ガスからのCO2分離回収の技術開発は、メキシコも必要」「医療検査や治療で原子力を活用したい」などの考えを述べた。
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