新年度には新入社員を迎える企業も多いだろう。今や入社して1カ月もたたないうちに辞めていく新入社員も少なくないと聞く。もはや、「石の上にも3年」という言葉は死語かもしれない。それでは、新人を上手に育てている企業は何が違うのかー。
会社が自分の居場所と思える 「大家族主義」で社員の幸せを追求
徳島市にある西精工は、ナットを中心とするパーツを製造・販売している。事業承継を機に創業の精神に立ち返ったことで社内の雰囲気は良くなり、「大家族主義」を復活させて社員の幸せを追求している。同社は人づくりに力を入れており、社員が主体的に動くようになって、生産性も向上した。社員幸福度日本一の企業として評価され、数多くの経営賞にも輝いている。
祖父の創業の精神で改革し 人づくりにも尽力
西精工は、自動車や家電などに使用するナットを中心としたファインパーツ(=お客さまにとって価値の高い製品)を製造・販売している。1923年創業で、100年余りの歴史を持つ同社の五代目で社長の西泰宏さんは当初、家業を継ぐつもりはなく、東京の広告代理店に勤務していた。しかし、後継予定者の急逝により、98年に同社へ入社した。当時は、社内の雰囲気は暗く、人間関係も希薄だった。 「工場を見て回ったら、自分たちがつくった製品が床に落ちていても、誰も気にしないんですよ。これは大変な会社に来たと思いました」と振り返る西さん。まず、社内の雰囲気を明るくしようと、自ら積極的にあいさつと掃除をすることから始めた。また、多くの本を読み、講演会に足を運び、経営を学んだ。2008年、社長に就任すると、経営ビジョンや行動指針を制定した。さらに、創業者である祖父の仕事ぶりを知る人から話を聞き、次の五つを「創業の精神」として明文化した。①人間尊重の精神②お役立ちの精神③相互信頼関係の精神④堅実経営の精神⑤家族愛の精神、である。 「安全で快適な会社をつくるには、人と人との関わりが一番大切ですし、それが商売の基本です。それを祖父の精神から学びました」と言う西さん。創業の精神を社内の職場単位で唱和するなど、社員に浸透させて意識改革を図った。
「社員は大事な家族」 自己開示と対話を重視
同社の創業の精神のうち、「家族愛の精神」には「社員は一番大事な家族と一緒。大家族主義で社員の幸せを追求したい」という思いが込められ、同社の大きな特徴となっている。 「家庭の悩みなども含めて、どんどん自己開示しましょうと言っています。そうしたらみんな助け合えるし、喜び合えるでしょう」と語る西さん。自己開示することで、社員同士の距離が近くなり、子どもの学校行事などで休む場合でも言いやすくなるなど、心理的安全性が高められるようになった。また、家族ぐるみで社内イベントに参加する社員が増え、コミュニケーションが取りやすくなった。
同社では、創業の精神の下、毎日の朝礼に約1時間かけている。前述の自己開示にあたるプライベートな話題を話したり、「大家族主義とは何か」「顧客満足とは何か」などのテーマを設け、西さんと社員が対話したりする。社員からは、同僚や顧客との具体的なエピソードなど、さまざまな意見が飛び交う。この対話をもとに、共通の価値観を見つけて「西精工フィロソフィー」として共有する。これまでに約200ものフィロソフィーが集まった。このようなコミュニケーションが、社内のつながりをさらに強くしている。
幸せとは何か、という勉強会も開いている。「リーダーシップ勉強会」というこの会では、哲学や心理学をベースにした自己啓発本などを使い、西さんが自社のやり方に落とし込んで、一人一人が幸せに働けるための考え方や行動を学ぶ。例えば、仕事はやらされるよりも、自分から主体的に動いた方が幸福度が上がるという内容を、具体例を挙げながら話し、集まった参加者たちと対話をしている。
また同社では、会社の理念や精神を浸透させているだけではなく、各チームにもビジョンがあり、各人も自分の行動指針である「ミッション・ステートメント」を作成している。これを社内に貼り出し、目に見えるようにすることで、意欲を引き出している。これも西さんの「仕事をすることで、みんなが幸せになってほしい」という思いから生まれたアイデアである。
数多くの経営賞を受賞 全国から視察も相次ぐ
西さんが同社の改革に着手した当初、社内からは「雰囲気を変えることが生産や品質に関係あるのか」という疑問の声もあった。しかし、西さんが明文化した「創業の精神」が浸透すると、社内の雰囲気が明るくなり、社員が主体的に動くようになって、生産性も向上した。
同社は13年に「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 中小企業庁長官賞を受賞するなど、数多くの経営賞に輝いている。社員幸福度日本一の企業として呼び声が高く、全国から視察も相次いでいる。
同社をここまで育て上げた西さんに、社員の定着率向上の秘訣を聞いたところ、「ここなら自分の強みが発揮できる、自分らしくいられるというように、会社が自分の居場所だと思ってもらうことですね」と胸を張る。同社は、自動車や家電など変化の激しい業界とつながりが深いが、西さんは「人づくりを基点に、徳島から世界へファインパーツの極みを発信したい」と今後への意欲を熱く語った。
会社データ
社 名 : 西 精工株式会社(にしせいこう)
所在地 : 徳島県徳島市南矢三町1丁目11-4
電 話 : 088-631-7177
HP : https://www.nishi-seiko.co.jp
代表者 : 西 泰宏 代表取締役社長
従業員 : 約240人
【徳島商工会議所】
※月刊石垣2025年3月号に掲載された記事です。