「ゼブラ企業」とは、社会課題解決と経済成長の両立を目指す事業者を指す。今、地域経済の新しい担い手となるべく、スタートアップ企業がゼブラ企業を目指すことが注目されている。それは、地域経済を活性化するだけでなく、地域が抱えているさまざまな問題を解決する可能性を秘めているからだ。地域からゼブラ企業を目指す経営者の原動力とは何かに迫る。
若者の育成、障がい者の就労機会拡大 シニアの能力発揮でまちの活性化を図る
福島県いわき市で介護と障がいのサービス事業などを展開するi-stepは、東日本大震災の翌年、2012年12月に「地域を元気にする企業」として誕生した。高齢者向けおよび発達障がい児向けのデイサービス、訪問看護などの事業を通じて「シニア層が能力を発揮できる機会創出」「障がい者の就労機会拡大」「若者の育成」を行い、新たなサービスの開発と地域を巻き込んだ持続可能な地域発展の促進を目指している。
東日本大震災後、お年寄りにきめ細かいサービスを提供
i-stepの創業者で代表取締役の藤井秀徳さんはいわき市の出身で、柔道整復師、介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を持ち、創業する前に13年ほどの介護関連の仕事の経験があった。 「i-stepを立ち上げたのは東日本大震災がきっかけです。避難している人が大勢いる中、お年寄りの方々に介護サービスや運動のデイサービスがうまく提供できていませんでした。また、程度の軽い人も重い人も一緒のサービスが多く、きめ細かいサービスを提供しているところが少なかったというのもあります。私はかつてクリニックで働いていた経験があり、その強みを生かしたいと、地元のいわき市でi-stepを立ち上げることにしました」
まずはトレーニング型デイサービスを始める予定だったが、良い物件がなく、震災後の復興工事で改装業者も見つからなかった。それが解決し、5人のスタッフとともにトレーニングセンターをスタートできたのは、会社創立から10カ月後の翌年10月だった。
同社のトレーニング型デイサービスでは、午前と午後の3時間ずつに分け、介護予防やリハビリのためのトレーニングを提供している。要支援1から要介護2までの介護度が比較的軽い人向けからスタートしたが、現在は要介護5まで全ての段階の人を受け入れている。 「当初、夜はフィットネスクラブとして使えるマシンを置いたため、高齢者向けとは思われず、利用者がなかなか増えませんでした。でも徐々に要介護の中でも比較的若い利用者が増えてきて、運動がしっかりできると評判になり、さらにその後、発達障がいのある子ども向けのサービスも始めました」
障がい者が社会復帰に必要なサポートに力を入れていく
同社は現在、介護サービスではトレーニング型デイサービスのほかに、訪問看護、選択リハビリ型デイサービス、お弁当事業「愛-STEP」の三つ、障がいサービスでは運動型放課後等デイサービス、個別型放課後等デイサービス、就労準備型放課後等デイサービス、重度訪問介護、就労継続支援B型(障がい福祉サービスにおける福祉的就労の一つでA型とB型がある)、そしてデイサービス立ち上げ支援など、幅広い事業を行っている。 「今は障がい者の方々が社会復帰をするためのサポートに力を入れています。放課後等デイサービスを受けている子どもたちが卒業して社会に入っていく段階になったとき、私たちはまだその先のレールをつくれていなかったからです。それが、昨年から始めた就労継続支援B型です」
その一つが同社本部前にあるお弁当事業の店舗「愛-STEP」で、もともとは独居のお年寄り向けに安くて栄養のある食事を提供しようと始めた。今は障がい者がお弁当の詰め作業をしたり、チラシを折ったり、シールを貼ったりといった業務を行っている。そのほかにも、さまざまな在宅就労の仕事を提供している。 「あとは一般企業での就労を目指すために、eラーニングでビジネスマナーを学んでもらい、面接もできるようにするなど、就職のバックアップが可能なプログラムも構築しているところです」
若い人が活躍できる場を設け若年層の流出に歯止めをかける
同社はまた、「地域全体を巻き込んだ持続可能な発展を促進する」も目標に掲げている。そして、この目標を実現するために、地域社会の一員として力を尽くしていくとしている。 「福島県の事業を取り入れた新しい取り組みが一つあります。フードロス削減のため地域のスーパーや商店から賞味期限間近の食品をご提供いただき、私たちが用意したアパートの部屋やプレハブの冷蔵庫に置いておくというものです。それらの食品を生活困窮者の方が中に入って無料で持ち帰ることができます。その部屋の掃除や食品整理を障がい者の方々にやってもらう。社会的弱者を障がい者がバックアップする形です。こういった環境を、地域を巻き込んで進めていきたいと考えています」
同社のもう一つのビジョンが「いわきで活躍する若い人たちを育てる」。若年層の人口流出が進む中、若い人たちが活躍できる場を設けることでそれに歯止めをかけ、まちの活性化を図っていこうというものである。 「優秀な若い人に来てもらうために魅力的な事業をつくり、関連事業を増やしています。全てがうまくいくわけではありませんが、現場を若い人に任せ、有能な人は1、2年でマネジャーにしています。それに魅力を感じて、うちにエントリーしてくる人も多いです」
そして藤井さんは、良いサービスを提供していくことが会社の収益につながり、サービスに磨きがかかると現場の人たちが生き生きして、地域に役立つ新しい事業のアイデアも出てくると考えている。 「意識的に地域貢献をしようなどとしなくても、目の前の人を幸せにしていけば地域貢献になっていくはずですし、会社の利益や発展にもつながると思っています」
同社は、これからも新しい事業の創出にチャレンジすることで、地域に貢献していく。
会社データ
社 名 : i-step株式会社(アイステップ)
所在地 : 福島県いわき市平上荒川字桜町21-1
電 話 : 0246-46-3322
HP : https://www.i-stepproject.jp
代表者 : 藤井秀徳 代表取締役社長
従業員 : 80人
【いわき商工会議所】
※月刊石垣2024年8月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!