家を継ぐか独立開業か、進む道を迷っていた匠屋の池田匠さんは、2014年9月に創業を果たした。それはどちらでもなく、第三者事業承継の道だった。温泉宿の店主となり、「楽天トラベルアワード」を連続受賞するほど人気を博し、22年には新業態のプリン専門店開設にも挑戦。地元食材を生かした商品開発・販売で地域を盛り上げている。
地元商工会議所を介し料理店から宿に方向転換
氷見市は一年中新鮮な魚介が堪能でき、富山湾越しの立山連峰の絶景が魅力のエリアである。その地で生まれ育った池田匠さんは、一度は建設関連の職に就くが、料理人を志して23歳で料理の世界に飛び込んだ。 「実家が旅館経営をしていたので、継ぐことも想定しつつ、30歳で独立しようと個人経営の割烹料理店で働きました」
家業は意見の相違で折り合いがつかず、思いは料理店の開業へと傾いていった。そして、物件探しの相談先に選んだのが氷見商工会議所だ。しばらくして「料理店ではないですが……」と紹介されたのが、後の「天然温泉 浜辺の宿 あさひや」である。 「想像以上に建物の状態が良く、手入れが行き届いていました。経営不振で手放すのではなく、もともと60歳で一区切りつける予定で、息子さんは継ぐ気がないことから第三者承継を望まれていました」
後継者はすぐ現れる。そう思えば思うほど引かれたという。先代と話し合いの末、1年間の〝お試し〟で賃貸契約を交わした。 「第三者承継は建物も設備も、そしてお客さまも引き継げるメリットを感じました。しかし、旅館経営の知識がまったくありません。それで試用期間を設けたのです。慣れない業務の連続でしたが、1年延長、そしてもう1年と計3年間のレンタル期間の中、料理店より旅館の方がお客さまとの距離が近いこと、また、共有する時間も長く、その方が自分の性に合っているということも分かってきました。ここを継ぐ以外考えられなくなっていましたね」 2014年9月、池田さんは正式に第三者事業承継をした。
楽天トラベルアワード受賞の高評価の宿に急成長
「先代に『あなたの色を出していけば良い』と言ってもらえたことで、思い切ることができました」そう語る池田さんが、まず着手したのが設備投資だ。 「もちろんいっぺんにはできません。最初にお風呂やトイレなどの水回りやボイラーを一新し、次に1階フロアを、外部デザイナーを起用して和モダンや古民家風にアレンジしました。2階フロアは、2部屋を1部屋にしてトイレ付き和洋折衷の空間に改装し、その際には小規模事業者持続化補助金を使うなど、融資や補助金をやり繰りして進めました」
おもてなし第一の経営を模索し、宿泊客にアンケートを取っては改善を図った。集客アップに向けて「楽天トラベルアワード」受賞を目標にし、県外の人気旅館を研究しては、お客さま満足度を高めていったという。そして創業から2年後の16年、楽天トラベルアワード2016・北陸地区のリトルスター賞を受賞。以来、ほぼ毎年受賞する好成績を残し、旅館経営を軌道に乗せていった。そうした中、コロナ禍に突入する。 「第一波の時の宿泊客はゼロ。悲観せず逆手に取って、全部屋をトイレ付きにし、天然温泉を全て貸し切り風呂にして、そのうち一つをバリアフリー仕様にしました」
団体客から個人客へとシフトし、客単価を上げた。コロナ禍初期の3カ月間の売り上げは赤字に転じたものの、以後は右肩上がりで推移しているという。
ご当地スイーツを開発し地域活性化にも貢献
さらに池田さんは、将来を見据えてプリン専門店の経営にも乗り出した。 きっかけはスイーツブランド・パステルの代名詞「なめらかプリン」の開発で知られるプルシックの所浩史さんの講演会だ。所さんは、ご当地プリンの開発や経営コンサルも手掛ける。「氷見市の観光スポット『ひみ番屋街』でご当地プリンがあったら面白いと思いました。うちでもウエルカムプリンが好評だったので、漠然とでしたがヒットしそうだとも思いました」
所さんに提案すると話はトントン拍子に進み、22年6月にひみ番屋街にプリン専門店「ひみぷりん」を出店する。初日から長蛇の列ができ、限定100セットが即完売した。今や氷見市の新名物として認知度も上がり、24年4月には富山県産の米粉を使ったグルテンフリーのフィナンシェ「カモメの卵ふぃなん」も発売した。 「能登半島地震の影響で、観光客が激減してしまったので、地元の食材を生かした商品で、少しでも地域活性化につながればうれしいです」
異なるどちらの業態も好調だが、その秘訣(ひけつ)は高いクオリティーの維持と、リピーターを飽きさせない変化にあると説く。さらに100年後も地域が潤うためには、観光がキーになると捉え、新たな宿泊施設の経営にも思いをはせる。 「富裕層対象の別荘感覚の宿泊施設をイメージしています。海を見下ろせる山間部が理想です。観光目的で泊まるのではなく、泊まることが目的となる宿泊施設を運営したいですし、今のあさひやは、そうであると自負しています。うちの強みである新鮮な魚介をふんだんに使った料理は、一度食べたら『舌』が覚えますから」
地域資源を巧みに生かしたモノやコトで氷見の活性化にも貢献していく。
会社データ
社名 : 株式会社匠屋(たくみや)
所在地 : 富山県氷見市島尾2195
電話 : 0766-91-2045
HP : https://www.himi-asahiya.com
代表者 : 池田 匠 代表取締役
従業員 : 約18人
【氷見商工会議所】
※月刊石垣2024年8月号に掲載された記事です。
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