今年度のYEGフラッシュは、商工会議所(親会)とYEGの良好な関係をご紹介します。タイトルの「藍と青」は、渋沢栄一翁の生家の家業が藍農家であったことから、藍を親、青をYEGとし、一般的にいわれる師弟のことではなく、「君子曰く、学は以て已(や)むべからず(学問は中断してはいけない。努力すればするほど精錬されて優れたものになる)」という本来の意味に立って取材します。
世界三大波濤(はとう)の一つに数えられる留萌(るもい)の荒波。かつて炭鉱とニシン漁で栄えたまちは、その荒ぶる大波を生む過酷ともいえる季節風を生かした自然エネルギー産業と港湾関連事業で変わろうとしている。変化の波を受け、地域の魅力をPRする新たなアイデアで動き出した留萌商工会議所青年部と、その成長を願い挑戦を見守る留萌商工会議所の思いを取材した。
祭りの花形を任され少人数ながらも躍動
2024年7月27日。留萌市の中心市街地を大小さまざまな「あんどん」と呼ばれる山車が練り歩く。その中でも最大を誇る高さ7m、長さ20mの「広報あんどん」を引くのは留萌商工会議所青年部(以下、YEG)だ。
この祭りの前身となる留萌商工港まつりを含め、今年で76回目となった「るもい呑涛(どんとう)まつり」は、留萌の夏を告げる一大イベントである。実行委員会が主催し、官民の諸団体が加わって開催されるが、その中心は留萌商工会議所(以下、親会)だ。親会の役員、議員が総出で沿道警備に当たり、運行管理も行う。親会は、もともとは別の団体のものだった「広報あんどん」をYEGに預け、祭り全体の広報活動を全面的に任せている。YEGメンバーは、親会の期待を受け、市民の力を借りながら祭りの成功に向けて全力を尽くす。
一時は60人を超えていたYEGだが、人口減少の影響もあり今の会員数は29人。しかし、YEGの松村剛会長は「自己研鑽(けんさん)だけでなく、まちを盛り上げるために何かしたいという思いは強くなっている」と語る。これまでは同じメンバーが役職に就いていたが、今年度は「挑戦」のスローガンの下、入会歴の浅いメンバーが役職を得て活躍し、新しいメンバーを誘う流れをつくる取り組みを行っている。
新たな挑戦への支援が当たり前でない理由
今年、YEGは新たな試みとして、留萌市のふるさと納税返礼品への商品登録事業に挑戦することを決めた。19年度は約2億8000万円だった留萌市のふるさと納税額は、22年度には約10億5000万円、23年度には約21億円と年を追うごとに増えていた。このデータに着目したYEGは、さらに同市の魅力をPRするために、メンバー個々の企業ではなくYEGが主体となって出品することにした。
YEGが企画しているふるさと納税の返礼品は、何と“雪”。例年12月には積もり始める留萌の雪を、雪だるま型の発泡スチロールに入れ、人気の海産物などとセットにして売り出す作戦だ。売り上げはYEGの事業費に充てていく。松村会長は「一つの企業の商品だとその企業しか利益が出ませんが、われわれのような団体だとあちこちの企業から集めて詰め合わせにすることができます。それで留萌を盛り上げていきたい」と意気盛んだ。
そうはいっても、ふるさと納税返礼品事業者としてインボイス制度の登録番号を申請するには、親会の協力が不可欠である。また、事業を行うには資金も必要だ。YEGの予算だけで挑戦するには心もとない。親会はYEGに対し、常議員会でプレゼンテーションし、可決されたら予算を付けることを約束した。
親会の大石昌明会頭は「当初、ふるさと納税に挑戦する話をYEGから聞いたとき、留萌の魅力を発信したいということと、留萌のふるさと納税に興味を持って、それをどうにか自分たちで商品開発したいと考えた人が出たのは良いことだと思いました。ただ、親会のお金は地域の商工業者から付託された浄財だということを忘れてはいけません。YEGにもそれをしっかり理解してもらい、地域のためにやりたい事業があれば必要な分だけ常議員に提案をしてほしいと松村会長に求めました」と語る。
親会は、これまではYEGに対して予算を付け、北海道ブロック大会の誘致やYEGの事業などを後押ししてきた。親子二代にわたってブロックの代表理事を輩出したのは、北海道ブロックでは留萌だけである。ただしその予算を捻出する親会の運営は、60人の議員の年会費と577会員事業所の会費で成り立っている。さまざまな催しに多額のお金がかかり、決して余裕のある状況ではない。大石会頭はYEGに対して、これからも事業費の出所や使い方をきちんと考えてほしいからこそ、簡単に予算を捻出することは決してしない方針だ。 「ぱっと聞くと厳しいと思ってしまいますが、よくよく考えれば親会の優しさだと理解できます。メンバーにもその思いを伝えたいです」と松村会長は前向きに受け止めている。納得できる事業の提案があればいくらでもYEGを支援するという意向を示しながら、あえて課題を与えたところに親の愛を見た。
青年経済人の成長がまちの希望
「親会の役員・議員、職員も、一つのピースとして皆でまちを盛り上げていくことが大事です。一人一人が動くことでこのまちが良くなると確信しています」と大石会頭。さらに「何かを与えられるのではなく、何をするかは自分たちで考えて決めてほしい。まちの活性化にいかに真剣に取り組んでくれるかを期待して見守っています」とYEGに自ら箸を取ることを求めている。それは、留萌の10年後、20年後の産業を担う人材は、ほかでもないYEG世代だからだ。
留萌市は人口1万8000人余りのまちである。炭鉱は閉じ、ニシン漁もかつての勢いはない。鉄道も廃線となってしまった。しかし、1952年に重要港湾に指定された留萌港は、今年4月に海上自衛隊や海上保安庁の艦船も利用する特定利用港湾に選定された。国民保護や災害時の対応のため、港の整備に国の予算が付く。港の整備のために人が集まり、集まった人がまた人を呼ぶ。強烈な季節風を生かした自然エネルギー産業とともに、港湾関連事業はこれからのまちの中核産業となるはずだ。そのようなとき、まちを知り尽くし、当事者意識を強く持って地域の産業を担う多くの青年経済人が活躍していれば、こんなに心強いことはない。
ふるさと納税返礼品への商品登録事業もまた、YEGにとって多くの経験を積める絶好の機会となる。大石会頭は「成功しても失敗しても、自分たちの経験や業績として積み上げていってほしいですね」と穏やかに笑い、松村会長は「うまくいくかは分かりませんが、購入してくれた人に喜んでもらえる商品を開発できるよう精いっぱい努めたいです」と意気込みを示した。
【留萌商工会議所】
会 頭 : 大石 昌明
会員数 : 577人
設 立 : 1947年
住 所 : 北海道留萌市錦町1-1-15
HP:https://www.rumoi.or.jp
【留萌YEG】
会 長 : 松村 剛
会員数 : 29人
創 立 : 1991年
スローガン :「挑戦」〜勇往邁進 we can do it !〜」
HP:https://rumoi-yeg.net/
編集後記
村本 静(宮古島YEG)
松村会⻑の掲げる「挑戦」のスローガンの下、各自が当事者意識を持ち「⾃らやらなくては」と果敢に活動に励む留萌YEGと、それを温かくバックアップしながら期待を寄せる親会の絆は、留萌の⻩⾦岬から望む海よりも深く、波濤よりも強く結ばれていることを感じました。 今回、取材にご協⼒を賜り、⼼より感謝申し上げます。皆さまの⼼がたくさんの夢であふれ、⼼豊かに過ごせますように。うれしい便りであふれますように。
取材:日本商工会議所青年部(日本YEG)広報☆ブランディング委員会 石垣チーム/写真提供:留萌商工会議所青年部
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