この数年、新札の肖像に決まったことを機に、渋沢栄一がさまざまなシーンでクローズアップされています。実業による近代日本の立役者として有名ですが、著書『論語と算盤(そろばん)』を読むと、出世や金もうけ一辺倒になりがちな世の中を、『論語』に裏打ちされた道徳で律するという彼の生き方が伝わってきます。
多くの人は自分の人生のわずか30~40年の経験で物事を判断しがちですが、渋沢栄一は2500年前の孔子の考え方に真実を見いだし、経済活動の背景に『論語』を忘れない生き方を貫き、周囲にも多大な影響を与えたのです。『論語と算盤』が100年も前に出版された本であるにもかかわらず、現代のビジネスマンの心に響く背景には、『論語』が古くから日本人の心のよりどころとされ、私たちの価値観に染み込んでいるので、読んだ時にストンとふに落ちるのだと思います。
渋沢栄一はこの本の中で、「知、情、意」について説いています。「知」とは知性のことで、物事を考え、判断する能力をいいます。「情」とは感情の意味で、喜びや悲しみ、心の働きのことです。「意」とは意志、何かをしようとする時の元になる気持ちで、何を成すにもこれらがバランス良くかみ合うのが肝要とのことです。
船井総研にいた頃、私は会社を愛していましたし、それと同じように指導先も愛していましたから、「知」だけで押していくプレゼンテーションはしませんでした。指導先の事情を知り、周辺整理のお手伝いを含めて信用を得て、「小山さんがそうおっしゃるなら、やってみましょう」と言っていただくのです。そして、その後は必ず良い結果を導き出しました。仕事には、やはり「情」は欠かせないものだと確信しています。
「知、情、意」のバランスを考えた時、いつも思い出す事例があります。四国のある宝石商の店舗で、責任者が急に辞めることになり、30歳の専業主婦である、社長の奥さまが店に立つことになりました。サラリーマンの娘で商売経験は一切なく、渋々の決断だったそうです。しかし、その後の成長の仕方が半端ではありませんでした。これは、夫を助けたい、家業を栄えさせたい、という不撤退の「意」と「情」の勝利で、彼女の宝石業に関する「知」はゼロでした。一見バランスの悪い例のようですが、「知」に関しては、ご主人や私たちコンサルタントがいますから、「知、情、意」の完璧なチームワークだったのです。ピンチヒッターでお店に入った奥さまは、数年で驚くほど業績を伸ばし、その後も30年間、お店の顔として繁栄させました。
皆さんも周囲のビジネスの「知、情、意」を分析してみてください。
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