長岡市のテラノ精工は、材料や部品、生産工程の進捗(しんちょく)をアナログな方法で管理していたため、業務に無駄な時間が生じていた。それを効率化するため、社長がリーダーシップを執ってデジタル化へ導き「DXセレクション2023」優良事例に選定された。同社のDXへの取り組みは、多くの中堅・中小企業の参考になるはずだ。
受注部品の所在と製造状況を見える化
自動機器・産業機械の「設計サポート」「切削加工」「装置組立」を事業の3本柱とするテラノ精工は受注生産に、二十数年前に導入したソフトを活用して行っていたが、その先の生産工程管理はアナログのままだった。
同社の部品製造工程は、材料入荷→機械加工→検査→出荷だ。機械加工後にメッキ処理が必要なら協力工場へ出した後に検査に回す。社長の渡辺豊さんは、以前の受注生産の状況をこう振り返る。 「当社は多品種少量品の注文が多く、その都度新しい部品をつくるため、工程も毎回違います。担当者が毎朝ミーティングで生産管理ソフトから出力した紙のリストを見て、納期まで2週間以内の受注品約300点の所在を明確にするため、現場に出向いて1点ずつ確認するのに時間がかかっていました」
このままでは受注量の増加に対応できないし、社員の負担は増えるばかりで、働き方改革を進めることも難しい。そこで渡辺さんは、受注品の所在を探すという無駄な時間をなくし、所在と工程ごとの進捗を見える化する生産工程管理システムの開発を決断した。 このとき、選択肢は二つあった。一つは、生産管理ソフトも含めて新規開発すること。もう一つは、既存の生産管理ソフトと新システムを連携させることだった。
渡辺さんは後者を選んだ。理由は、時間をかけて自社の業務に合うようにカスタマイズした生産管理ソフトは使い勝手がとても良く、このソフトを捨てて新規開発するのはリスクが大きく費用もかかると判断したためだ。 ここで注目すべきは、社長が開発のリーダーシップを執ってシステムの目的と方向性を明確に打ち出したことだ。具体的な要件定義(必要な機能や要求をまとめる作業)は、システムに関わる各部署の担当者を選抜してプロジェクトチームを結成し、意見を出し合った。その際、渡辺さんが留意したことは、システムを使う現場社員の意見や困り事をすくい上げることだった。
DX推進を成功させた三つのステップ
システム開発時は、将来の発展性を考慮していろいろな機能を盛り込みたくなるものだ。だが、初期段階では必要最小限に絞り込んだ方がいいと渡辺さんは話す。 「仮運用が始まると、『この機能は使わない』と分かることがよくあります。そこで将来必要になった時点でカスタマイズする方が時間も費用も削減できます」
プロジェクトチームの話し合いで決まった仕様は、バーコードを機械や各工程棚、関連書類に割り当て、それを読み込むことでタブレット内のシステムで工程進捗、部品の場所を確認するという誰でもすぐに使えるシンプルなもの。チームは、実現したい仕様や要件を明確に、地元新潟のベンダーと打ち合わせを重ねて認識を一致させた上でシステム開発を依頼した。
しかし、まだ不十分だった。加工スケジュールを生産管理部ではなく、現場の加工担当者が立てていたため部署間で齟齬(そご)が生じていた。そこで納期管理システム「スケジューラー」を開発し、各機械の稼働予定や現状を共有させて齟齬の解消を図った。その結果、機械の稼働率が向上し、同社が目指すスマートファクトリーに大きく近づいた。
アナログの現場を一気にデジタル化することは難しい。渡辺さんは、①現状で何が無駄な作業なのかを明らかにして組織内で共有する ②無駄を省き効率化を意識させるため、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5Sを徹底して改善活動を行いデジタル化への下地をつくる ③システム導入に向けてプロジェクトチームを選抜し、仕様は各部署の担当者がコミュニケーションを取りながら決める―という三つのステップを経ることが重要だという。
三つのステップを経たDX推進は生産性向上だけにとどまらず、会社の成長のための基礎体力をも向上させた。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・生産管理ソフトから出力した膨大な数の受注部品の所在と加工状況を確認する際、現場に出向いて探す無駄が生じていた
DX推進のための工夫
・生産管理ソフトに生産工程管理システムを連携させるものを新規開発すると決断
・社員のデジタル化への意識を高めるため5Sを徹底。無駄を省く意識を根付かせた
・各部署から担当者を集めてプロジェクトチームを結成し、必要な工程をまとめた
・部署間で納期や機械の稼働予定などの情報を共有できるスケジューラーを開発
成果
・材料、購入品受け入れ業務の簡略化
・現場に出向いて材料や部品を探す時間を削減でき受注量の増加に対応可能となった
・各部署間で生じていた齟齬を解消することができ、機械の稼働率が上がった
会社データ
社 名 : テラノ精工株式会社
所在地 : 新潟県長岡市三島新保420番地
電 話 : 0258-89-7339
HP : https://www.terrano-seiko.co.jp
代表者 : 渡辺豊 代表取締役
従業員 : 54人
【長岡商工会議所】
※月刊石垣2024年9月号に掲載された記事です。
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