担い手不足や海外との価格競争など原因は数多くあるが、国内の一次産業が衰退していけば、地域経済も疲弊することと同じ意味を持つ。こうした背景に危機感を持ち、農林水産業を積極的に支援して、新たな雇用を生み出すとともに地域活性化に貢献している企業がある。
再生可能な木質資源で循環型経済に貢献していく
瀬戸内海に面した広島県呉市に本社がある中国木材は、全国の沿岸部を中心に14カ所に拠点を持ち、木材の製材および乾燥材・集成材の製造、木材の物流・販売、山林経営などを行っている。同社は拠点各地での雇用創出に大きな役割を果たすだけでなく、「人と環境のことを一歩進んで考える」という経営理念の下、1万ha超の自社保有林による二酸化炭素削減など、環境保護にも取り組んでいる。
自然災害をきっかけにして強度表示のある木材が注目
中国木材は、ベイマツの産地である北米と自社工場を大型原木船で直結し、米国から日本に輸入されるベイマツ丸太の約95%を使用。住宅構造用部材の乾燥材「ドライ・ビーム」や、国産スギとベイマツを組み合わせた異樹種集成材「ハイブリッド・ビーム」などを製造し、全国に供給している。
独自工程により乾燥・加工した「ドライ・ビーム」は建築後の縮みが少ない無垢材、「ハイブリッド・ビーム」は外層部に強くてたわみにくいベイマツを、内層部に軽くて粘りのあるスギを使用した集成材である。同社の供給量を全国の横架材需要量に換算すると、1年間に建築される木造在来軸組工法の住宅40万戸のうち、約3軒に1軒が同社の製品を使用していることになる。しかし、1980年代後半に開発したドライ・ビームは、当初はあまり売れなかったと社長の堀川保彦さんは言う。 「普通の木材で不都合がないのに、乾燥させた値段の高い木材など使う必要があるのかというのが理由です。その状況を変えたのが、95年に発生した阪神・淡路大震災です。当時の住宅建築では強度表示がされていない木材が使われていましたが、震災後は強度表示があるものが使用されるようになりました。それからは強度表示がある弊社の乾燥材、そして集成材が使われるようになってきたのです」
また当時、在来工法の木造建築に比べて耐震性が高く工期が短いツーバイフォー工法(柱や梁ではなく床や壁などで建物を支える構造)との競争力を高めるために、木材のプレカット事業も始めた。プレカットとは構造材の組み合わせ部分の加工などを工場で行うことで、これにより建築現場での作業が減り、工期短縮や加工精度の向上につながっている。
老齢木よりも若い木の方が二酸化炭素を3倍も多く吸収
製材、乾燥材、集成材、プレカットの4事業に新たに加わったのがバイオマス発電である。木材の人工乾燥には蒸気を使うが、96年に原木を仕入れた時についてくる樹皮や、製材時に出てくるオガ粉を燃料としたボイラーを稼働させた。さらに2005年にはその高圧蒸気で発電タービンを回し、次に木材乾燥に使うシステムを完成させた。とはいえ当初はまだ電気代が安かったこともあり、これで利益を上げることはできなかった。 「転機となったのは東日本大震災でした。全国の原発が停止して電力不足となった中、再生可能エネルギーが注目されるようになり、 FIT制度(固定価格買い取り制度)が始まってバイオマス発電が一気に高収益事業となりました」。現在は、ボイラーは全19基、うち発電も行うプラントが9基稼働している。
もう一つの新たな流れが、国産材の製材である。佐賀県西部の伊万里市に製材所を設け、05年から国産材の製材を始めた。今では今年から稼働を始めた秋田県の能代工場を含めて6拠点で国産材の製材を行っている。 「日本の高度経済成長期に、国産材は一度供給力を失いましたが、先輩方が植えられてきた木が伐期を迎えており、これをなんとかしたいという使命感から始めました。そしてもう一つが環境保護です。実は樹齢60年の木よりも20年の若い木の方が、二酸化炭素を吸収する量が3倍も多い。そのため、老齢木は伐採して活用し、新たに植樹していった方が、大気中の二酸化炭素をより多く削減していくことができるのです」
また、構造用材は大きく重いため物流費が大きくかかる。同社ではそれを抑えるために、港に接した広い土地を取得し、原木置き場、製材、乾燥加工、集成、バイオマス発電所を1カ所に集約し、事業拠点間は船舶輸送とするモーダルシフトで輸送コストを削減している。これによりトラック輸送による排出ガスを最小限に抑えられる利点もある。
地元の林業関係業者と連携しその地域の林業を盛り上げる
同社は安定して原木を調達するための補助として、山林経営にも取り組んでいる。現在保有している自社林は1万ha以上。伐採後の植林も行っている。また、工場が進出した地域では山林所有者、伐採業者といった関連業者と木材組合を結成し、地域の業界全体にメリットがあるよう取り組んでいる。 「進出する際には地元の林業関係の業者の方々に丁寧な説明をして、競合するのではなく連携して地域の林業を盛り上げようとしていることを理解していただいています。また、雇用の創出にもつながり、高齢者や女性の雇用拡大にも取り組んでおりますので、工場をいろいろな能力を発揮できる場所として提供できるのではないかと思っています」
製材業を長年続けるためには持続可能な山林が不可欠で、同社は35年前より「人と環境のことを一歩進んで考える」というキャッチフレーズを冠し、木質資源を余すところなく活用すること、山林経営にも取り組むなど環境保護に大きく貢献しているが、堀川さんは言う。 「それが地球温暖化対策で、別の意味も持つようになり、新たなビジネスにもつながりました。バイオマス発電もそうですし、所有林が二酸化炭素を吸収することで、J‒クレジット(国が認証する、二酸化炭素など温室効果ガスの排出権)創出の売却という新しい事業も生まれました。木材産業の活性化には大きな後押しであるとともに、環境保護の観点からも、今後は再生可能な資源を扱う林業の責任が非常に大きくなってくると思います」
環境保護をビジネスにつなげ、雇用創出による地方の活性化においても、同社は大きな役割をこれからも果たしていく。
会社データ
社 名 : 中国木材株式会社(ちゅうごくもくざい)
所在地 : 広島県呉市広多賀谷3-1-1
電 話 : 0823-71-7147
HP : http://www.chugokumokuzai.co.jp
代表者 : 堀川保彦 代表取締役社長
従業員 : 約2800人(グループ会社、派遣含む)
【呉商工会議所】
※月刊石垣2024年12月号に掲載された記事です。