わが国経済は「アベノミクス」の成果により、戦後最長の景気拡大を持続し、総じて緩やかに回復している。しかし、米中貿易摩擦をはじめとした保護主義が台頭し、世界経済の先行きに不透明感が増している。わが国が発展していくためには、保護主義的な風潮を打破し、グローバリズムの推進役として、同じ考えを持つ国々と協調し、自由貿易体制を堅持する必要がある。
一方、国内に目を転じると、人口減少や超高齢化といった構造的課題による、財政や社会保障制度の持続性確保、年々深刻化する人手不足、地方の疲弊といったさまざまな課題が、国民全体の将来の不安につながっていると同時に、中小企業に最も早くかつ深刻な形となって表れている。
こうした課題を克服するには、いまだ1%程度にとどまる潜在成長率の底上げを図り、成長を加速させる必要がある。そのためには、企業の生産性を高める取り組みを強力に後押しするサプライサイド政策をさらに加速化させ、外需の変動にも耐え得る足腰の強い成長基盤を構築することが必要不可欠である。なお、リスクが顕在化する場合には、躊躇(ちゅうちょ)することなく機動的かつ万全な対策を講じられたい。
また、東日本大震災以降も多発・激甚化する災害の復興、福島再生への継続的な支援も求められる。
これらの基本的な考え方の下、政府におかれては以下の政策に早急かつ集中的に取り組まれたい。商工会議所としても、実現に向けて自ら行動し、力を尽くすとともに、政府に対し最大限の協力を行う所存である。
1.全世代型社会保障制度の早急な構築
2022年以降、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり始め、特に、医療・介護にかかる給付の増大により、社会保障制度の持続性が損なわれる恐れがある。このため、「新経済・財政再生計画」で示された改革項目はもとより、応能負担と世代間バランスの見直しの視点に立った、「将来の安心」を確保する全世代型社会保障制度の構築に向け、「社会保障制度改革推進会議」などにおいて、早急かつ徹底的に議論すべきである。併せて、企業が従業員の健康づくりに主体的に取り組む「健康経営」に対する支援を行うことも重要である。
2.人手不足への対応とビジネス環境整備
年々深刻化する人手不足や、本年4月から施行されている「働き方改革関連法」に対応するため、中小企業は働き方改革を進めるとともに、女性や高齢者、外国人材などの多様な人材のさらなる活躍を推進する必要がある。加えて、人材を確保するための「防衛的な賃上げ」や近年の大幅な最低賃金引き上げに対応するため、政府においては円滑な価格転嫁や取引の適正化に向けた環境整備を含め、中小企業への支援を強化・拡充すべきである。
さらに、生産性の向上も喫緊の課題である。中小企業の生産性向上には、IT・IoT・ロボットなどのデジタル技術の実装化が必要不可欠だが、いまだその「発火点」には達してない。その最大の理由は、中小企業の目線に立って、IT技術の導入・活用などを支援する専門人材が圧倒的に不足していることにあり、IT支援人材の育成と、専門人材と中小企業をつなぐマッチング機能を強化することが急務である。
3.中小・中堅企業の活力強化、地方創生の加速化
事業承継の円滑化に向け、事業承継税制の改善や利用促進のための支援体制の拡充に加え、後継者不在企業における「第三者承継」を後押しする制度の創設、「開業率10%台」の実現に向けた創業支援の充実、中小企業の海外展開の支援に取り組むとともに、地域を支える中小・小規模事業者の経営支援体制の充実強化に引き続き取り組むべきである。
また、地方創生をさらに加速化するためには、これまでの成果の検証と反省を踏まえて、次期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をより実効性の高いものとすることが望まれる。加えて、域外の需要獲得に向け、交流人口を拡大し、キャッシュレス対応などインバウンド需要の取り込みや一次産業のさらなる成長産業化、地域資源の磨き上げ、観光振興をさらに推進するとともに、民間の創意に基づくコンパクトシティー形成への支援や、ストック効果を重視した社会資本整備を進めるべきである。
さらに、開催が来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックの成功や、大阪・関西万博といった国家的プロジェクトに向けた取り組みも強力に推進すべきである。
4.大規模自然災害からの復旧・復興、防災・減災対策の着実な推進
東日本大震災からの本格復興と福島再生に向け、復興・創生期間終了後も、省庁横断的で一元的な対応を可能とする後継組織を通じ、強力な支援の継続が望まれる。
また近年、多発・激甚化する大規模自然災害への対策として、国土強靭化のためのインフラ整備や既存インフラの老朽化対策が必要である。 加えて、民間の行う防災・減災活動を強化するため、事業継続計画(BCP)の策定支援や意識啓発などの「自助・共助」を促す支援を行うことも重要である。 (9月11日)
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