担い手不足や海外との価格競争など原因は数多くあるが、国内の一次産業が衰退していけば、地域経済も疲弊することと同じ意味を持つ。こうした背景に危機感を持ち、農林水産業を積極的に支援して、新たな雇用を生み出すとともに地域活性化に貢献している企業がある。
独自の乾燥機を開発して地域食材の活用や商品化に貢献
1998年に設立した沖友は、親会社である西光エンジニアリングと協力し、世界に先駆けて「マイクロ波減圧乾燥機」の実用化に成功した。これにより食材を無添加で短時間に乾燥することが可能となり、ドライフルーツの商品化を果たしたほか、お茶や果物、野菜などを乾燥・粉砕してさまざまな食品に活用するなど、地域の農産物の特産品化にも貢献している。
機械メーカーが開発した乾燥機で食品製造に乗り出す
食品を乾燥させる際、一般的に熱風を当てて水分を蒸発させる。しかし、この方法では食材の外側が先に乾燥し、内側は完全に乾燥しない状態となる。そのため油で揚げて水分を飛ばしたり、砂糖を添加して糖度を上げたりすることで、常温でも保存が利くようにしている場合が多い。
一方、西光エンジニアリングが実用化に成功した「マイクロ波減圧乾燥機」を用いると、マイクロ波が水分のあるところに効率良く反応し、短時間で食材を乾燥させることができる。そのため油や砂糖などを使わず、食材本来の風味をギュッと凝縮できる。そうして商品化されたのがドライフルーツ「SUGOKAN」だ。 「『スゴい新カン燥、新カン覚、新食カン』を略して付けた商標で、マイクロ波減圧乾燥機で乾燥させた商品をそう呼んでいます」と同社社長の岡村守久さんは説明する。
同社はもともと、お茶の焙煎機や乾燥機などを開発する機械メーカー、西光エンジニアリングの乾燥機の販売を担う会社として設立した。その傍ら、杜仲茶を製茶して日本茶のようにおいしく飲める「緑の杜仲茶」を商品化する。 「食品を扱うのにエンジニアリングと付いた社名ではどうかということで沖友を設立しました。当時、沖縄のもずくを洗浄してから塩漬けにする一連の工程を自動化した製造ラインをつくって沖縄の漁協に納品したご縁と、前社長の父が沖縄好きだったことが社名の由来です」と岡村さんは笑う。
地域の農産品を乾燥・粉砕し多方面に有効活用
その後同社は開発された機械を使って、もずくを塩漬けせずに急速冷凍した冷凍生もずくや乾燥もずくなどを次々に商品化していく。塩漬け・塩抜きという工程がないのでもずく本来の歯応えを楽しめ、甘酢やめんつゆ、ドレッシングなど味付けのバリエーションも豊富で、イベントなどで好評を博す。ただ、販路の開拓はスムーズにいかなかった。 「味の付いていないもずくは大量に出回っている商品ではないので、スーパーや小売店の棚に並んでいても埋もれてしまい、なかなか手に取ってもらえません。そこで調理法や有効成分が豊富なことを丁寧に説明できる通販をメインにしたところ、全国に販売網を広げることができました」
もずくの加工を機に次世代型乾燥機の開発に乗り出した同社と西光エンジニアリングは、マイクロ波を併用した乾燥方法に着目する。マイクロ波を照射して食材の中心まで水分子を振動させることで急速に発熱・蒸発させるため、食材をムラなく乾燥できる。さらに乾燥炉の中を真空に近い状態まで減圧することで、通常の水の沸点が100℃なのに対し約40℃で沸点に達する。それにより水分は蒸発するが、食材は煮えているわけではないので色や香りを損なわず、成分も破壊されずに無添加の乾燥が可能になる。 「これはもともと九州工業大学が持っていた特許技術です。これを応用して乾燥機をつくろうとしていた会社はほかにもありましたが、西光エンジニアリングが世界に先駆けて実用化に成功しました」
マイクロ波減圧乾燥機の開発により、同社は地域の農産物の乾燥に乗り出す。特産のミカンやイチゴをはじめ、野菜やハーブ、あんこなど乾燥実績は多岐にわたり、ドライフルーツとして商品化したり、それを緑茶とセットにして販売したり、乾燥品を粉砕してクッキーやベーグルなど焼き菓子に混ぜたりするなど幅広く活用されている。こうした農商工連携の取り組みが評価され、2020年に中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定されたほか、数々の賞を受賞している。
新たな濃縮乾燥機の開発で「液状茶」の販路拡大に挑戦
同社は現在、マイクロ波減圧乾燥機を活用した新たな事業に取り組んでいる。その一つが、セルロースナノファイバー(CNF)の濃縮だ。CNFは、セルロースを主成分とする食物繊維をナノメートルサイズまで微細化した素材で、食品用CNFの製造と用途開発、市場の創出を目指している。特に力を入れているのは、CNF濃縮乾燥機の開発と藤枝茶を活用した「液状茶」の製造・販路拡大だ。液状茶とは、茶葉を粉末状よりさらに細かく砕くことで、色、味、香りを保ちながら有効成分全てを利用した液状のお茶のことだ。 「これまでさまざまな乾燥にトライしてきました。そもそも乾燥に向かないものもあるし、乾燥できてもお客さまが求める食感にならないものもあったりして試行錯誤の連続です。でも、農産物が豊作で余ってしまったとき、乾燥して粉にすれば保存ができ、後から活用法を考えることもできます。本当は乾燥機本体が売れてほしいけれど、わが社が役に立てることなら何でもやりたい」
現に「こんなものを乾燥できないか」という問い合わせを受けたり、行政から紹介されたりすることも多いそうで、地域の農業を持続させるために、損得抜きに知恵を絞っていきたいと岡村さんは抱負を語った。
会社データ
社 名 : 株式会社沖友(おきゆう)
所在地 : 静岡県藤枝市高柳3-30-23
電 話 : 054-636-3700
HP : https://okiyu.jp
代表者 : 岡村守久 代表取締役
従業員 : 4人
【藤枝商工会議所】
※月刊石垣2024年12月号に掲載された記事です。