地震や水害といった自然災害時には、地域と連携し迅速に支援に動き、さらに雇用確保や困り事解決など地域が求めるサービスを含めたフットワークの良さから“頼りになる”と評判の地域企業がある。地域に根差す企業ならではの取り組みを追った。
地域資源認定のカニを使った自社ブランドで地域活性化をリード
気仙沼市に拠点を置くカネダイは、船舶石油販売業や水産加工業、廻船問屋業など幅広く事業展開している。2011年の東日本大震災時には県内全ての社屋、工場を失うものの、被災から10日で事業を再開。BtoBからBtoCへビジネスモデルを転換した。地域資源の「まるずわいがに」を使った自社ブランド「かに物語」を立ち上げて、震災復興を牽引(けんいん)し続ける。
東日本大震災10日後に商品出荷体制を整える
1942年創業のカネダイは水産業の老舗企業だ。漁船漁業からスタートし、現在は①漁業事業、②水産食品事業、③廻来船事業、④総合エネルギー事業の4部門を柱とする。主力事業は②の水産食品事業で、全体の約6割弱を占める。
90年には地域の中でもいち早く海外事業に着手して、自社工場を設けた中国を基点にアジア圏、さらにアフリカ、北米などグローバル市場の開拓も進めた。こうしてローカル市場と両軸展開を図る〝気仙沼発のグローカル企業〟として存在価値を高めてきた。
2011年に起きた東日本大震災のわずか10日後には商品出荷体制を整えられたのも、こうした強固な経営基盤があったことが大きい。だが、震災時に全社屋と工場を失ったダメージは甚大だ。 「とにかく必死でした。従業員やそのご家族の安否をいち早く確認し、その後、一時的に海外工場での生産に100%切り替えました。気仙沼では電話もつながらないほどインフラは壊滅的でしたが、わが社の供給が止まって取引先に迷惑をかけるわけにはいきません。東京にある中堅商社の事務所の一室を借り、地元気仙沼では社長宅を営業本部として、被災した工場の片付けを進める中、本業を止めないように工夫しました」
そう当時を振り返るのは代表取締役社長の佐藤俊輔さん。「企業の復興=地域の復興」と捉え、全社一丸となって、今できることを懸命に模索したという。
既存の製品をベースに独自の6次産業化を図る
震災復興に向け、気仙沼市外、県外から連日多くのボランティアが押し寄せた。復興に向けた新たなコミュニティが形成されると、その中に佐藤さんの姿もあった。その経験を通じて地域貢献への気持ちが高まり、BtoBからBtoCへのビジネス転換を図る。 「戦略的なシフトというより、一般のお客さまにダイレクトに商品をお届けしたい一心です。加えて水揚げ量の低調、鮮魚よりも調理済みの加工食品が好まれる時代の潮流も考慮して、自社のカニのむき身加工商品に付加価値を付けた商品開発に挑戦しました」
〝素材から惣菜へ〟を新コンセプトに、11年6月に新ブランド「かに物語」が誕生する。原料のまるずわいがには、〝幻のカニ〟と呼ばれるほど希少性が高く、同社では震災前よりアフリカのナミビアで漁獲し、船上でボイルして瞬間冷凍し、自社に持ち込んでむき身加工する仕組みを確立していた。この一気通貫型加工ができるオンリーワンの強みを生かし、製造・販売まで手掛けた6次産業化に打って出たのだ。11年11月、復興屋台村気仙沼横丁にブランド名と同名の店舗「かに物語」をオープンさせ、経営陣、従業員問わず店に立った。
復興イベントとして都内の大手百貨店にも出店し、同年12月にはオンラインショップも開設した。
ふるさと納税に寄与し空き家対策にも着手
気仙沼発のオンリーワン商品として「かに物語」を成長させるべく、BtoC対象の直販チームをつくり、新しい市場開拓を目指した同社。13年、まるずわいがにが気仙沼の地域資源に認定されると、翌年には前述の復興屋台村のアドバイザーを務めた世界的に有名な山形県のイタリアンレストラン『アル・ケッチァーノ』の奥田政行シェフとのコラボレーションが決まる。PRやシェフ考案のレシピが話題となり、14年7月再開の観光物産館「海の市」には「かに物語」の新店舗ができて地域が湧いた。
宮城県のふるさと納税返礼品としても注目を集め、18年には雑誌『MONOQLO』(晋遊舎)のカニ肩脚肉で1位を獲得。『日経トレンディ』(日本経済新聞社)でもふるさと納税ランキングの上位に上がる。気仙沼市の22年度のふるさと納税寄付額は約49億3900万円と東北一を記録したが、なんと23年度には2倍近くとなる約94億8600万円と過去最高額をマークした。 「寄付金は小中学校の給食無償化や第二子以降の保育料無償化、待機児童ゼロ実現に向けた人員の拡大に充てられていると聞いています。その一助になれてうれしいですし、従業員の士気向上にもつながっています」と佐藤さん。
はばたく中小企業・小規模事業者300社や地域未来牽引企業、健康経営優良法人に認定され、震災から13年が過ぎた今も、地域を牽引し続けている同社。近年では総合エネルギー事業の一環として、空き家活用事業も始めている。 「地元の唐桑地区には、〝唐桑御殿〟と呼ばれる立派な日本家屋が多く、それらの空き家問題が深刻化しています。空き家にしておくにはあまりにももったいない建物ですし、地域のライフラインを支えるのも自社の役割と捉えています」
空き家に新たな価値を生む、同社の挑戦は始まったばかりだ。
会社データ
社 名 : 株式会社カネダイ
所在地 : 宮城県気仙沼市川口町1-100
電 話 : 0226-22-2480
HP : https://www.kanedai-kesennuma.co.jp
代表者 : 佐藤俊輔 代表取締役社長
従業員 : 140人
【気仙沼商工会議所】
※月刊石垣2024年9月号に掲載された記事です。
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