今年度のYEGフラッシュは、商工会議所(親会)とYEGの良好な関係をご紹介します。タイトルの「藍と青」は、渋沢栄一翁の生家の家業が藍農家であったことから、藍を親、青をYEGとし、一般的にいわれる師弟のことではなく、「君子曰く、学は以て已(や)むべからず(学問は中断してはいけない。努力すればするほど精錬されて優れたものになる)」という本来の意味に立って取材します。
金属加工のまち、新潟県燕市。江戸時代に農家が始めた和釘づくりがそのルーツとされ、今ではプラスチックや紙などの素材も加わり、多様なものづくりが集積する。時代に合わせて変化し、発展し続けるこのまちの地域経済を支えるべく奮闘している燕商工会議所と、順調に会員数を伸ばす燕商工会議所青年部。そのキーマンたちに将来に向けた視線の先にあるものを伺った。
地域に活力を与える協同事業で風通しの良い関係に
燕商工会議所(以下、親会)と燕商工会議所青年部(以下、YEG)は、協同事業として「婚活事業」と「飛燕夏まつり」に取り組んでいる。前者は行政からの支援を受けず、親会からの委託事業としてYEGが毎年主催する。背景には、製造業中心の中小企業が多い地域で、後継者不足に直面している状況がある。燕市の特徴である、ものづくりを体験できる婚活イベントを通じて出会いの場を提供しており、少しずつ成果を上げている。
飛燕夏まつりでは、大人数で担ぐ「燕1000人みこし」に登場するオリジナルみこしの製作に、33年前からYEGが携わる。一枚の銅板をたたいてつくる鳳凰や勾玉などでみこしを飾る。伝統工芸と金属加工技術の粋を集めた見事なみこしが祭りに彩りを添える。また会場の一画では、子どもたちがものづくりの楽しさを体験できる「チビッコ遊びの広場」の運営も担っている。プラ板の加工体験ができ、毎年500人から800人もの参加者でにぎわうという。 「このような事業を通じてYEGと親会は連携を深めていて、風通しの良い関係づくりが実現できています」とYEG会長の熊倉正人さんは語る。
YEG出身者が部会をけん引 新たな取り組みの土壌をつくる
親会の中心的存在なのが工業部会だ。部会はほかにも卸や運輸などがあるが、工業部会は会員企業数最大規模の950社余りで構成される。部会を取りまとめる正副部会長会議は、部会長、副部会長、前部会長など10人のメンバーで構成される。そこにオブザーバーとして、親会とYEG会長、市の商工振興課、金融機関理事長も加わり、月に一度、各活動や課題を協議する。また、企業視察や官民を巻き込んだセミナー開催なども予定し、積極的に情報発信することが部会の活動の中心だ。 「特徴的なのは、正副部会長会議メンバーのうち8人がYEG出身者、6人がYEG会長経験者であるということです。それに、YEG会長がオブザーバーとして参加することで、部会とYEGのベクトル合わせができていることも大きいです」と語ってくれたのは、工業部会長の本間尚貴さんだ。前述のイベントへの取り組みも、こうした関係性が役立っているという。
近年の企業活動においては、DX、IoT、SDGs、カーボンニュートラルなどへの取り組みが必要だ。そこで、若手経営者とのパイプが太い正副部会長会議メンバーが情報を吸い上げ部会の活動に生かしており、それが親会全体にも波及している。 「全てが最初からうまくいったわけではありません」と話すのは、同所専務理事の大澤則夫さん。「大所帯の部会なので、将来に向け、どのように攻めの活動をするか、あるいは守りに入るのか、考え方の方向性に違いが出ることがありました」という。
そこで、自らの企業で先進的な取り組みを行う部会長が、旗振り役として行政に働き掛け、補助金を新設するなどの成果が表れ始めると、周囲の企業もそれに続いて積極的に参画。今度は、部会のそのような積極的な活動に刺激を受けたYEGが、セミナーや地域の枠を超えた工場視察を行うなど、お互いの組織を刺激し合って好循環が生まれた。 「部会とYEGが緊密に情報交換できたことが変化につながりました」と熊倉会長は振り返る。燕市には産業界と行政など公的機関の距離がとても近いこともあり、補助金などのサポート体制の構築にスピード感を持って取り組める環境があった。「どんな企業でも新しいことを始めるのは大変です。そこで弊所では、小規模事業者持続化補助金、新潟県の新事業チャレンジ補助金など、昨年度だけで170件ほどサポートを行いました」と大澤専務理事。また、こうした動きを部会とYEGだけにとどめず、親会全体へも伝えられるように、中核企業30社からなる幹事会とも連携している。
YEGの積極的な行動が周りの人々を動かす原動力
「当YEGは再来年には設立40周年を迎えます。この先も『夢』を持って活動することが大切だと考えています」と熊倉会長はまっすぐに語る。また、親会や部会、新入会員の枠を超えた横の絆を深めるため、「絆レイディオ」というラジオ番組を始めた。 「昨年度は24人が新たにYEGに入会しました。大所帯になると、例会で話す時間が取れない会員も出てきます。その解消のため絆レイディオでは、20分程度の番組ですが、毎回、会員企業を招いて事業や社長の人物像を深掘りしたり、近隣の三条YEGや加茂YEGと対談したりしながら楽しく収録しています。三条YEGとは、燕三条地域の工場を開放し、訪れた人が見学や体験をすることができる『工場の祭典』にも協力して取り組んでいます。親会からの手厚いバックアップがあって長年開催できています」と、熊倉会長は生き生きとした表情で話した。
サービス業などものづくり以外の業種の会員も増えていて、YEG組織内の委員長に初めて女性が抜てきされるなど、多様な視点を運営にも取り入れる。続いて熊倉会長は「将来を見据えて地域の発展に貢献することがYEGの存在意義だと、みんな使命感を持って活動しています」と語った。
燕市は2050年ゼロカーボンシティ宣言を行った。しかし、主産業の製造業がカーボンニュートラルをどう進めるか、手探りな状況が続いている。「YEGが中心となって若い斬新な発想で取り組んでほしいですね」と本間部会長は期待を込めて言う。また、「人口が減っていく社会で、YEGの会員数が減っていないのは、さまざまな活動を積極的に取り組んできた成果だと思います。そのエネルギーが地域を支える原動力となるのは間違いありません。将来を見据え地域活性化を担う自負があれば、親会とYEGのベクトルは必ず同じになり、ともに力を発揮できると思います」と語る熱い言葉に、一同が大きくうなずいた。
【燕商工会議所】
会 頭 : 田野 隆夫
会員数 : 1769人
設 立 : 1949年
住 所 : 新潟県燕市東太田6856
HP:https://tsubame-cci.or.jp/
【燕YEG】
会 長: 熊倉 正人
会員数: 113人
創 立: 1981年
スローガン:「絆 ~夢を追いかける同志とともに燕ここにあり~」
HP:https://tsubame-cci.or.jp/yeg/
編集後記
桜井 寛之(小牧YEG)
教科書にも載るほど金属加工で有名な新潟県燕市。そのような伝統的な産業のまちにも、DXやIoT、SDGsやカーボンニュートラルへの対処など、世界の変化の波が押し寄せてきていると、話の節々から感じました。そうした変化に対応するための取り組みを、率先して行っていくというのはYEGとして目指すべき姿であり、親会としっかり情報共有をしながら奮闘する燕YEGさんを参考に、自単会でも努めていきたいと思います。
取材:日本商工会議所青年部(日本YEG)広報☆ブランディング委員会 石垣チーム/写真提供:燕商工会議所青年部
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