ブランドストーリーとは、自社商品の強みや魅力をストーリーに沿って訴求すること。昨今のヒット商品にブランドストーリーが欠かせないのは、「モノよりコト」に重きを置く消費者が増えていることが理由の一つに挙げられる。地域に根差し、地産の良さに誇りを持って大事にブランド=商品を育てている女性経営者のこだわりとは―。
かわいらしく親しみやすい 女性の視点取り入れた曲げわっぱを製作
曲げわっぱ工房 E08(いーわっぱ)は、秋田県大館市の伝統工芸品「大館曲げわっぱ」をつくる女性伝統工芸士が営む工房である。代表的な弁当箱をはじめ、小物入れやアクセサリーなど、女性客の要望に応えた、かわいらしく親しみやすい商品を製作・販売している。「E08」というユニークな工房名は、語呂合わせで通称「いーわっぱ」と呼ばれているという。業界では女性初の独立開業とあって、マスコミから取り上げられ、全国の百貨店の催事に出店するなど注目を集めており、若手職人の育成にも力を入れている。
大館の曲げわっぱ業界初 女性職人の独立開業
秋田県大館市にある曲げわっぱ工房 E08は、2022年に誕生した新しい工房である。小判型や丸型など形や大きさがさまざまな弁当箱をはじめ、ごはんを入れるおひつ、しゃもじなどのカトラリー、小物入れやアクセサリーなど、曲げわっぱの材料や技術を使った多数の商品を製作・販売している。 「曲げわっぱを買ってくださるお客さまの8割以上は女性です。私自身もお弁当をつくるので、女性の声を生かしたものづくりをしたいと思っていました」と言うのは、代表の仲澤恵梨さんである。
仲澤さんは大館市出身で、子どもの頃からものづくりが好きだったため、地元の短大を卒業後、曲げわっぱを製造販売する老舗企業に入社した。厳しい職人の世界で研さんを積み、16年には、経済産業大臣指定の伝統的工芸品の製造に従事する技術者の中でも高度な技術・技法を保持する「伝統工芸士」の資格を取得した。伝統工芸士として、県内外の百貨店で行われる催事なども担当するようになり、曲げわっぱを購入するお客さまと直接話すことが増え、新たな商品開発の気付きを得たという。 「伝統的な曲げわっぱの弁当箱よりも小さいサイズや、形が違うものが欲しいという声がありました。会社にそういう提案をしたのですが、商品化するのは難しかったんです」と言う仲澤さん。お客さまの要望に応えたいという思いが募り、独立を目指して、約20年勤務した会社を退職した。
その後、大館商工会議所が主催するビジネスセミナーを受講して相談したところ、心強い職員に出会ったという。「まるで自分のことのように考え、何でも一生懸命に教えてくれた」というその職員から、仲澤さんは事業計画書の書き方や融資の受け方などのアドバイスを受けた。独立に当たり、仲澤さんの夫をはじめ家族も応援してくれた。実家の倉庫を改装して工房兼ショップとし、22年に独立開業する。大館の曲げわっぱ業界では女性初の工房で、地元銀行のビジネスコンテストではチャレンジベンチャー賞を受賞した。
お客さまの要望に応える 親しみやすい女性職人
業界では女性初の独立開業だったため、仲澤さんは地元のマスコミから注目され、さらに全国放送のテレビ番組などでも取り上げられた。その反響は大きく、注文が一気に入ったり、全国各地の百貨店などから催事出店の声が掛かったりした。催事に出店して接客すると、さまざまな要望があった。中には「茶道で使う茶碗を入れる曲げわっぱが欲しい」というオーダーもあったそうだ。そうしたオーダーでも、仲澤さんは基本的に「型の代金」を加算しない。最初はオーダーメードとしてつくった商品でも、後に同じ型を自社商品として販売するためで、こうした対応により、同工房の商品の種類は日々増え続けている。 「今までの曲げわっぱ業界は、威厳ある男性職人が多かったので、お客さまが気軽に声を掛けにくかったのだと思います。私はもっとハードルを下げて、親しみやすい工芸品にしたいです」と言う仲澤さん。曲げわっぱの材料を使ったアクセサリーをつくるのもハードルを下げる一環で、1個1万円以上する曲げわっぱは買えないが、数千円のアクセサリーなら買えるという若者向けに製作しているという。また、仲澤さんが独立したことにより、同世代のものづくり仲間から誘われてコラボ企画商品をつくったり、地元の学校や企業から声を掛けられて講演会やワークショップを開いたりと、活躍の場が広がった。「人とのつながりを大事にしているので、いろいろな人の期待に応えられる存在でありたい」と語る。
若手をほめて育てて伝統工芸を後世に伝えたい
仲澤さんは以前から、若手職人の育成にも力を入れており、それも独立開業した理由の一つだという。 「私は先輩職人に厳しく育てられましたが、今の若い人たちは、怒られることに慣れていないので、ほめて育てていくことが必要だと思います」と言う仲澤さん。同工房で仲澤さんと一緒に働いているのは、「私の右腕ならぬ両腕」と呼ぶほど信頼している、後輩の佐藤江里子さんである。今後は、若手が入ってきたら、一人前の職人になるための場にしたいという。 「自分の工房を大きくしたいとは全く考えていません。若い人がここで働いて、実務経験を積んで出ていくという場所にしたいです」と仲澤さん。伝統工芸士として、受け継がれてきた大館の曲げわっぱを、絶やすことなく後生へ伝えていきたいと力を込めた。
会社データ
社 名 : 曲げわっぱ工房 E08(まげわっぱこうぼう いーわっぱ)
所在地 : 秋田県大館市二井田字村下165-2
電 話 : 0186-99-0505
HP : https://e08.jp
代表者 : 仲澤恵梨
従業員 : 4人
【大館商工会議所】
※月刊石垣2024年11月号に掲載された記事です。
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