「ゼブラ企業」とは、社会課題解決と経済成長の両立を目指す事業者を指す。今、地域経済の新しい担い手となるべく、スタートアップ企業がゼブラ企業を目指すことが注目されている。それは、地域経済を活性化するだけでなく、地域が抱えているさまざまな問題を解決する可能性を秘めているからだ。地域からゼブラ企業を目指す経営者の原動力とは何かに迫る。
働きたい女性のスキル取得と就労支援で地域のデジタル人材増強を推進
産休・育休の制度は見直されつつある。だが、子育てと仕事のはざまで悩み、本意ではない環境下で働いたり、やむなく職場を離れたりする女性はまだ多い。兵庫県神戸市に拠点を置くママクリエイターラボは、そうした女性たちを中心に〝ママクリエイター〟という働き方を提案する。デジタル人材の育成から就労支援までを事業化し、地域活性化の 一翼を担っている。
「ごめんなさい」と言わないで済む働き方へ
「働きたいのに思うように働けない。そうしたジレンマを抱える子育て中の女性をサポートしたい」
その思いが、起業の発端にあると、ママクリエイターラボ代表取締役の榊原杏奈さんは語る。それは自身の経験とも重なる。榊原さんは大学卒業後、大手百貨店に就職し、正社員として12年間働いた。その間、百貨店の花形である婦人雑貨売り場のマネジメントを担当し、企画の立案や、お客さまが商品を見やすく購入しやすい売り場をつくる店舗VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を手掛けた。だが、産休後に職場復帰すると、10年かけて築いた総合職のポジションはなく、ショップ販売員として配属される。不慣れな業務と子育てで、職場では頭を下げることの連続。肩身の狭さと自身の能力を発揮できない状況下で、心身ともに限界を感じた。
そして、子育て中の女性就労支援が手厚い企業に再就職すると、本領を発揮し、週3回のシフトを自由に組める勤務体制の中、「社長と直接話せるポジション」にまで上り詰める。そうして培ったキャリアを地域に還元すべく、起業に踏み切った。 「働くママは、家の都合で業務ができない、遅れるたびに『ごめんなさい』と言わざるを得ません。口にするのもつらくなる『ごめんなさい』を言わず、子どもと一緒にいながら働ける方法を模索して、在宅ワークに可能性を感じました」
起業に向けて国家資格のキャリアコンサルタントを取得し、各種セミナーや講習会に参加する中、「オンラインなら事務スタッフよりクリエイターに需要がある」の助言を受け、〝ママクリエイター〟という働き方を確立した。
「学ぶ+働く」がワンセット クオリティーも納期も守る
「知り合いママ約70人にアンケートを取ったところ、動画編集や在宅ワークに『興味あり』と回答した人は約8割。地域の潜在的なデジタル人材の掘り起こしにつながると考えました。幸い、講習会で知り合った制作会社が動画編集のやり方を指導しつつ案件を発注してくださり、少しずつ取引先を広げることができました」
2018年に女性の就労支援事業として同社を開業し、事業の一環として「ママクリエイタースクール」を開設した。SNS広告などで募集をかけ、卒業生に同社が受諾した案件を発注した。同時にスクール生を教える側に立つ仕組みを構築し、Webデザインやイラスト作成、動画編集などの講座の種類も増やし、22年には法人化。ママクリエイターの約9割が未経験者だが、全体の78%が仕事につながっている。開設当初は数人だったママクリエイターも第18期(24年7月現在)、250人以上に達している。 「同期がいることで交流が生まれ、学習効果が上がります。スクールはノウハウを伝えるだけではなく、働き方のサポートまでをセットに事業化しています。仕事を受ける際も指南役のママクリエイターが何度もチェックし、さらにディレクターがチェックして納品します。二重のチェック体制で、1案件につき2〜3人で臨むので、満足いただけるクオリティーを担保でき、納期に遅れたことは一度もありません」と胸を張る。
地域に深くコミットし女性活躍推進事業を後押し
スクール卒業後も継続して学び、交流し、ビジネスサポートが得られる「ママクリエイターラボコミュニティ」(月額1320円)があるのも、同社の特徴だ。ラボからの独立開業、半起業半ラボ受注で仕事をしているママクリエイターもおり、古参クリエイターが優位でもないという。 「あくまで実力主義。大抜てきもあれば、その逆もあります。スキルと努力次第で成長できる環境を提供しています」と榊原さん。
同社の取り組みは、神戸新聞の記事に取り上げられ、認知度が一気に上がったという榊原さん。神戸商工会議所主催の講演会に出演し、神戸新聞運営のビジネス交流拠点「アンカー神戸」に22年に登録すると、地域課題解決プロジェクトや各種イベントにも積極的に参加。自身もピッチ(短いプレゼンテーション)を行い、行政や地域のステークホルダーと深くコミットしていった。地域の女性活躍推進事業と連携するなど、業績は右肩上がりで推移している。 「アンカー神戸があることで地域の人脈が格段に広がりました。こうした場が各地に増えると、情報交換も交流も活発になりそうです」
23年には内閣府推進のデジタル田園都市国家構想の民間企業部門で全国7位に選定され、同社はさらに勢いづく。 「時間と場所を選ばず、子育てもキャリアもかなえられる。そうした働き方を当たり前にしたい」と働きたい女性に一隅を照らし続ける。
会社データ
社 名 : 株式会社ママクリエイターラボ
所在地 : 兵庫県神戸市中央区磯上通4-1-14 三宮スカイビル7F
電 話 : 090-7763-1270
代表者 : 榊原杏奈 代表取締役
従業員 : 3人(業務委託契約約250人)
【神戸商工会議所】
※月刊石垣2024年8月号に掲載された記事です。
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