ブランドストーリーとは、自社商品の強みや魅力をストーリーに沿って訴求すること。昨今のヒット商品にブランドストーリーが欠かせないのは、「モノよりコト」に重きを置く消費者が増えていることが理由の一つに挙げられる。地域に根差し、地産の良さに誇りを持って大事にブランド=商品を育てている女性経営者のこだわりとは―。
山形の有機米や野菜を使った 安全安心なアレルギー対応離乳食をつくる
keiki li'ili'i(ケイキリィリィ)が売り出した、自然の恵みたっぷりの離乳食「太陽と月のひかり」が評判を呼んでいる。地元・山形の豊かな大地と、きれいな水や空気、それらが育む米と野菜を使い、安全安心なおいしいごはんをたくさんの子どもたちに届けたいという思いから、同社の商品が生まれたという。「山形市創業アワード2023」最優秀賞を受賞するなど評価され、子育て世代から支持を得ている。
アレルギーの子ども向けに自身の経験を基に起業
山形市にあるkeiki li'ili'iは、山形産の有機米や有機野菜、農薬化学肥料不使用野菜を使い、添加物・アレルギー特定原材料28品目不使用で、アレルギーのある子どもでも安心して食べられる離乳食「太陽と月のひかり」を製造販売している。代表の浅野佳織さんは5人の子どもの母親で、同社の社名はハワイの言葉で「小さな愛らしい子ども」という意味だそうだ。また商品名は、自分の子どもたちの名前が太陽と月に由来することから名付けたという。浅野さんは2018年に4人目の子どもを産むまで専業主婦だったが、その子が重度の食物アレルギーだったことが起業のきっかけとなった。 「4人目の子にアレルギーの発作が起きて、何度も病院に駆け込みました。アナフィラキシー(アレルギーの原因となる物質が体内に入ることにより、複数の臓器や全身に症状が起こり、生命に危険が及ぶ過敏反応)が起きるのではないかと怖くて、買う食品や食材は成分表示を何度も何度もチェックしたり、誤食を防ぐために家族の食べるものを制限せざるを得なかったりと、戸惑いと不安だらけの日々でした」と言う浅野さん。そのような中、アレルギーの子の食事で悩んでいる親が多くいることを知り、同じ経験をした自分に何かできないかと、保健所などでレトルト食品や乳児用規格適用食品について猛勉強した。さらに山形商工会議所の創業セミナーに参加し、20年9月に同社を設立した。
有機農家を探して仕入れ 素材を生かす
会社設立後、アレルギー対応離乳食の商品化に向けて本格的に取り組み始めた。浅野さんは、実家の両親がすし店を営んでいたため、四季折々の旬の素材の味を大切にする環境で育った。このため、離乳食にもこだわりたいと思っていたという。 「赤ちゃんが食べる離乳食は、その子の食の基礎をつくります。食材にはそれぞれに旬があり、なぜその時期においしいのかということも、離乳食で教えてあげたい」と浅野さん。まず、山形県内で有機米や有機野菜、農薬化学肥料不使用の野菜をつくっている農家をインターネットで探し、直接会いに行って畑や田んぼを見て、契約農家を決めた。それらの農家から仕入れた米や野菜を使い、素材の味と色をそのまま生かして、無添加で手づくりの離乳食の試作をしたが、なかなかうまくいかなかったという。 「これまでも子育ての経験があるので、家庭用には何度も離乳食をつくってきました。でも、業務用の釜を使ってつくると、材料の配合が違ったり、レトルトにすると野菜のきれいな色が出なくなったりして、何度もやり直しました」と言う浅野さん。試作に試作を重ね、試行錯誤しながら、山形産の米「つや姫」を使ったおかゆや季節の野菜のペーストなど、赤ちゃんの月齢に合わせて離乳食の大きさやかたさを調整した商品のレシピをつくり上げた。具体的には、月齢5カ月頃用の野菜のペーストは、すりつぶしてほとんど固形物がない状態で、月齢に合わせて少しずつ粗みじん切り状態になり、月齢11カ月以上用では小さな角切り状態になっている。また、パッケージにもこだわった。デザインは「ママ友」でもあるデザイナーに依頼し、赤ちゃんの視覚に届くように明るい色を用い、山形の自然の恵みと大地のパワーを表現している。
オンライン販売で好評 大型商業施設も扱う
こうして商品化されたアレルギー対応離乳食「太陽と月のひかり」は、21年3月に販売が開始された。価格は1食400円以上と安くはないが、オンラインストアで販売したところ、全国から注文が相次いだ。購入者から「こういう離乳食を探していた」という声が届き、アレルギーの子の食事について相談が寄せられることもあった。浅野さんは「お客さまのニーズに応えてあげたい」という思いが強くなっていった。 「この離乳食によって、私のようにアレルギーの子の子育てで大変な思いをしている親御さんが、少しでもハッピーになってくれたらと思いました」と言う浅野さんは、さらに試作を重ねて商品の種類を増やしていった。赤ちゃんの月齢に合わせて離乳食の大きさやかたさを調整している上、季節によって素材が変わるため、200種類以上つくった。
同社の商品は徐々に評判となり、22年には地元のオーガニックセレクトショップの店頭で取り扱われるようになった。「実は、当社の離乳食は価格が安くないので、地元の山形ではあまり売れないと思っていたんです。でも、地元でも売れていると知ってうれしかったですね」と言う浅野さん。「より多くの子育て中の人が手に取ってくれるように」と、全国展開する大型ショッピングモールの本部に電話をかけ、商品を取り扱ってくれるように直談判したそうだ。浅野さんの積極的な行動により、最初は大型ショッピングモールの山形市内の店舗で、続いて隣県である宮城県内の店舗でも、同社の商品が店頭に並ぶようになった。コロナ禍後には、初めて試食販売会を開催し、来場した家族連れから好評だった。中には、野菜嫌いの子どもが同社の商品を食べて笑顔になったこともあったそうで、浅野さんは「こういう子どもと親御さんの笑顔を増やしていきたい」とうれしそうに語る。商品の販売数は、販売開始の21年は年間数百食だったが、現在では年間約2万食になっているという。
離乳食で地域の子育て支援 今後は大人向け商品なども
同社の取り組みが認められ、23年には「山形市創業アワード2023」最優秀賞を受賞。さらに同年、離乳食を通じて地域の子育てを支援しているとして「山形エクセレントデザイン」にも入賞した。同社では、アレルギーや離乳食づくりに悩む親に向けた食育講座も展開していて、「子育てする人たちに、いつも寄り添える存在になりたい。離乳食の新時代をつくりたい」と語っている。少子化や子育て対策の一環として同社の商品を使ってもらえるよう、行政などへも働き掛けている。
同社では今月、離乳食以外で初めての商品となる菓子の販売を開始する予定にしている。また、米や野菜を使った大人向けのドレッシングなど新商品も開発しているほか、子育て中の親と子どもたちが安心して食べられる食事と、周囲を気にすることなく過ごせる居場所を提供するカフェも構想中だ。「赤ちゃん向けという枠を超えて、農産物の力や安全安心な食べ物を全ての人に届けたい」と、浅野さんは将来の展望を語った。
会社データ
社 名 : keiki li'ili'i株式会社(ケイキリィリィ)
所在地 : 山形県山形市飯田1-2-41
電 話 : 023-674-6230
HP : https://taiyototsukinohikari.com
代表者 : 浅野佳織
従業員 : 3人
【山形商工会議所】
※月刊石垣2024年11月号に掲載された記事です。
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